中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

2023年小売マーケティングの優れた事例集。消費者への誠実さが求められる時代に

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 214が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

 

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今回は2023年に起きた小売マーケティングでの事件をまとめてご紹介します。

 

中国はかつてないほどの不況感が漂っています。繁華街の人手は相変わらずですが、人がものを買っていません。ただ歩いているだけで、たまにコンビニで水やジュースを買うぐらいで、食事も中華ファストフードに行きます。最近では、水筒男子、水筒女子も増えているということです。いろいろ聞いてみると、どの都市であっても、大都市から地方都市まで似たような状況のようです。

その中でも、小売業者たちは沈滞をせず、あの手この手で売上をつくろうとするのはさすがです。消費者もそのような試みには敏感に反応し消費をするため、不況感はさほど深刻にはなりません。不況なのになんとなく明るさが漂っています。

米国から始まったキャンセルカルチャー=不適切な発言をしたり、行動をした著名な存在をSNSなどで批判し、社会から排除しようとする動きは、日本でも多くの人がやりすぎではないかと感じるようになっています。中国でも同じようなキャンセルカルチャーの動きはあります。しかし、ただキャンセルして批判するだけでなく、それを利用してセールスに結びつけようとする人が登場してくるなど、中国らしさがあります。後ほど、そのような実例をご紹介しますが、あまりにバカバカしすぎて、最初に批判していた人たちもつい笑ってしまい、最初の重苦しい空気はどこかにいってしまいます。中国人はポジティブな人が多く、楽しいことが大好きという民族性がよく出ていると思います。

 

2023年で最も成功し、鮮やかと言えるキャンペーンが、カフェチェーンの「瑞幸珈琲」(ルイシン、Luckin Coffee)と伝統的な白酒である茅台酒(マオタイ)が共同で開発をした「醤香ラテ」です。わずか1日で540万杯が売れるという、ちょっとありえない売れ行きとなりました。

茅台酒は中国では誰でも知っている伝統酒で、国賓を招くレセプションでは必ず出され、国酒とも呼ばれます。この茅台酒のエキスを使ったラテが醤香ラテです。94日に発売となり、その日に542万杯が売れ、売上は1億元を突破しました。それでもしばらくの間は、どの店舗に行っても、数百人待ちの状態で手に入らず、醤香ラテを求めて街を奔走する人も続出しました。

茅台酒の入ったコーヒーってどんな味がするんだろう?このラテを飲んだ後、車の運転をしても大丈夫?など、今までになかった商品であるため、さまざまな疑問が湧いてきて、とにかく一杯飲んでみたいと誰もが思ったからです。

 

このコラボキャンペーンは、今後、中国のマーケティングや小売の教科書に載せるべき優れた事例になっています。なぜなら、コーヒーにとっては若者は飲むけど、中年以降は飲まないという課題があり、茅台酒にとっては中年は飲むけど、若者は飲まないという課題があり、ジョイントすることで、双方がうまいこと補い合えるからです。双方にとって新しい世代層を取り込めるというメリットがあります。

コーヒーを飲む層は若者に、茅台酒を飲む層は中高年に偏っているため、このコラボキャンペーンは双方にとって、新たな消費者層を取り込める機会となった。単位:%

 

一般にこのようなブランドのコラボキャンペーンは、似たもの同士で行うことが多くなっています。例えば、実際には行われていませんが、スターバックス×BMWだったら、多くの人がありそうだと納得するのではないでしょうか。双方のブランドポジションが近いからです。これが意味がないとは言えません。互いのブランドイメージを強化することができるからです。しかし、どちらもほぼ同じ客層であり、新鮮味はなく、新たな顧客層を取り込むことはできません。

しかし、ラッキンと茅台酒は、誰もが想像しなかった組み合わせであり、双方が新たな顧客層を獲得しました。このキャンペーン以降、茅台酒の検索数の分析によると、25歳から34歳までが7%、35歳から44歳まで6%増え、茅台酒に注目をしている世代構成にも変化が見られました。若い世代が流入をしてきたのです。

 

しかも、このキャンペーンはラッキンが中心となって行いましたが、直前からSNSを使って予熱をかけるという考え抜かれたものでした。発売開始の3日前、ラッキンはSNSで謎の告知を行います。「次のコラボ相手はどのくらい高いーー53度」というもので、53度と言えば茅台酒のアルコール度数なのですが、まさかコーヒーに茅台酒を入れるのか?と誰もが半信半疑になります。2日前には「次のコラボ相手はどのくらい貴い?ーー貴州の貴」という謎の告知を行います。中国では金額が高いことは「貴」(gui)と表現します。つまり、どのくらいの価格の商品なのか?と問いかけて、貴州の貴と答えます。貴州と言えば茅台酒の本拠地ですから、もはや茅台酒×コーヒーであることは確実なのですが、多くの人がそんなものを飲んだことがないために半信半疑です。

ここまで煽っておいて、当日、コーヒーと茅台酒の特徴のあるボトルを並べたメッセージを出して「美酒×コーヒー」とアピールしました。誰でも一杯は飲んでみたいと思うのは当然です。

さらに、販売が始まると、今度は茅台酒側が発信を始めます。それは醤香ラテに使われる茅台酒エキスはどのようにつくられるかという映像で、さらに茅台酒がいかに手間がかけられて厳格に製造されているかを伝えるものです。

話題になったこともあって、ショートムービーのインフルエンサーたちが醤香ラテを飲んだ感想を投稿し、しばらくの間はSNSが醤香ラテの話題ばかりになりました。このタイミングで、ライブコマースでのチケット販売を始めます。販売開始の翌日のライブコマースでは4時間で17元のチケットが1000万元分売れました。

2023年の新製品キャンペーンの中で、最も大きな話題となり、そして最も鮮やかなものでした。このこともあって、ラッキンは売上高でもスターバックスを抜いて、中国で最も大手のカフェチェーンとなります。

今回は、2023年に小売業界で大きな話題となった事件をご紹介します。

 

先月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.209:ライドシェアの運賃はタクシーとほぼ同じ。それでも7割の人がライドシェアを選ぶ理由とは

vol.210:Z世代の新たな10の消費傾向。内向き、節約、伝統文化。小紅書の調査から

vol.211:劣悪品を排除し、低価格を実現する仕組み。Temuの革新的なビジネスモデルとは

vol.212:抖音、小紅書、微博などの8大SNSメディアを比較する。発信力などをマトリクス整理

vol.213:ファーウェイの独自開発OS「ハーモニーOS NEXT」とは。脱Androidだけではないその意味