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中国の3人の天才少年。30代のイノベーターが中国スタートアップの流れを変えた

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今回は、注目すべき新世代の30代のイノベーターについてご紹介します。

 

中国の起業家をどのように分類するかは人それぞれですが、世代で分類をするのが一般的です。

60年代生まれの起業家を第1世代とすることが多いようです。この世代には、日本でも有名な馬雲(ジャック・マー、アリババ)と馬化騰(ポニー・マー、テンセント)がいます。2人とも20代の時にインターネットに出会い衝撃を受け、インターネットを利用したビジネスを考えます。

ジャック・マーはもはや説明不要だと思いますが、インターネットで人と人とを結びつけるビジネスを考えます。最初は、中国企業と海外企業をマッチングさせるAlibaba.comからスタートし、次にモノを売りたい人と買いたい人を結びつける淘宝網タオバオ)で大きく成長します。ポニー・マーは、趣味でインターネットのノードを運営し、そこからメッセンジャーツール「ICQ」の中国版を開発したいと考えるようになります。これが後のSNS「QQ」で、ここからビジネス支援、ゲーム、オンライン決済というテンセントの主要事業が生まれてきます。

 

第2世代は70年代生まれの李彦宏(ロビン・リー、百度)を中心とした人たちです。ロビン・リーは正確には1968年生まれですが、マインド的には70年代起業家に近い存在です。この世代はもはやインターネットとは自然に出会っていて、第1世代のような衝撃までは受けていません。ごくあたりまえのようにインターネットを使ったビジネスを考案します。また、中国が豊かになり始めた時期にもあたり、海外留学も珍しくなくなっていました。ロビン・リーも北京大学を卒業後、ニューヨーク大学に留学をし、人工知能を専攻します。そのままインフォシークに入社し、検索エンジンの開発エンジニアをしていました。そして、中国に帰国をして百度を起業します。グーグルをお手本に検索広告のビジネスを手がけ大成功をします。

第1世代の起業家は、まだ中国の状況が悪く、海外に行くのも簡単ではなく、格闘するように起業し成長してきましたが、第2世代では条件が整い、留学をして最先端の知識と技術を身につけたエリートが成功するようになります。

 

第3世代は80年代生まれの起業家です。程維(チャン・ウェイ、滴滴)と黄(ホワン・ジャン、拼多多)が代表格になります。この世代ではデータテクノロジーが当たり前になり、ビッグデータを解析することでサービスの質を高めていきました。また、程維は都市内交通の課題、黄峥は農村や地方中小企業の課題を解決しようという意識が強いソーシャル起業家の側面もあります。

第4世代は、同じく80年生まれですが、遅れて起業した張一鳴(ジャン·イーミン、バイトダンス)です。張一鳴は機械学習ベースのAIを使った第1世代でもあります。AIに注目はしていたものの、学ぶ教材が存在していないため、自分たちで調べながらAI学習教材をつくったという逸話があります。この努力から生まれた中国版TikTok「抖音」(ドウイン)のリコメンドシステムは、いまだにライバルが追いつけないほどの優位性を保っています。

 

張一鳴氏はバイトダンスを40歳で引退し、次の起業すべき事業を模索していますが、その最中にOpenAIが発表したChatGPTが登場し衝撃を受けます。なぜなら、バイトダンスが得意としているAIは機械学習ベースのもので、一気に時代遅れのものに感じてしまったからです。

バイトダンスがどのようなAIテクノロジーを使っていたかは、「vol.102:TikTokに使われるAIテクノロジー。最先端テックを惜しげもなく注ぎ込むバイトダンスの戦略」でご紹介したことがあります。抖音、TikTokの利用者にAIテクノロジーを使ったさまざまな特殊効果を提供し、撮影したムービーが特殊効果で変わることが面白がられ、投稿する人が一気に増えました。

ChatGPT以降の生成AIが登場する以前に、古い技術を使って生成AI的なこともやっています。

 

https://www.douyin.com/video/7017765472271600931

▲生成AIブームが起きる前に、バイトダンスは生成AI的なことを実現していた。

 

これは「動態老照片」と呼ばれる効果で、古い写真をスキャンして、顔の表情を生成して動かすというものです。今であれば簡単にできてしまうことですが、当時は非常に驚かれた最先端技術でした。

 

当時のAIは、ディープラーニングが最先端で、学習ネットワークはCNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)を使うのが主流でした。特にGAN(Generative Adversarial Networks、敵対的生成ネットワーク)という手法が登場してからは、現在の生成AIに近いことができるようになりました。これは2つのAIを用意して、ひとつの画像生成器がつくった画像を、もうひとつの画像判別器が評価をして、互いに評価し合いながら学習を進めるというものです。つくる方はできるだけリアルな画像をつくろうとし、判定する方は厳しく評価をしようとします。これを何度も繰り返すことで生成器と判別器の性能が同時にあがっていき、最終的に非常に性能のいい生成器ができあがるというわけです。

