中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

不況で急増するデリバリー騎手。人が増えすぎて、収入が減り、全員共倒れの危機が迫ってきている

中国の経済状況の悪化により、デリバリー騎手の人数が増えている。しかし、デリバリー注文は大幅に増えているわけではないので、一人あたりの配達件数は減少し、騎手にとってはつらい状況になっていると上観新聞が報じた。

 

効率の高いデリバリー配達アルゴリズム

「美団」(メイトワン)、「ウーラマ」などの外売(ワイマイ、フードデリバリー)では、飲食品を配達する騎手(ライダー)に配達指示をする騎手用システムのアルゴリズムが高度化している。ピックアップ(受取)とドロップ(配達)がマップ上に次々と指示をされ、システムが最も効率的なルートを選んでくれる。

システム側は注文が入ると、どのライダーに注文を渡せば効率的かを考え、顧客から高い評価を得ているライダーを優先しながら配達指示をしていく。

これにより、騎手は常に5件程度の注文を同時並行で担当し、ピックアップとドロップを繰り返しながら、狭い地域を走り回ることになる。このような手法で、全体の配達効率を高め、配達単価を下げることができ、同時に騎手の収入も確保できていた。

▲美団の騎手用アプリ、ピックアップとドロップが効率的になるように、システムが配達案件をアルゴリズムによって割り振ってくれる。これにより、効率的な配送が可能となり、単価が安く、騎手は稼げる仕組みになっていた。

 

デリバリー騎手として働く3つの方法

しかし、景気の悪化により、騎手になる人が増えている。騎手になるには3つの方法がある。ひとつは美団に直接、正社員として雇用されることだ。一般的な転職と同じであり、採用数は多くなく、簡単になることはできない。2つ目は、美団と契約をしている派遣会社に雇用されることだ。報酬は直接雇用に比べて多少落ちることになるが、その代わりにフルタイムからパートタイムなど自由に働き方が可能になる。3つ目が、美団アプリから直接登録をして、パートナーとして働くというものだ。いわゆるギグワークであり、いつどれだけ働くかはまったく本人の自由。時間ができたらオン通知をして配達をし、疲れたらオフ通知にして仕事を終えることができる。他の仕事を持っていて、その隙間時間に稼ごうという人の働き方だ。

最初の2つの騎手はほぼ増えていないが、景気悪化により、このギグワーク登録をする騎手が急増をしている。

 

騎手が増えすぎて収入が下がっている

これにより、デリバリーの注文量は増えていないのに、騎手の数が増えているため、1人あたりの平均配達数が下がり、多くの騎手が収入が減っていると不満を持ち始めている。

ある95后(95年以降生まれ、20代後半)の騎手は言う。「以前は、騎手があまり受けたくない注文が30分も40分もそのまま放置されていることもありました。しかし、今ではどの注文も数秒で誰かが請け負います。以前は昼や夕方の食事時のピークには、騎手が大手飲食店の周りに集まりました。そこにいれば、配達案件が入ってくるからです。しかし、今は数時間後に届ける予約案件ぐらいしかつかめなくなっています」。

▲デリバリーサービス「美団」の騎手数の推移。2022年には624万人となり、2018年から倍増以上になっている。

 

パスもできるジャンプ案件とゴミ案件

騎手の間には「ジャンプ案件」「ゴミ案件」と呼ばれる注文がある。ジャンプ案件とは、市の中心地から離れた場所への配達だ。配達に時間もかかるし、何より他の注文が入ってこなくなる。たくさんの注文を受けるには、店舗や配達地が密集する市の中心地にいる方が有利だ。

ゴミ案件というのは、エレベーターのない集合住宅で、届け先が4階とか5階の高層階のものだ。疲れる上に時間もかかる。騎手たちは、配達先の事情を熟知しており、どれがゴミ案件かがわかっているため、避けようとする。

配達案件はシステムが自動的に入れてくるが、1日8件まではパスをすることができる。ただし、5件までは無料でパスができるが、それを超えると8元のペナルティーを取られることを受け入れれば3件までパスができる。それ以上のパスをした場合は、騎手の評価が下がり、良質の案件を回してもらえなくなる。

 

チューターにもなりたくない人が続出

ギグワークでは、簡単な研修を行っただけで配達業務に従事をすることになる。そこでチューター制度が設けられている。一定評価以上の騎手はチューターになることができ、新人の教育を担当することができる。新人が失敗をしたり、予定時刻内に届けられそうもない場合は、チューターが処理をしなければならないが、その新人が20日以内に400件の配達を行うと、チューターには数百元の報奨金が与えられる。このような仕組みで新人教育を行なっていた。

騎手の陳流さん(仮名)は、上観新聞の取材に応えた。「今では、10人の新人のうち3人程度しか目標達成ができなくなっています。遅れそうな配達は私が代わってしなければならないため、チューターになるのは割が合わなくなっています」。

 

アルゴリズムにもほころびが

さらに、騎手が増えたことで、アルゴリズムにもほころびが見え始めている。ある騎手は不平の声をあげる。「6分間の間に連続して3件の配達案件が入ってきましたが、どれも45分以内に配達を完了しなければならないことになっています。とても無理な話です」。

問題を感じた騎手は、美団のセンターに電話をして問題を指摘することができるようになっている。このようなクレームを受けて、美団では日々アルゴリズムの改善を行なっている。配達推定時間の算出アルゴリズムの開示も行なった。配達時間を超過した場合は一律配達料がゼロになってしまう仕組みだったが、それを事情を勘案して減点をする方式にするなどのルール改定も行なっている。以前は、客側の問題で時間超過をした場合であっても、配達料はゼロになってしまっていたが、そのような場合、減点はゼロか非常に小さくてすむようになった。

▲7年間この仕事をしている陳流さんも、この1、2年、生活に必要なだけの額を稼ぐのが難しくなっているという。

 

デリバリーの仕事に未来はない

2022年の冬に研究のためにまるまる1ヶ月間、騎手として働いた経験をもつ臨沂大学人文科学院の邢斌教授が上観新聞の取材に応えた。「このデリバリーという仕事に未来はありません。スキルを身につけて他の仕事にステップアップすることもできませんし、報酬も1件あたりの単価の積み重ねであるため、あがっていきません。報酬の最高値も非常に低く、ただただ体力だけを消費する仕事です」。

美団の騎手用アプリには、各都市ごとに配達件数のランキングが表示される。その1位はだいたい1日140件から150件程度をこなしている。2022年の美団の統計によると、1件あたりの平均の配達報酬は4.53元だった。上位が145件だとすると、1日の報酬は657元になる。これで1月30日間働いとしても、月収は2万元(約40万円)に達しない。

騎手の人数が急増している現在、配達単価は引き下げられこそすれ、あがることは考えられない。休みなく働くトップクラスの騎手で、ようやく中堅サラリーマン程度の収入でしかないのだ。

 

マネージャーの評価数値はあがるという矛盾

しかも、騎手の労働環境が改善されていく見込みもあるとは言えない。なぜなら、騎手を統括するエリアマネージャーの業績はあがっているからだ。騎手が急増をしたため、誰も受けないキャンセル案件が激減をしている。配達案件は評価の高い騎手に優先的に割り振られるため、新人が難しい案件を担当して配達時間をオーバーするなどの事故も減っている。マネージャーが管理すべき数値基準は改善をしているのだ。

これにより、騎手がいくら現状を訴えても、マネージャーは深刻には受け止めてくれない。景気が回復をして、騎手の人数が減少するようにならないと、騎手の労働環境が改善されることはなかなか期待ができない状況が続いている。