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中学生の間に流行る丸文字、クジラ文字などのオリジナル書体。教師たちはOCRで対策

手書きを重視する中国の教育現場では、中学生の間にオリジナル書体が流行をしている。丸文字など、どの国にもある現象だ。しかし、判読が不能な書体も登場し、教師たちはOCRが認識できるかどうかをひとつの基準にしていると薇薇教育説が報じた。

 

ICT教育が進んでいるからこそ、手書きを重視する

中国でもICT教育は進んでいるが、特徴的なのは手書きも重視されていることだ。特に中学生までは、手書きによる文字習得が徹底される。授業のノートも手書きであり、試験も手書きだ。現実の社会では、文字を手で書く機会はほとんどなくなっている。そのため、10代前半ぐらいまでの間に、手で文字を書く経験を大量に積ませないと、文字文化の理解ができなくなると考えられている。

 

独自の書体を編み出す中学生たち

文字をほぼ習得した中学生の間では、誰もが独自の手書き書体を開発しようとし、書体の流行がたびたび起きる。

広く流行したのが「鯨落書体」だ。なぜ、鯨落と命名されているのかはよくわからないが、「クジラの死」という逸話が学生の間ではよく知られている。クジラが命を終えると、その巨大な体はゆっくりと海底に沈んでいき、栄養分の少ない深海で、多くの無脊椎動物の栄養源となり、死のにおいが強い深海で、ひとつの生態系が生まれるというものだ。このような悲しくも美しい物語をイメージしたのが、鯨落書体だと言われている。文字は小さめで、整然と並び、無駄がないのが特徴だ。

面白いのは、このような書体が流行り出すと、ネットに書体サンプルやマスターするためのポイントを解説した動画などが大量に出回るようになる。多くの生徒が、ネットでこのような情報を調べて、練習をしてマスターをする。

▲一時大流行をしたクジラ書体。直線が多く、クールな印象を与える。

 

チーズ書体

その次に流行したのが「奶酪書体」(チーズ書体)だ。あたかもチーズに刻んだような直線を意識した書体になっている。特徴的なのは「口」が逆三角形のようになることだ。

これも、ネットで教本が出回り、それを見て、多くの生徒がマスターする。

▲チーズ書体。硬いチーズを切ったイメージのようだ。

 

欧陽娜娜から始まった欧陽娜娜書体

欧陽娜娜書体も女子生徒の間で流行した。欧陽娜娜(オウヤン・ナナ)は、台湾出身のチェロ奏者で、音楽面だけでなくインフルエンサーとしても人気がある。その欧陽娜娜の手書き文字が愛らしいと、流行をした。

▲欧陽娜娜書体。女性に人気のある欧陽娜娜が使っている書体。

 

中国にもある丸文字

また、最近、流行しているのが「湯円書体」だ。湯円はもち米でつくったお団子を煮たお団子のこと。中にはゴマとアンコのような甘みのあるアンが入っているものや、肉が入っているものもある。

湯円書体は、このような湯円をイメージしたもので、全体に丸い。日本でも使われる丸文字に近い感覚のものだ。

▲丸文字。優しさを感じる書体は、世界どこの国でも女性に愛されている。

 

オリジナル書体は創作活動。教師も認めている

学校では、このような独特の書体はどう評価されているのだろうか。多くの教師は咎めたりしない。書体を学んだり、考案したりすることは、重要な文化的な創作活動のひとつであり、むしろ奨励をしている。

しかし、主にお調子者の男子生徒に多いが、あまりにも独特すぎる書体をつくってしまう生徒もいる。

例えば「鋼絲球書体」だ。スティールウール=ハガネタワシのことで、文字画が絡まってしまい、判読することはほとんど不可能。また、「楔形書体」「鬼画符書体」なども男子学生を中心に流行をしている。

しかし、教師はこのような書体に関しては、奨励をしないどころか、禁止をしている。なぜなら判読ができないため、文字の本来の伝達機能を果たしていないからだ。

▲鬼画符書体。実際の処方箋に書かれた医師の文字。薬局ではちゃんと判別ができる。

▲ハリガネタワシ書体。鬼画符書体をさらに発展させたもの。ほんとうに本人も読めるのかどうかは不明。

 

OCRが判読できるかどうかが教育現場での基準に

しかし、鬼画符書体では、面白い議論が起きた。この書体の元になっているのは、医師のカルテに使われる書体であり、忙しい医師はカルテを書くときに、極限まで省略をした文字を使う。まるで鬼画符(お札)の文字のようだと言われ、普通の人には何が書いてあるのかまったくわからない。これは教育の場で使う書体としては好ましくない。しかし、病院の中では誰もが読むことができ、重要な薬の名前なども間違えることはない。文字として成立しているではないかという反論もある。

教師たちは、さらに対抗をした。現在の中学、高校では、手書きのレポートが提出されると、多くの教師がそれをOCRにかけてテキスト化をし、それから採点をする。生徒の成果物の保存がしやすくなることや、内容に集中して評価できるようになること、クラウドに保存をしておくことでどこでも採点業務ができるなど、さまざまなメリットが生まれるからだ。

ところが、あまりに独特すぎる書体はOCRが判読できない。教師たちは、その判読できなかったOCR出力テキストを元に採点をする。つまり、鬼画符書体はほとんどの場合、0点となる。レポートをどのような書体で書くのかは生徒の自由。ただし、教師はOCRを通して採点をするので、OCRに判読できる文字で書くことを意識することということで決着をした。

流行をしている「鯨落書体」「チーズ書体」「湯円書体」はいずれもOCRで問題なくテキスト化される。このような書体は、すでにデジタルフォント化され、淘宝網タオバオ)などで購入することができ、PCやスマートフォンでも利用することができるようになっている。