特筆すべきなのが、当時はこのようなAI演算をスマートフォンで行うことは不可能に近いことだったということです。現在でも、AI演算を行うには大量の並列計算が可能なGPUを使うか、AI演算向けに設計されたAIチップが必要になります。バイトダンスは、このような重い演算をスマホでできるような工夫までしました。

「Online Multi-Granularity Distillation for GAN Compression」(https://arxiv.org/abs/2108.06908)という論文にまとめられていますが、蒸留と呼ばれる手法を使ってGANの演算量を1/46に圧縮するというものです。

理屈としては学習が終わったAIモデルとは別に小さなAIモデルを用意し、この小さなAIモデルに、最初の大きなAIモデルの入力と出力を学習させます。すると、小さなAIモデルは、大きなAIモデルと同じ出力ができるようになるというものです。学習の上澄みだけを学習させることから蒸留と呼ばれています。

理屈は簡単ですが、実際に精度の高い小さなAIモデルを構築することは簡単ではありません。なにか、スマホアプリでAIを扱うための執念のようなものを感じます。

 

しかし、今では畳み込み演算(特徴を抽出していく)ではなく、自己注意機構を中心にしたTransformerの方が画像の学習にも効果的であることがわかっています。自己注意機構とは、要素の関連度を学習していく大規模言語モデルで使われるものです。さらに、画像の生成アルゴリズムもGANではなく、Diffusion Model(拡散モデル)が主流になっています。

つまり、バイトダンスが抖音やTikTokで使ったAIテクノロジーは完全に1世代古いものになってしまっているのです。そのことを自覚した張一鳴氏は、大規模言語モデル(LLM)という新しいAIの研究者、開発者と積極的に会食をするようになります。張一鳴氏はバイトダンスの創業者であり、今では中国第5位の富豪です。声をかけられたら断る人はまずいません。張一鳴氏の話を聞くことは刺激的なことですし、場合によっては投資をしてもらえる可能性もあります。

その中で、張一鳴氏が注目をしたのが楊植麟(ヤン·ジーリン)でした。2011年に清華大学に入学し、カーネギーメロン大学に留学、博士号を取得すると、LLMの開発を行い、これがファーウェイに採用されます。そして、張一鳴氏が投資をすることで「月之暗面」(Moonshot AI、https://www.moonshot.cn/)を起業、対話型AI「Kimi」を開発します。

このKimiは日本ではほとんど知られていませんが、中国では、「通義」(トンイー、アリババ)、「文心一言」(ウェンシン、百度)、「豆包」(ドウバオ、バイトダンス)などを抑えて人気になっています。その理由は20万字までのプロンプトが入力できるというもので、非常に細かい指示をAIにすることができるからです。すでに膨大なプロンプト例がネットでは交換されるようになっていて、それをコピーして修正するだけで、複雑な作業をAIに行わせることができるようになっています。ムーンショットには投資案件が殺到し、すでに企業価値10億ドルを超えるユニコーン企業になっています。

 

清華大学で、楊植麟の同級生に姚頌(ヤオ·ソン)という学生がいました。清華大学を卒業後、AI半導体を設計する起業をし、その成果が米ザインリクスに買収され、お金の自由を手に入れます。次に何をするか考えている最中に、目に入ってきたのが米SpaceXです。スペースXは、民間企業でありながら、世界で最も低コストで安定をしている衛星打ち上げロケット「ファルコン」を開発し、さらには人類を火星へ移住させるための「スターシップ」の開発にも大真面目に取り組んでいます。姚頌は、スペースXを見て、中国の民間宇宙開発事業は大きく遅れをとったと感じました。そこで、ロケット開発企業「東方空間」(Orienspace、https://www.orienspace.com/)を起業し、わずか3年で世界最大級の固体燃料ロケットの打ち上げを成功させます。東方空間もユニコーン企業にあと一歩のところまできています。

 

この2人の一学年下の四川省の電子科技大学に、彭志輝(ポン・ジーホイ)がいました。卒業後、OPPOに入社し研究職につきますが、その後、ファーウェイの「天才少年プロジェクト」に応募をして採用されます。彭志輝は同時に動画共有サイト「ビリビリ」でのメーカー系の配信主としても有名で、そこで「自律走行する自転車」を開発して世界中から称賛されました。

その後、ファーウェイを退職して「智元機器人」(Agibot、https://www.agibot.com/)を起業し、人型ロボットの開発を始めます。BYD、百度などが投資をし、すでにユニコーン企業になっています。

この3人はいずれも90后(90年代生まれ、30歳前後)であることが大きな話題になっています。中国のテック企業の中心世代も90后に移る中で、多くの人が同世代の活躍に刺激を受けています。今後、この3人に刺激を受けた30代が起業を試みることが増えるのではないかと投資家たちは期待をしています。

今回は、この3人の天才少年がどのような開発をしてきたのかをご紹介します。

 

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