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フードデリバリー「美団」が香港進出か。配達効率のよさが香港のデリバリー問題のすべてを解決する

フードデリバリー「美団」が香港に進出することが確定的になった。配達効率に強みを持つ美団が進出することで、香港のフードデリバリー市場のシェアが大きく変わる可能性が出てきていると未来商業観察が報じた。

 

フードデリバリー美団が香港進出

美団が香港に進出をするという話はこれまでにも何回か語られながら、実際の進出は見送られてきた。しかし、今回は違うようだ。美団の公式サイトの人材募集のコーナーで、デリバリー業務を行う到家事業群が、勤務地香港の人材募集を行っている。

美団では、事業を海外に展開する戦略を立てており、海外進出の前に、香港をテストケースとして進出をするという作戦のようだ。

▲美団公式サイトの人材募集欄には、「香港業務法務」という項目が現れたことから、美団の香港進出はもはや間違いがないと見られている。

 

デリバリーの習慣が薄い香港

しかし、香港はそのテストケースとしてはあまり向いていないかもしれない。なぜなら、香港人はあまりデリバリーを利用しないからだ。そもそも香港は、非常に高密度な都市で、ほとんどの市民が中心地に30分以内にアクセスできる。

また、香港の集合住宅は低層階が商店、飲食店となっているケースが多く、「下に降りていくだけで買い物ができ、食事ができる」利便性がある。

さらに、香港人は、食事をエネルギー補給というよりは、社交のためのものと考える傾向が強い。一人で食事をするよりは、知り合いと楽しく食事をしたい。一人で食べざるを得ない時は、マンション下の飲食店で済ませてしまうという人が多いため、デリバリーを利用する動機が薄い。

 

苦戦をする外資系フードデリバリー

それでも、2014年7月にはドイツのFoodpandaがサービスを始め、2015年には英国のDeliverooが、2016年には米のUber Eatsが続けて参入をした。2022年末のシェアはFoodpandaが51%、Deliverooが46%であり、3%のシェアだったUber Eatsは撤退をした。

利用が進まないために、採算性が悪く、割引施策などが打てないという悪循環になっている。例えば、Foodpandaの場合、最低60香港ドル(約1030円)の注文をしないとデリバリーをしてもらえない。食事の場合はいいとしても、一人でコーヒーや中国茶ドリンクを飲みたいという時は注文ができない。さらに、5から20香港ドルの配達料がかかる。

割引施策は、新規入会をしてしばらくの間だけで、その後はほとんど割引がない。Foodpandaはサブスクリプションサービスを始めて、固定客を確保しようとした。月額料金65香港ドルを支払うことで、毎月5回まで配送料が無料になり、飲食品価格が5%割引になるというものだ。月に4回は利用をしないとかえって損をしてしまいかねない価格設定で、会員数はじゅうぶんには確保できていないのではないかと見られている。

▲中国では見慣れた風景の黄色いユニフォームの美団外売。同じユニフォームが香港でも見られるようになる。

 

人手不足により遅延も常態化

Foodpanda、Deliverooに共通した問題が、配送時間の遅延だ。通常時は30分以内に持ってきてくれるものの、昼と夕方のピーク時には1時間近くかかってしまうことも珍しくない。全体の注文件数がまだ少ないため、配達スタッフをじゅうぶんに用意をすることができないためだ。

このため、昼食をデリバリー注文するホワイトカラーたちは、2時間前に注文を入れて予約をしておくのが常識になっている。

 

自転車が使えない香港

それでも、フードデリバリーが広がったのは、コロナ禍の影響だ。2021年、香港政府は1月から4月までの間、夜6時以降の飲食店での食事を禁止した。5月になって解除されたが、ワクチンを3回接種していないと飲食店が利用できないというルールが定められた。

これにより、フードデリバリーの需要が高まったが、あらわになったのは人手不足の問題だった。香港での配達業務は簡単ではないのだ。なぜなら、香港は狭く、山が迫っているため、電動自転車の使い勝手が悪い。しかも、自転車を使う人が少ないため、公共の駐輪スペースが整備をされていない。そのため、マンションの前に電動自転車を停めて、配達をしていると、駐車違反で切符を切られてしまうことがある。

これにより、各フードデリバリーでは徒歩による配達、電動自転車や自動車による配達の2種類を行い、配達スタッフの報酬もそれによって変わってくる。Foodpandaの場合、徒歩配達だと1件24香港ドルから、電動自転車/自動車による配達では1件40香港ドルとなっている。しかし、電動自転車や自動車の場合、駐車違反の切符を切られる可能性もあり、罰金は配達スタッフ本人が支払わなければならなくなる。

報酬も香港で暮らしていくのにはじゅうぶんとは言えず、配達スタッフの多くが、インド系、パキスタン系、南アジア系の外国人労働者になっている。広東語が話せなくても業務ができることから、そのような外国人労働者が就く仕事になっているが、多くの労働者が広東語が話せるようになり、よりいい仕事が見つかると離職をしていくため、フードデリバリーの配達スタッフは慢性的な人手不足に陥っている。

▲美団は、どの配達をするかのスタッフへの指示がシステムが出す。ピックアップとドロップを繰り返しながら移動をするイメージであるため、同じ時間に多くの配達をこなすことができる。

 

人手不足が美団の強みになる

ここに美団の可能性がある。現在の香港のフードデリバリーの1日の配達件数は、1日8時間で30件程度が目安になっているが、美団の中国の配達件数の目安は3.75時間で20件だ。8時間に換算をすると40件以上となる。

これは美団がアルゴリズムで配達指示を出しているからだ。料理ができるまでの時間、受け渡しにかかる時間、配達スタッフの交差点での待ち時間なども機械学習をして予測をし、最も効率がよくなるようにシステムが誰がどの配達をするかを指示する。これにより、1人の配達スタッフは、複数の配達を同時並行でこなしている。常にバッグの中に飲食品を入れながら、ピックアップとドロップ(配達)を繰り返しているようなイメージだ。

香港の場合は、配達距離が中国よりも短くなるため、1人あたりの配達件数はさらに大きくなると考えられ、既存フードデリバリーの2倍程度の配達が可能になる。ということは、スタッフの数が1/2であっても、同じパフォーマンスを出せるということになる。倍の配達ができれば、配達スタッフにとっては倍の報酬が得られるため、多くの外国人労働者が美団で働くことを選び、香港人ですら美団で生計を立てようと考える人が出てくる可能性がある。

このような効率のよさを背景に、美団は利用者に対し、さまざまなクーポン施策を打てるようになる。美団が香港に進出をすれば、短期間で大きなシェアを獲得する可能性はきわめて高い。

美団は、いつ香港でサービスを始めるかは現在のところ何もコメントしていない。しかし、スタッフの募集を始めている以上、近々であることは確かだろう。香港が成功をすれば、次はアジア圏に拡大をしていくことは確実だ。美団がアジアで大きな存在感を持つようになるかもしれない。