全聚徳と言えば、中国で最も有名な北京ダックの名店だ。その全聚徳が2015年から外売(出前サービス)に対応したが、まったく消費者の心をつかむことができず、大きな損失を出して撤退をすることになったと今日頭条が報じた。
北京で最も有名な北京ダックレストラン「全聚徳」
全聚徳は、1864年創業のレストランで、それまで蒸し焼きにしていた鴨料理を、かまどの中であぶる調理法を開発、皮はパリパリで香ばしく、中の肉はふっくらとしているという現在の北京ダックが生まれた。清の時代に大人気料理となり、現在でも北京ダックの名店として、年商7億元(約120億円)、300万羽のアヒルを500万人に提供している。
現在でも、「北京ダックと言えば全聚徳」という人が多く、北京を訪れた旅行客は滞在中に必ず一度はいくほどになっている。
▲全聚徳は、北京、上海だけでなく、東京、メルボルンにも支店を出している。この中国で最も有名なブランドが岐路に立たされている。
外売サービスに対応をした全聚徳
外売は、2009年ごろから始まったサービスで、いわゆる出前サービスだ。特長は、既存の店舗の料理を出前してもらえること。例えば、全聚徳が外売サービスに対応していたら、利用者はスマートフォンなどから全聚徳のメニューを注文することができる。これを外売サービスが、スクーターで自宅や職場まで配達してくれるというものだ。数元の配達手数料が料金に上乗せされるが、食べ慣れている店の料理を注文できるという点が受け、現在、美団と餓了麼という2つのサービスが中国各都市でしのぎを削っている。
2016年になって、全聚徳はこの外売サービスに対応することを決意した。しかし、美団などの外売サービスにただ対応するだけでは意味がないと考えた。全聚徳にとって、売れる料理の数を多少増やしたところでさほど意味はないのだ。
▲提携レストランのメニューを自宅でも職場でも指定した場所に届けてくれる外売サービス。今、中国の都市では、食事時になると、この外売のバイクが大量に走っている。
ネット外売で、若者層にアプローチしようとした
全聚徳が危機感を持っていたのは、顧客層の高齢化だ。中高年以上には圧倒的に人気があり、どの店も予約をしないと入れない状態が続いているが、その分、若年層が店を訪れていない。大きな広間で北京ダックを食べながら、歌や踊りを楽しむという古いスタイル、高い料金、予約をしないと待たされるという不便さなどが嫌われ、20代、30代、家族連れなどの客層がつかめていない。
全聚徳は、外売への対応を、この懸案を解決するチャンスだと考えた。若い人に、店舗ではなく、自宅や職場で北京ダックを食べてもらおうと考えた。そのためには、ただ外売サービスに対応するだけでなく、クーポン配信や情報配信などのアプリ開発も見据えて、全聚徳全体を一気にIT化するため、鴨哥科技という子会社を設立した。株式の6割を全聚徳が所有し、外売の対応をしつつ、IT関係の環境整備をさせようというものだった。
▲香ばしい皮とジューシーな肉のアンサンブルを楽しむ北京ダック。清の時代に古い料理法しかなかった鴨料理を一新したのが全聚徳だった。全聚徳は、鴨料理にイノベーションを起こした。
不人気に終わった全聚徳の外売サービス
ところが、この鴨哥科技がまったくの失敗だった。数ヶ月で資本を食いつぶし、1年足らずで2000万元(約3億4000万円)の損失を出してしまった。2017年8月、全聚徳の2017年上半期の決算で、この問題がクローズアップされた。全聚徳の営業利益は7600万元(12億9000万円)であったのに、鴨哥科技のために2000万元の損失も同時に経常していた。鴨哥科技をこのままにしておくと、全聚徳の利益がすべて鴨哥科技に吸い取られることになりかねないと、全聚徳経営陣は、外売サービスから撤退をする方針を固めた。
なぜ、鴨哥科技は大きな損失を出したのか。答えは簡単で、外売の注文がほとんど入らず、売上が立たなかったからだ。全聚徳のような老舗ブランドが、外売利用者からそっぽを向かれたことは、全聚徳だけでなく、老舗飲食業者に大きなショックを与えている。
▲回転テーブルに豪華な料理が並べられ、大人数で楽しむ。全聚徳は、北京ダックの名店として、オールドスタイルのディナーを提供し、現在でも予約をしないと入れないほどの人気だ。
観光客に最適化することで失われたブランド価値
なぜ、全聚徳の外売が不人気だったのだか。その理由をメディアは、こう分析している。要は、全聚徳が大量に押し寄せる観光客をメインの顧客層として考えすぎたということだ。全聚徳は、いつ行っても、地方からの観光客、外国人でいっぱいで、地元の市民が行こうとしても、予約をしておかないと入ることができない。そのため、北京の若者の間では「全聚徳に行ったことがない」という人が増えている。食べたことがないものを、外売で注文しようとは思わない。理由は簡単だった。
さらに、全聚徳の老舗レストランとしてのブランド戦略も逆効果を生んでしまった。北京市政府と協力して「北京を代表する老舗レストラン」として、国内外にプロモーションを行ってきたが、そのことが北京の若者にとっては「おのぼり観光客がいくダサいレストラン」というイメージになってしまっている。
難しい老舗ブランドの価値創造
北京の若者が北京ダックを食べないわけではない。フランス料理のテイストを取りれ、あっさりとした北京ダックを出す大董烤鴨店、昔風の料理法で脂っこい濃い味の北京ダックを出す便宜坊などは、若者客も多い。
全聚徳は、創業当時の清時代には、それまでの鴨料理の調理法を一新したイノベーションベンチャーだった。しかし、それが定番料理になってしまうと、「特徴のない料理」と見られてしまうようになった。そこに、ITの力を使って、若年層とのタッチポイントを回復しようと考えるのは決して間違ってはいない。しかし、あまりにも反応がなさすぎた。そのことに全聚徳の経営陣だけでなく、飲食業界に従事する人の間でも驚きが広がっている。
今も、全聚徳の路面店は多くの客で賑わっている。しかし、年齢層は高い。なんとかして若者にアプローチをしなければ、10年後、全聚徳はブランド力を失ってしまうだろう。中国を代表する老舗ブランド「全聚徳」は、岐路に立たされている。