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内在する欲求に対して商品リコメンドをするTikTokのEC。「興味EC」「アルゴリズムEC」という新しいECのスタイル

中国版TikTok「抖音」内のECが急成長をしている。TikTokのリコメンドアルゴリズムを活用し、消費者の内在する欲求に訴えかける商品リコメンドが可能になっているからだ。この抖音ECは、「興味EC」とも「アルゴリズムEC」とも呼ばれ、伝統的な商品検索方式のECとはまったく異なる世界を展開していると川叫獣が報じた。

 

TikTokのECが上方修正を繰り返す成長ぶり

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)のEC機能が急成長をしている。運営元のバイトダンスによると、2020年の流通総額(GMV)は5000億元(約8.6兆円)に達し、2019年の3倍以上となった。バイトダンスは当初、2020年の目標を1200億元から1500億元にしていたが、2020年半ばに目標額を2500億元に上方修正したが、最終的にその2倍の成績を達成した。

2021年4月に、バイトダンスは抖音の販売業者を集めたカンファランスを初めて開催した。ここで、バイトダンスが提唱した概念が「興趣EC」(興味EC)という概念だ。また、なぜ、抖音のECが急成長をしているのかという点で、参加者からは「アリゴリズムEC」という言葉も使われるようになった。

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▲バイトダンスのTikTok ECの販売業者大会で「興趣電商」(興味EC)という新しい考え方が提案された。

 

「興味EC」「アルゴリズムEC」という新しい概念

抖音のECが伝統的なECと最も大きく異なる点は、商品説明がショートムービーやライブ配信であるという点だ。このようなムービーやライブも、抖音の通常のムービーと同じようにアルゴリズムで配信される。

伝統的なECは、消費者が買いたい物をイメージして、それをECで検索して商品を探して購入する。人が商品を探す。

リコメンドも購入傾向が近い人の間で売れているものをプッシュする。「あなたと似た人はこんなものを買っています」という薦め方だ。しかし、このリコメンドは難しい。例えば、お風呂の洗剤をそのECで定期的に購入している人は、「お風呂の洗剤が好きな人」になってしまって、トイレの洗剤やキッチン洗剤などが薦められることになってしまう。実際の購入傾向は、その人の内在するニーズとは必ずしも合致しないのだ。

 

コンテンツを好む人を探す独特の機械学習アルゴリズム

一方、抖音の商品説明ムービーやライブは、他の一般的なムービーと同じようにアルゴリズムで配信される点が大きく異なっている。抖音では、一般のムービーが投稿されると、その内容をAIが解析を行い、タグづけを行う。そして、ランダムな小集団に配信をされ、その反応が機械学習されていく。その結果から、反応がいい視聴者と似たプロフィールの、より大きな視聴者集団に配信をされ、その結果がさらに機械学習される。これを繰り返しながら、配信する集団を段階的に大きくしていく。

この方法は、伝統的なECの「人が商品を探す」のではなく、「商品が人を探す」ことになる。商品が、その商品を好みそうな人を探していくのだ。

こうすると、隠れた嗜好を掘り起こすことが可能になる。例えば、ECでお風呂の洗剤しか買ったことない消費者集団がいたとする。伝統的なECであれば、洗剤をリコメンドすることになる。

しかし、アルゴリズムECでは、スイーツのムービーが最初の集団で、洗剤しか買わない視聴者にも反応がいいと学習されれば、同様の視聴者に配信がされていく。視聴者がムービーを見ることで、「私は、実はこれに興味がある」ということを教えてくれるのだ。

これにより、購入傾向ではなく、その人の内面にある興味に則した商品を紹介することができるようになる。

付加価値を伝え、価格競争から脱却

興味ECのもうひとつの利点は、低価格競争から脱することができる可能性があることだ。例えば、ある都市からある都市に移動するのに、鈍行列車で20時間、高鉄(中国版新幹線)で3時間だったら、誰でも高鉄のチケットを買う。

しかし、抖音のムービーやライブでは、配信主が商品を紹介する。配信主は、その商品を機械的に説明するのではなく、その商品のどこに価値があるのかを説明する。高鉄のチケットは「快適、時間の節約」という価値がある。しかし、鈍行列車20時間の旅に「旅情」という価値があるということを伝えられれば、そこに興味を持ってわざわざ鈍行列車の旅をする人が出てくるかもしれない。

このような付加価値を提案できる商品ジャンルは「食飲遊楽泊」に多い。「高級ホテルの宿泊チケットを驚きの安さで提供」が伝統的なECの手法だとすれば、「高級ホテルに宿泊すると、こんな楽しみ方ができる」というのを伝えるのが興味ECで、消費者がその提案に興味を持てば、正規料金であっても購入する人はいる。

しかも、抖音のECでは、「高給ホテルに泊まろう」と決心をした人が商品を検索するのではない。抖音のムービーを見ていたら、高給ホテルの楽しみ方を提案するムービーが配信されてくる。それはアルゴリズムによって、その人の内在する興味に合致している可能性が極めて高い。視聴者から見れば、偶然の出会いであったかのように見える。その場で購入してしまうか、ブックマークをしてくれる可能性が高い。

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▲抖音で北京市で購入できる商品を検索すると、ホテルやレストランが大量に現れる。その多くが、「ちょっと贅沢な体験」になっている。

 

ターゲットは食飲遊楽泊の5つのジャンル

消費者は、お風呂の洗剤のように関心度が低く、大量生産され、さまざまな価格で販売されている商品については、1円でも安く買おうとする。それはお金を節約したいというよりも、同じものを高値で買ってしまうという悪い体験を避けたいと考えるからだ。

しかし、興味ECの食飲遊楽泊商品には、配信主によってそれぞれの付加価値がつけられるので、同じ商品はひとつもない。自分にとっては、少し出費がかさむと感じたとしても、その価値が価格を上回っていれば、購入する。

これを「ECに革命が起きた」とまで言う人もいる。いささか大袈裟な表現かもしれないが、確かに伝統的なECとは考え方が根本的に違っている。そして、それだけの成果もあげている。

バイトダンスはニュースキュレーションやショートムービーの世界で、AIを使って、既存のライバルたちを陳腐化させてきたが、ECの世界でも同じことが起きないとは誰も断言できない。

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▲「抖音は真剣にECを行う」として、「質の高いGMVこそが核心的な指標」だということも提案された。ただ、売上があげることではなく、付加価値をきちんと伝えて適切な価格にすることが重要だという考え方だ。