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自動運転のパイオニアだった百度。社会への接地戦略で失敗、さらなる戦略転換が求められる

自動運転のパイオニア百度が苦しんでいる。各新エネルギー車メーカーが自動運転技術の開発を進め、百度の存在感が失われようとしている。百度はさらなる戦略転換が求められていると電動車公社が報じた。

 

テック企業も参入する新エネルギー車市場

中国の新エネルギー車(NEV)市場は、比亜迪(BYD)が圧倒的に強く、それにテスラが続くという状況だ。そこに、造車三傑と呼ばれる「理想汽車」(リ・オート)、「蔚来」(NIO)、「小鵬」(Xpeng)が上位をうかがっている。

さらに、テック企業からの参入も台風の目になっている。華為(ファーウェイ)と賽力斯(セレス)の共同ブランド「問界」(AITO、https://aito.auto/)は、ファーウェイの自動運転「ADS2.0」を搭載した電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)で人気を博している。

また、小米汽車(シャオミ、https://www.xiaomiev.com/)は「SU7」が大人気となり、予定生産台数の10万台の完売が見えており、増産体制の準備を始めている。

スマートフォンメーカーの「小米」は、BEV「SU7」を発売し、人気となっている。当然、NOAが搭載されている。

 

精彩を欠く百度の自動運転

ファーウェイと小米の自動車が人気になっているのは、その知名度によるところも大きい。多くの人にとって、両社のスマートフォンなどのデジタルデバイスは身近な存在で、その性能や品質、企業の態度などを手で触れて実感をしている。これにより、注目が集まることになった。

しかし、著名なテック企業であるのに、注目が集まっていない企業がある。百度バイドゥ)だ。百度検索を使ったことがない中国人はまずいなく、百度は早くから自動運転技術の開発を手がけてきた。

しかし、百度の自動運転技術を搭載した「極越」(ジーユエ、https://www.jiyue-auto.com/)は、NEVランキングに顔を出すこともできないほど売れていない。昨2023年12月に発売となった「極越01」は、初月に774台が売れ、翌2024年1月には218台、2月には147台と、販売予定の1万台にも遠く及ばない状況だ。なぜ、ファーウェイと小米は成功をし、百度はうまくいかないのだろうか。

 

自動運転技術の開発に取り組んできた百度

百度は、検索広告の企業だが、創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)は、学生時代からAIを追求しており、百度の経営が安定をした2013年、自動運転技術の開発を早くも始めている。すぐに独BMWと提携をし、BMWの車に自動運転システムが搭載された試験車両も公開された。

2017年7月の百度AI開発者会議では、衝撃的な映像が公開された。北京市の第五環状線で、百度の自動運転車が一般車両に混ざって走行する映像が公開されたのだ。それは、まるでSF映画のようで、観衆は熱狂をした。

当時、公道走行試験はルールが定められてなく、百度はこの試験を強行し、後で北京市交通管理局から安全運転義務違反を問われる事態となった。しかし、12月になって、北京市交通局は「北京市自動運転車両試験を促進するための指導意見」「北京市自動車両道路試験管理実施細則」の2つの文章を公表し、一定のルールの下、自動運転車が公道での走行試験ができるようになった。この百度の突破力も賞賛された。中国の自動運転は、ここから始まったと言っても過言ではない。

百度は2013年から自動運転の開発をしている。すぐに独BMWがパートナーとなり、百度は夢の技術の開発に挑戦をした。

▲2017年の衝撃的な映像。百度の自動運転が一般道を普通の車に混ざって走行している映像が公開された。観衆は熱狂し、ここから中国の自動運転が始まった。

 

ロボタクシーから完全自動運転をねらう百度

百度の自動運転システムは、グーグルのウェイモーと先陣を競い合った。「2019年自動運転報告」(カリフォルニア州車両管理局)によると、MPI(人間が介入しない自動運転の平均距離)で、ウェイモーを大きく引き離している。百度のシステムは、中国では圧倒的なトップであり、世界でもトップグループにいることは間違いなかった。

百度は「アポロ計画」を立ち上げ、この自動運転システムを自動車メーカーに提供をする事業を始めた。それにはフォード、長城汽車など主要な自動車メーカーが名乗りをあげた。

