中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

AI時代にいちばん不足するのは電力。中国はどうやって電力を増やそうとしているのか。「東数西算」工程とは。

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今回は、中国の電力政策についてご紹介します。

 

時代の進む速さはほんとうに早いものです。OpenAIが対話型AI「ChatGPT」を発表したのは2022年11月で、まだ2年経っていません。しかし、対話型AIはもはや使わない日はないぐらい、仕事をする上で重要なツールになっています。

企業にお勤めの方は、対話型AIに企業情報を載せることによるセキュリティ問題がまだ完全に評価し切れてなく、使用が制限されていることもあるかと思いますが、この問題が解決をすれば、業務で最も頻繁に使うツールになることは間違いありません。

その一方で、グーグル検索をする機会がめっきりと減りました。グーグル検索をして検索結果に表示されたウェブを頭から読んでいくという原始的な方法はもはや過去のものになり、対話型AIに尋ねて信頼できるウェブを探してもらうという方法に変わったという方が多いのではないでしょうか。

さらに、書類作成にも力を発揮してくれます。特に、議事録、日報、業界動向の概略資料など、中身の質よりも書類が存在することに重きが置かれているものは、ほとんど対話型AIによる生成で間に合います。要は業務の中で、必要だけど生産性があるとは思えない仕事はほぼ対話型AIに代行してもらえるようになりました。人間は、内容に意味がある情報を、対話型AIの助けを借りながら生産していくことに集中できます。

コーディングやブレーンストーミング、デザインという高度な知的作業に生成AIを利用することに焦点があたりがちで、それはそれで重要ですが、現実には高度ではない知的作業をAIが代行してくれ自動化できるということの方が、社会にとっては大きなインパクトがあるように思います。Excelが普及をして、そろばんや電卓を使わなくなったのと同じことが起こります。

 

対話型AIや生成AIが普及をし、業務でも生活でも使われていることは素晴らしいことですが、私たちはこのAI時代に考えておかなければならない問題があります。それは電力が足らなくなることです。

対話型AIの使用に必要な電力は莫大なものになります。国際エネルギー機関(IEA)のレポート「Electricity 2024」https://iea.blob.core.windows.net/assets/6b2fd954-2017-408e-bf08-952fdd62118a/Electricity2024-Analysisandforecastto2026.pdfによると、これまでのグーグル検索は1回使うごとに平均して0.3Whが必要でした。しかし、ChatGPTを1回利用するには2.9Whの電力を消費します。約10倍になったわけです。それでも一般的な電球が60Whであることを考えると、大した電力ではないように見えます。

しかし、問題は使用回数です。ChatGPTは1日に90億回のアクセスがあります。つまり、1日で2.9Wh×90億回=261億Wh=2610万kWhが必要になります。年間にすると、95.65億kWhになります。日本全体の年間発電量は8600億kWh前後なので、日本の発電量の1%以上をChatGPTの利用のために使っていることになります。

しかもIEAでは、対話型AIの広がりと規模化により、2026年には現在の10倍の電力が必要となると予測しています。つまり、2026年には日本の発電量の1/10程度が、ChatGPTだけのために消費されることになります。

1/10はまだ許容できるのかもしれませんが、ChatGPTだけでこれだけいるわけです。Claudeもあります、Microsoft Copilotもあります。Stable Diffusionもあります、Soraもあります、KLINGもあります。いったいAI全体でどれだけ電力を使うのでしょうか。

▲2026年にはAI関連の電力消費が2022年の10倍となる。IT全体でも2倍に膨れ上がり、日本の発電量とほぼ同じ程度の電力が世界でITのために消費される。「Electricity 2024」(IEA)より引用。

 

さらに、従来型のデータセンターも大幅に増え、仮想通貨(暗号資産)の利用も進みます。このようなIT関連の電力消費は2026年には800TWh(=8000億kWh)となり、日本全体の発電量とほぼ同じ規模の電力が必要になります。日本は世界第5位の発電量がある国で、これと同じだけの電力が必要になるため、IT、AIのために電力不足が起きることが予想され、各国の大きな課題になっています。

