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飲食の回復の鍵はミニ店舗多展開。全国区に進出をする老舗「甘食記」

新型コロナの感染拡大への不安が消え、飲食店の拡大が始まっている。そこで鍵になっているのがミニ店舗多展開だ。1912年に成都市で創業した「甘食記」は、この手法で一気に42都市100店舗に拡大をし、今年2023年はさらに200店舗を出店する計画だと紅餐網が報じた。

 

経済回復はまず飲食店から

新型コロナの感染拡大への不安が消え、飲食店の開店ラッシュが続いている。コロナ禍の間、外出が制限され、多くの飲食店が経営が厳しくなり、休業だけでなく、閉店も相次いだ。しかし、感染拡大の不安が消えると、経済回復は飲食からやってきた。国家統計局の社会消費品小売総額(個人消費に相当)と、飲食収入の伸びを比較すると、2021年の飲食収入の伸びが個人消費を大きく上回っている。つまり、飲食から経済回復が始まっているということだ。そのため、各チェーンともに新規開店を進めている。

▲社会消費品小売総額(個人消費)と飲食収入の前年比伸び率の推移。2021年は個人消費も伸びたが、飲食収入はさらに大きく伸びている。経済回復はまず飲食から始まり、それが個人消費に波及をする形で進んでいく。

 

小店舗、ミニ店舗が新規出店の中心

しかし、コロナ禍以前とは大きく違ったことがある。それは多くのチェーンが小店舗、ミニ店舗の出店を進めていることだ。以前の飲食チェーンでは、初期投資が20万元から50万元の店舗が主流だったが、2022年は10万元から20万元の小型店舗の出店が、前年と比べて47.6%も増えた。

中規模店舗を1点出店するよりは、小型店舗2店または3店出店する方がいいと考えるフランチャイズオーナーが増えているからだ。

▲激安ドリンクスタンド「蜜雪氷城」は、そもそもがスタンド店が中心であり、すでに2.4万店舗を突破した。

▲蜜雪氷城の目論見書に記載された店舗数と閉店率。拡大スピードが加速をしているだけでなく、閉店率が大きく下がっている。ミニ店舗の多店舗展開で、認知が上がり、多くの店で業績が上向いているからだ。

 

ミニ多店舗出店の2つのメリット

オーナーがそう考えるようになったのは、ミニ店舗出店による成功例が出てきていることが大きい。激安ドリンクチェーン「蜜雪氷城」(ミーシュエ)は、地方都市を中心に2.4万店舗を突破し、フライドチキンの「正新鶏排」(ジャンシン)は1.7万店舗を突破した。

中国では飲食の内容にもよるが、全国区と呼ばれるには1万店舗が必要であり、ミニ店舗を出店することで、コストを抑えながら、全国区規模のチェーンに短期間で成長させることができる。

店舗数が多いことはチェーンにとっては、非常に有利になる。ひとつはどこにでもあるというマインドシェアの問題だ。多くの人が店舗を見かけることになり、名前や看板を覚えてくれる。人は何かを選ぶとき、記憶に残っている方を選んでしまいがちだ。

また、デリバリー注文でも有利になる。デリバリーアプリを開くと、現在地から配達可能な飲食店の一覧が表示される。店舗数が多いということは、この一覧に載る確率が高いということだ。多店舗展開は、現実の距離だけでなく、ネット上の距離も縮めてくれる。つまりは、タッチポイントを増やすことができるのだ。

▲鳥の唐揚げ「正新鶏排」もミニ店舗展開で1.7万店舗を突破した。

 

ミニ店舗展開で拡大をする甘食

このミニ店舗展開を戦略的に行なって店舗数を増やしているのが「甘食記」(ガンシージー)だ。1912年に成都市で創業した甘食記は、成都肥腸粉(モツ煮込み麺)をメインにした老舗の中華ファストフードだ。

創業以来、成都市内に店舗を出していたが、2020年から成都市の外に出店するようになり、すでに全国42都市100店舗になっている。2022年からは小型店舗の出店に注力し、出店ペースを加速させた。

甘食記の標準店は60平米で客席数は30程度だが、2022年8月から出店を進めている小型店舗は20平米で客席数は10以下だ。

▲1912年に成都で創業した地元老舗料理店「甘食記」。ミニ店舗展開という考え方で、全国展開が可能になった。

 

ミニ店舗が標準店舗と異なる3つの工夫

小型店舗は単なる標準店の縮小版ではなく、3つの工夫がされている。

ひとつはSKU(品目数)を24から10に縮小したことだ。標準店での売上上位30%に入るメニューの中から、調理効率などを勘案した上で最適化をしている。

2つ目は、朝、昼、晩のピーク時には、セットメニューを提供するようにしたことだ。メニューを個別に注文するよりもかなりお得になる価格設定にしている。これにより、単品だけではなくサイドメニューも食べてもらえ、顧客の満足感があがる。さらに、セットメニューの注文が多くなるため、調理、配膳などの店舗オペレーションの効率があがる。そして、安定的な売上を確保できる。

3つ目が紙製の使い捨て食器を採用したことだ。これにより食器洗いという業務、食器洗い機を設置するスペースが不要となり、狭い店舗を効率的に利用するができる。

▲1912年に成都で創業した老舗のもつ煮込み料理の甘食記は、ミニ店舗により全国展開をし、42都市100店舗に達した。2023年は200店舗の新規出店を計画している。

 

フランチャイズとも相性のいいミニ店舗

このような小型店舗は、直営店としても、短期間にチェーン拡大をする手法として使われているが、より歓迎されているのはフランチャイズ加盟店だ。不動産などを所有している加盟店オーナーが最も気にするのは、初期投資回収期間だ。店舗を開店して、初期投資を回収するまでの期間は短ければ短いほどいい。初期投資を回収すれば、投資として損をすることはなくなり、以後の黒字はすべて儲けとなる。不幸にも赤字だった場合は、損切りをして撤退してしまえばいい。それでも、初期投資は回収済みなのだから、投資としては失敗にならない。

しかし、初期投資がまだ回収できていない営業不振は、損をすることを覚悟で撤退をするか、頑張って営業を続け、初期投資回収まで粘ってみるか、難しい選択を迫られることになる。

そのため、加盟店オーナーは、標準店1店舗に投資をするよりも、小型店舗3店舗に投資をしたいと考えている。店舗の成功確率が50%だとすると、標準店1店舗に投資をした場合失敗する確率は50%だが、小型店舗3店舗すべてが失敗する確率は50%×50%×50%=12.5%という小さなものになる。1店舗失敗しても、残りの2店舗が成功していれば全体の初期投資を回収するのも難しくない。オーナーからも、リスクを分散させる手法として好まれるようになっている。

現在、100店舗の甘食記は、2023年には200店舗を新規出店する計画で、そのうちの半分以上は小型店舗になるという。