さらに、百度はロボタクシー「蘿卜快跑」をスタートさせた。すでに上海、北京、広州、武漢などで営業運転を始めている。

ロボタクシーは乗車賃を稼ぐという目的もあるが、データの収集という点もねらっている。ロボタクシーで収集した情報を、自動運転システムにフィードバックし、それを各自動車メーカーに販売することで、収益をあげようというものだ。

カリフォルニア州車両管理局の統計によると、継続して人間が介入しない走行距離(MPI)はウェイモーを上回るほどの成績をあげていた。

百度は主要都市でロボタクシーサービスを始めている。運転手はいない無人運転だ。ここで得たデータを活用して、自動運転技術をメーカーに販売することが目的だ。

 

完全自動運転を目指す2つのアプローチ

この百度の戦略は完璧に見えたが、自動運転のアプローチのトレンドが変化をしたことに百度は対応ができなくなっていた。百度の自動運転はL4(レベル4)からL5(完全自動運転)を目指すというものだ。L4はAIが主体となって運転をするもので、人間は運転操作から解放される夢のような技術だ。しかし、L4自動運転をするには、道路環境に一定の条件が必要になる。当面は整備された道路しか走行することができない。技術が成熟をしてくれば、自動運転が可能となる領域が増え、最終的にはどこでも自動運転が可能なL5に到達できるというアプローチだ。

しかし、現状のロボタクシーは、この技術的制約と法律上の制約から、定められた地域の中しか走行ができない。人間のタクシーのように、遠くまで行ってもらうことはできず、裏道に入ることもできない。結局、市の中心部を移動することに留まってしまう。

もうひとつのアプローチが、L2という人間が主体の自動運転からL5を目指すというものだ。L2は、オートパーキングや車線キープ、オートクルーズなどで、人間が状況を見て、自動車に命令をするというものだが、もし、このL2自動運転の機能が、自動車が走行するあらゆる局面をカバーできるのであれば、人間は運転席に座って見ているだけでよくなる。これがL2+自動運転の考え方で、最近ではNOA(Navigation On Autopilot)と呼ばれるようになっている。

このNOAでは、ファーウェイのADS2.0とテスラのFSD(Full Self Driving)の性能が図抜けており、自動車メディアの検証では、いずれも都市部で90%以上の時間、自動運転で走行ができるようになっている。

自動車メーカーはどちらのアプローチを選ぶのか。もちろんNOAだ。百度のアポロでは、人間は運転から解放されるものの、走れる場所が大きく制限される。一方、NOAはときおり人間が手助けをしてやらなければならないものの、制限なく走ることができる。販売する車としてはNOAを選ばざるを得ない。

 

戦略転換に失敗をした百度

百度は戦略転換をしたが、遅かったかもしれない。アポロをL2+に転換をして、自動車メーカーに供給しようとしたが、すでに、各自動車メーカーは自分たちでNOAの開発を始めており、アポロを必要としなくなっていた。

さらに、NEVの市場競争はこれから熾烈になることは間違いない。最盛期には200社を超えるNEVメーカーがあったが、現在は120社ほどにまで絞られている。最終的には5社から10社が生き残ると見ている人が多い。その競争を勝ち抜くために、各社は自動車は赤字覚悟の低価格で販売をし、NOAのサブスク料金で収益をあげるモデルに移行を始めている。スマホと同じように、本体を低価格にして、後からコンテンツと広告で収益をあげようというものだ。

自動車の最も魅力的なコンテンツはNOAであることは間違いない。ここを他社からの供給を受けてしまうと、収益力が一気に低下をして、生き残っていくことができない。各社は困難であっても、NOAの自社開発に賭けている。

百度は自動運転技術アポロを搭載した自動車を威馬と共同開発して発売したが、自動運転ばかりが強調され、自動車としての性能が消費者に伝わらずセールスは失敗をした。

 

提携をした威馬は破産

この百度のL2自動運転の供給を受けたメーカーが「威馬」(ウェイマー、Weltmeister)だった。自社の威馬EX6に百度のアポロを搭載して、威馬W6の販売を始めた。しかし、プロモーションを百度が主導して行なったために、自動運転機能ばかりが宣伝され、肝心の自動車の性能については消費者になかなか伝わらなかった。まるで、威馬の自動車は、自動運転システムのひとつの部品にすぎないかのような扱いだった。結局、W6はあまり売れず、威馬は資金不足に陥り、破産をしてしまった。

そして、百度は現在「極越」にアポロを供給しているが、同じ轍を踏もうとしている。自動運転のリーダー企業だった百度は、さらなる戦略転換を迫られている。