しかも、2026年というのは3年後のことです。発電所の建設計画を立てて稼働するまでには少なくとも3年はかかります。この対応ができない国は、電力不足により社会インフラが時々停止する国になるか、あるいはIT化、AI化を遅らせるしかなくなります。米国も中国もEUも、今、どうやって発電量を増やすのか、その対策を進めています。

 

電力にまつわるもうひとつの問題は再生可能エネルギーへの転換です。これから発電量を増やさなければならないといっても、化石燃料を燃やす火力発電所を増やすことはできません。太陽光、風力などの再生可能エネルギーを増やしていかなければならないのです。

すでに世界はその方向に進み始めています。次の図は発電エネルギー別の発電量の増減を示したものです。

▲今後は石炭火力は減少をし、再生可能エネルギー原子力天然ガスが増えていく。赤丸が全体での増加分。「Electricity 2024」(IEA)より引用。

 

2024年からは、発電量の増加は再生可能エネルギー原子力天然ガスの3つになると、IEAは予測をしています。

中国でも同じ傾向で、太陽光と原子力を増やすことにより、石炭中心の火力発電を減らしていっています。特に石炭による火力発電は、排出するCO2量が2023年がピークとなり2024年は減少することが確実になってきています。今後は、火力発電によるCO2排出量は毎年減少をしていく見込みです。中国政府は2025年から石炭火力によるCO2排出量を減らす目標を立てていましたが、1年前倒しで実現できたことになります。

太陽光と原子力は、いずれも日本ではさまざまな議論がある発電方法です。太陽光の発電量はお日様次第で変動するため、結局、他の火力など発電量の調節がしやすい発電と組み合わせなければならないと言われます。また、原子力に関しては、福島第一発電所の事故を経験した我々としては安全性にさまざまな疑問を持ってしまいます。

しかし、中国ではこの2つの問題を解決しています。どのようにして解決したのでしょうか。この太陽光発電原子力発電について、中国の最新情報をご紹介するのが今回のテーマのひとつになります。

また、中国は国土が広いため、電力送電に課題があります。貴州省水力発電で発電した電力を北京市に送電することは理屈上は可能ですが、現実には大掛かりな送電ネットワークが必要になります。そこで、電力の地産地消のような取り組みもしており、これは「東数西算」工程と呼ばれます。この取り組みにより、中国は莫大な電力を必要とするAI時代に対応しようとしています。この取り組みについてもご紹介をします。

 

中国は、発電量能力の向上とCO2排出量の削減を同時に達成させながら、さらにエネルギーの安全保障も確立しようとしています。現在の発電に使うエネルギーの自給率は80%程度です。石炭は自国内で産出しますし、再生可能エネルギーはもちろん自国産です。一方、自動車の燃料である石油はほとんど産出しないため、80%を輸入に頼っています。これは問題とされ、早くから合成燃料の開発も進めていました。中国が電気自動車(EV)の普及に力を入れるのも、エネルギー自給率を高めたいというねらいがあります。

なお、米国は発電エネルギーに関しては100%自給で、石油に関しても自給率は60%を超えています。それでもシェールガスメタノール燃料など、エネルギー自給率を高める挑戦をしてします。これは万が一の時、経済封鎖をされても、国内のインフラが回っていくようにするための安全保障策です。また、各国がエネルギー封鎖を互いにするような状況になった時、過剰エネルギー源を持っている国は非常に有利に振る舞うことができるようになります。

中国が電力量を増やし、EVの普及に力を入れるのは、輸入しなければならないエネルギーからの脱却という目的もあるのです。

 

さらに中国にはもうひとつの思惑があります。その歴史的経緯から石油の国際取引のほとんどが米ドルで行われています。多くの国は、自国通貨をドルに交換してそれで石油を購入します。中東の産油国では代金をドルで受け取り、その多くを米国国債を買うのに使います。これが米ドルを国際通貨にしている要因になっており、米国の国債が世界中で買われることで世界中のお金が米国に流れ込むということになっています。つまり、石油市場は米国が強い国である続けるための仕組みでもあるのです。中国としてはここも変えていきたいでしょう。石油の使用を抑えることで米国の強さを弱めたい。国際通貨としての米ドルを弱くして、人民元を国際通貨にしたい。そういう思惑もあります。

今回は、中国がAI時代に合わせて、どのような電力体制を取ろうとしているのか、その試みをご紹介します。

 

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