タイのインバウンド旅行がコロナ前に戻りつつあるが、今ひとつ精彩を欠くのが、以前は28%を占めていた中国からの旅行客が戻らないことだ。団体旅行が戻らず、個人旅行ばかりになっていると泰国網が報じた。
タイのインバウンドは復活も、中国からはいまだ回復せず
タイのインバウンド旅行が復活し始めている。タイ政府の統計によると、2023年1月から10月までの統計で、タイを訪れた外国人旅行客は2150万人となった。タイは、2023年のインバウンド旅行者の目標を3000万人にしている。
しかし、タイを訪れた中国人旅行客は、270万人とコロナ前の30%にも満たない。コロナ前はタイを訪れる中国人客は1000万人を超えたこともあり、タイのインバウンド旅行客の28%を占めていた。
タイに行く中国人はほとんどが個人旅行となった
タイ政府は中国人旅行客を拡大するために、2023年から9月25日から、中国人観光客に対しビザを免除する政策を始めた。これにより、タイ旅行をする中国人客が増え始めてはいる。
これにより、中国人旅行客の層が大きく変わったという。団体旅行客がほぼいなくなり、個人旅行客ばかりになったのだ。そのため、タイ国内の観光業者も団体旅行を受け入れる体制から、個人旅行客を受け入れる体制に大きく転換を始めている。
ブロガーのデマでタイ旅行が激減
中国人のタイ旅行が低調だったことには理由がある。2023年3月、あるブロガーがタイに関するショートムービーを公開した。それはタイでは夜のエンターテイメントとして知られるイケメンモデルレストランで、女性客が密かに誘拐されているという内容だった。現実には、そのような事件は起きてなく、タイ観光局やタイ旅行を扱う旅行社などが否定をしたが、タイミング悪く、タイで中国人観光客が強盗にあうなどのトラブルが連続をした。これにより、海外旅行が再開した中国で、タイ旅行のキャンセルが相次いだ。
このようなデマを信じ、不安になってしまうのは中高年が多かった。中高年は海外に行く時に団体ツアーを利用する。一方、若い世代はこのようなデマに惑わされることなく、行きたい場所に行く。しかも、行動が不自由な団体ツアーではなく、ホテルや飛行機を自分で予約して個人旅行で行く。これにより、タイにいく中国人は、団体から個人へ、中高年から若者へという入れ替わりが起きた。
海外旅行から国内旅行にシフトする中国
しかし、タイの観光産業にとっては、もはや中国からのインバウンド客にはあまり期待できないかもしれない。個人旅行客は増える傾向にあるとはいうものの、その伸び率には勢いがない。ひとつは、コロナ禍によって海外旅行に行けなかった中国人は、海外旅行が再開すると以前と変わらず海外旅行に行くかと期待されたが、明らかに国内旅行にシフトをしている。国内旅行はすでにコロナ前を上回るようになっている。
中国人はこのまま国内旅行が主流となるのか、あるいは再び海外旅行に行き始めるのか、現状ではなんとも言えない。
現地でもお金を使わない中国人
もうひとつの課題は、中国自体の景気が悪化をしているということだ。このため、いわゆる「豪華な団体ツアー」は苦しくなっている。個人旅行が多くなったというのも、旅行会社や旅行マッチングサイトなどを利用して、ホテルや飛行機などを安く予約することが主流になっていることも影響している。
また、現地に行っても、余計なお土産を買うような姿は見られなくなっている。食事も観光客向けの豪華なレストランではなく、リーズナブルな地元の人が使う飲食店を利用する。その方が安上がりであるばかりでなく、変わったものが食べられて旅行を楽しめるからだ。現在では、SNS「小紅書」(シャオホンシュー)などで、詳細な情報を得ることができる。
SNSを使い、現地の情報を調べて、地元の人の生活を知る。それが今の海外旅行の楽しみになっている。
人気になると中国資本が進出をしてくる
タイ観光関係者にとって、もうひとつ頭の痛い問題が中国資本の進出だ。中国の個人旅行客が増え始めると、すぐに中国の商売人もタイに進出をしている。ドリンクスタンド「蜜雪氷城」、カフェチェーン「瑞幸珈琲」(luckin coffee)などがすでに出店しているほか、タイの伝統衣装をレンタルする店、タイの料理を出す飲食店などが、現地のタイ人との合弁で出展が進んでいる。
これにより、タイで暮らす中国人も増え、現地の中国人がなじみのある中国系カフェを利用するという状況になっている。
タイの観光関係者にとっては、コロナ前のように中国の旅行者と契約をすれば、団体さんが押し寄せてくるという時代は終わっている。中国資本と競争をしながら、観光客を惹きつける商品、サービスを提供しなければ生き残って行くことができない時代になった。