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デジタル化はいつかやらなければならない負債。大学生が開いた麺屋が200店舗チェーンになれた理由は創業時からのデジタル化

大学生3人が開いた麺屋「遇見小面」は現在200店舗のチェーンに成長している。成長の理由は創業時からデジタル化を前提の設計を行なっていたことだ。デジタル化はいつかやらなければならない負債で、やるのであれば早ければ早いほどいいと金羊網が報じた。

 

大学生たちが開いた麺屋。武器はデジタル

2014年、華南理工大学を卒業した3人の学生が重慶市に行き、数ヶ月間、麺づくりの修行をして、広東省に戻り、30平米の小さな麺屋を開店した。淡白な塩味が好まれる広東省で、重慶の辛い麺を提供する。しかし、創業者の蘇旭翔(スー・シューシャン)には、辛い四川火鍋が中国各地で受け入れられているのだから、辛い重慶麺も受け入れられるはずだという思いがあった。

そして、武器にしたのは、最初からチェーン展開の設計をし、徹底したデジタル化だった。蘇旭翔が開いた「遇見小面」は現在、十数都市に200店舗を展開するチェーンに成長している。

広東省に開店した遇見小面の1号店。人気の秘密は味だけでなく、デジタルを活用したユーザー体験にもあった。

▲遇見小面が提供する重慶麺。塩味中心の広東省で、辛い重慶麺も受けるという確信があった。

 

作業を標準化し「チェーンの味」を確立

2014年はアリペイ、WeChatペイなどのスマホ決済の対面決済が始まったばかりであり、スマートフォン普及率もまだ携帯電話利用者の半数以下という時代だ。

蘇旭翔は、まず商品の標準化から始めた。伝統的な重慶麺では、茹で時間や調味料の量などは、麺職人の勘に任されていた。それが「店の味」になると信じられていた。チェーン展開を前提とした遇見小面では、すべての工程時間、配合について、試作を繰り返し、最適な工程と配合を決定し、「チェーンの味」を確定した。

▲業務の標準化を最初に行い、チェーンの味を確立し、チェーン展開できる状態にして1号店を開店した。

 

店内モバイルオーダーをいち早く導入

さらに、近い将来、スマホ決済の時代がくると予測し、スマホ決済を取り入れ、従業員の負担を減らし、顧客の体験を向上させる施策を次々と行っていった。

活用をしたのが、すでに多くの人が使っていたSNS微信」(ウェイシン、WeChat)のミニプログラムだった。テーブルの上には二次元コードが貼り付けてあり、これをWeChatでスキャンすると、ミニプログラムが起動し、そこから注文とWeChatペイによる決済ができる。今日では多くの飲食店が取り入れている店内モバイルオーダー方式だが、遇見小面では創業時はウェブで、WeChatにミニプログラム機能が搭載されてからはミニプログラムで行っている。

しかも、ただ使わせるだけではない。モバイルオーダーをすると1割引にし、なおかつ火曜日にはミニプログラムに合言葉を提示し、この合言葉を注文時に入力すると3割引になる。さらに、WeChatの遇見小面公式アカウントをフォローすると、月ごとの利用額に応じて、割引クーポンや小皿料理の無料クーポンがもらえる。

このような施策を行うことで、現在では95%の客がモバイルオーダーを利用するようになっている。

▲テーブルに貼られている二次元コード。これを自分のスマホでスキャンすると、WeChatミニプログラムが起動し、注文と事前会計ができる。

▲遇見小面のミニプログラム。デリバリー、店舗受け取り、店内オーダーなどがこのミニプログラムからできる。

▲遇見小面では、テーブルの二次元コードから店内モバイルオーダーをするのが基本。フロアスタッフの業務負担が減るだけでなく、さっと食事を済ませたい人にはユーザー体験が向上する。

 

デジタルを利用する理由は「効果があるから」

遇見小面がこのようなデジタル施策を行う理由は単純で、「効果があるから」というものだ。特に粘性(リピート率)を高める効果がある。モバイルオーダーは従業員にとっては注文、会計などの業務負担を減らすだけでなく、顧客にとっても注文、会計の煩わしさを減らしてくれる。特に重慶麺は、さっと来て、さっと食べて、さっと帰るというメニューだ。余計な手順が省けるのは、ユーザー体験の向上にもつながっている。そのため、お昼をさっと済ませたいという考える人が遇見小面を利用してくれる。

コロナ禍の間も正常営業をし、大きな影響はなかった。一人できて、さっと食べて、さっと帰る店であるため、感染の不安が少ないからだ。

▲注文をデジタル化したことにより、クーポンの多様な配布が可能になった。利用客の利用履歴に合わせて適切なクーポンを配布することで、リピート率をあげることができる。

 

デジタル化はいつかやらなければならない負債

このような注文のデジタル化を行ったことにより、売上データが自動的にデジタル化をされ、30分ごとの売り上げ状況がリアルタイムでわかる環境ができあがった。

このデータを機械学習し、売上予測を立てることは、精度の問題はともかく、難しいことではない。遇見小面では、この売上予測により、食材の仕入れやスタッフのシフトを決定している。

もちろん、機械学習は万能ではなく、店舗周辺で大きなイベントがあった場合などは予測できない需要が生まれることもある。しかし、予測システムを導入する前は、店長が発注作業に毎日1時間はかけていたが、それが予測システム導入後には20分で済むようになった。人が発注をしても外すことがあり、機械学習によりその外れの確率は大きく下がり、しかも毎日の作業が半減をしている。導入の効果は決して小さくない。

蘇旭翔は言う。「飲食チェーンにとってデジタル化はいつかやらなければならない負債のようなものです。いずれしなければならないのであれば、早ければ早いほどいいのです。デジタルシステムは遇見小面にとって神経組織のようなものです。この神経組織がなかったら、スタッフが協調して動くことができません。チェーン展開をするには必須です」。

▲創業者の蘇旭翔。1号店を開店する前からチェーン展開を想定して、デジタル化を進めた。

 

デジタル化した飲食店は投資資金を獲得しやすい

さらに、デジタル化は投資資金を獲得する上でも大きいという。投資家は「売れている飲食店」に投資をするのではなく、「売れる見込みが立つ飲食店」に投資をしたいと考えている。この「見込み」が、店の味や職人の技術といった曖昧なものでは投資に踏み切る決断がしづらい。しかし、デジタル化をしていることで、チェーンが拡大しても、同水準の品質、サービスを提供できるということが投資家の背中を強く押してくれる。

飲食店経営者の多くが「デジタル化は必須」と考えながら、実際にデジタル化を進めている飲食店はまだまだ一部にとどまっている。一店舗だけのオーナーシェフの飲食店であればデジタル化の必要性は薄いが、支店を出す、チェーン化を企図するというのであれば、デジタル化は必須になっている。