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大ヒットEV「宏光MINI EV」が50万円で販売できる秘密。コストダウンだけではないその理由

2.88万元から購入できる「宏光MINI EV」のヒットが止まらない。12ヶ月連続で新エネルギー車販売ランキングの1位の座を守り続けている。その最大の理由は2.88万元という安さだが、それを実現するためにはコストダウンだけではなく、五菱のさまざまな工夫があったと小周的車が報じた。

 

ヒットが止まらない宏光MINI EV

中国の電気自動車(EV)市場が記録を更新し続けている。その原動力になっているのが、上汽通用五菱(ウーリン)の「宏光MINI EV」(ホングワン)だ。

五菱の燃料車を含めた2021年8月の全体の販売台数は13万57台で、前年同時期の14万8000台から12.12%の減少となった。しかし、EVを含む新エネルギー車では、8月の販売台数が4万1849台となり、前年同時期から2.4倍にもなっている。今年2021年1月から8月までの累計では90万1441台となり、前年同時期から20.84%の増加となった。

要因は、宏光MINI EVの大ヒットだ。発売後1年で37万台を売上げ、その後も売上が落ちずに12ヶ月連続でEV市場の販売台数トップの座に座り続けている。

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▲発売後1年以上経っても、まだまだEV市場トップの座を保っている。女性を意識した宏光MINI EVマカロンなども発売され、まだまだ販売は拡大しそうだ。

 

宏光MINI EVの安さの秘密は安い人件費ではない

宏光MINI EVのヒットの理由は、なんといっても価格の安さにある。2.88万元(約51万円)という価格で、地方では通勤、買い物用として、都市では女性を中心に遊ぶ車として受けいられている。経済力が限定的な地方の人も購入できる自動車であり、都市の人には遊ぶ車として手頃な価格であることが売れる要因だ。

なぜ、ここまで宏光MINI EVはここまで安く販売できるのか。多くの人が「中国のやすい人件費を利用して…」と思ってしまいがちだが、すでに中国の人件費は安くなくなっており、低コストでの生産を志向する製造業は、安い人件費を求めてインドや東南アジアへ進出へ図るようになっている。

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▲宏光MINI EVは都市部では、改造できる車として楽しまれている。

 

自動車の薄利多売を行う五菱

宏光MINI EVの価格の安さの秘密は、薄利多売だ。宏光MINI EVの利益率は非公開だが、2020年の親会社の上海汽車集団の連結財務報告書では、営業収入が729.27億元(約1.3兆円)だが、純利益は1.42億元(約25億円)しかない。これを仮に五菱全体の販売台数で割ってみると、1台あたりの利益は89元(約1600円)でしかないのだ。究極の薄利多売状態になっている。

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▲2020年のメーカー別EV売り上げランキング。五菱が圧倒的だが、価格帯が高いテスラの売上も驚異的。この2車がEV市場をリードしている。

 

NEVクレジットによる利益で黒字になる

しかし、安さの理由はこれだけではない。政府の政策である「NEVクレジット」の存在が大きい。これはNEV(新エネルギー車)の普及を促進するために、2019年から実施されている制度で、計算方法や比率は改訂されるものの、簡単に言えば、自動車メーカーに義務付けたポイント制度のようなものだ。燃料車を1台生産するとマイナスポイントがつけられ、新エネルギー車を1台生産するとプラスポイントがつけられる。つまり、自動車メーカーに一定割合で、EVなどの新エネルギー車の製造を義務付けるものだ。

理想状態は、1つのメーカーで、マイナスポイントとプラスポイントが打ち消しあって0になることだが、現実にはそうはいかない。新エネルギー車の製造に消極的なメーカーはマイナスポイントが残ることになる。その場合は、別のメーカーで余っているプラスポイントを購入して打ち消すか、それもできない場合は罰金を支払うことになる。

一方、EVなどを大量に生産をして、プラスポイントが余っているメーカーは、他メーカーにポイントを売却することができる。価格は市場の需給により変動するが、現在1ポイントあたり3000元程度で推移をしている。

2020年、五菱は93万2706台、新エネルギー車を17万8292台を生産し、44万3141NEVクレジットのプラスとなった。ということは、これだけで13億元を稼いだことになり、これを五菱の新エネルギー車販売台数で割ってみると、1台あたりの利益は7456元(約13.1万円)となり、一般車を超える利益水準になる。

 

購入補助金が減額されたことが小型EV市場を生んだ

また、新エネルギー車の購入補助金が2019年から大きく減少したことも宏光MINI EVへの追い風となった。中央政府や地方政府は、新エネルギー車の購入時に補助金を出す政策を進めているが、その仕組みは、航続距離が長いほど補助金が厚くなるというものだった。そのため、宏光MINI EVのように航続距離が短い日用車は売れなかった。なぜなら、1つ上のグレードの車の方が補助金が多いため、わずかな追加出費でより性能の高い車が買えるからだ。

しかし、その補助金が大きく減少し、販売価格そのものでの勝負となると、性能は割り切っても低価格のEVを求める消費者が増えてくる。また、公共交通の拡充に頭を悩ませる地方都市では、宏光MINI EVのような小型EVの普及が都市交通問題の解決策となることから、補助金や駐車場などの優遇政策を打ち出しているところも増えている。

このような理由で、小型EVが売れ、その中でも品質、デザインが優れた宏光MINI EVが売れている。他メーカーも、同様の小型EVを発売して対抗してきているが、まだまだ宏光MINI EVの好調さは続きそうだ。

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▲購入補助金は毎年少なくなっていき、2019年にはほぼなくなったため、新エネルギー車の販売台数は2019年に停滞をすることになった。目論みとしては、初期は商用車が市場をリードし、需要が一巡するまでに、購入補助金を使って個人市場を立ち上げることだった。補助金減少のタイミングが早すぎ、2019年に市場は停滞をした。