EVは寒冷地に弱いというのはもはや常識になっている。そのため、長春市ではバッテリー交換式のEVが普及している。交換は3分でできるため、寒冷地でもEVが利用できるからだ。ところが、その発想に思わぬお落とし穴があり、混乱が起きていると懂懂筆記が報じた。
新エネルギー車普及率が25%を突破
中国の新エネルギー車普及率が2022年末で25%を超えた。新エネルギー車のナンバープレートは緑色のもので、さまざまな特典が受けられていたが、この緑ナンバープレートも廃止される。つまり、電気自動車(EV)がもはや珍しいものではなく、日常のものになったということだ。
しかし、地区別に普及率を見ると、最高は大都市上海、広州がある華南地区で32.00%となったが、最低は東北地区の9.73%となっている。寒い地域では、EVの普及が遅れている。寒冷地では、バッテリーの出力が落ち、なおかつ充電にも時間がかかるようになるからだ。
ある充電サービスを提供する企業のスタッフが懂懂筆記の取材に応えた。「理由はシンプルです。リチウムイオンバッテリーは低温活性が低いため、EVの航続距離が短くなります。また、充電効率も低下するために充電時間も長くなります。夏であれば急速充電であれば30分で80%の充電ができますが、冬季には1時間以上かかります」。
寒冷地では交換バッテリー式でいくはずだったが…
このため、業界では「南は急速充電、北は交換バッテリー」という言葉が使われるようになっている。寒冷地では充電に課題があるため、交換バッテリー方式のEVを売り込もうというものだ。
交換方式のEVは、専用のステーションにいき、底面のバッテリーを外して充電済みのバッテリーに交換する方式。作業は自動化されているため、3分程度で終わる。このため、ガソリン車と同じ感覚でエネルギー補給ができる。交換バッテリーも出力は小さくなるが、交換をするのであれば、スタンドによる回数は増えるものの、ガソリン車と同じ感覚で利用することができる。
吉林省長春市では、すでに交換バッテリー方式のEVタクシーが導入されるようになっている。
盲点だった交換式の大きな問題
ところが、この冬、思いもよらない問題が発生した。雪が降ると、どこの交換ステーションにもバッテリー交換を待つEVの長い行列ができてしまったのだ。
交換バッテリーはEVの底面にある。雪道を走ると、雪が底面に跳ね上げられる。気温は零下なので、この跳ね上げられた雪と水が再び凍結し、バッテリーが外せなくなってしまうのだ。
このため、バッテリー交換をする前に、ハンマーなどの道具を使って底面の凍った雪を叩いて取り除くか、温風機で氷を除去しなければならない。この作業をするためにバッテリー交換に時間がかかり、長蛇の列ができてしまったのだ。この氷を取り除く作業は1時間近くかかることもあり、タクシー運転手の多くが不満の声をあげている。
長春市では、交換ステーションを増やす緊急発表を行ったが、すぐには設置できず、根本的な解決にはらない。冬季になると、航続距離が短くなることは運転手はわかっているので、余裕のあるうちに交換をしようとする。これにより交換回数も夏季よりも増える。さらに、充電効率も悪くなるため、新たに交換されたバッテリーも満充電ではなく、60%から70%相当になってしまう。これでさらに交換回数が増える。
夏の間は問題がないものの、零下になる冬を迎えと東北地区では、EVがまったく役に立たなくなってしまう。
なぜ寒いはずの北欧でEVが普及をしているのか
北方のEV普及で参考になるのが北欧諸国だ。例えば、ノルウェーはすでに新車販売の65%ほどがEVになり、2022年は80%程度まで上昇したと見られる。北方の国でありながらEV先進国となっている。ノルウェーのような北極圏に近い国で、充電問題はどうしているのだろうか。
実は北欧は想像よりも寒くない。ノルウェーの首都であるオスロの年間平均気温は6.7度であり、1日の平均気温が零下になるのは12月、1月、2月の3ヶ月間だけだ。月間の最低気温の平均が最も低くなるのは2月の-7度でしかない。一方、中国東北の内陸の都市、長春市は、平均気温が零下になる月が5ヶ月もあり、最低気温は-20度にもなる。オスロの方がずっと気候は温暖なのだ。
さらにノルウェーの都市は温暖な東南岸沿いに集中をしており、ほとんどの人口が温暖な海沿いで暮らしている。北極圏に近く、気候が厳しい地域もあるが、その多くは森林で人は住んでいない。
また、都市がコンパクトにできているため、移動距離が短く、自動車の1日の走行距離は冬では80km以内、夏は120km以内という通勤、買い物の利用であるため、EVでじゅうぶん事足りる。
さらに、ノルウェーでは政策により公共充電ステーションを整備している。1100ヵ所以上の急速充電ステーション、7500ヶ所の通常充電ステーションがあり、そのほとんどは人口が集中している東南岸都市にあるため、540万人という人口を考えるとじゅうぶんすぎるほど整備されている。そのため、オスロの人が充電を心配することはまず起きない。
駐車場に充電設備を拡充していく方法しかない
中国の東北部では、「南は急速充電、北は交換バッテリー」に思わぬ課題が見つかったため、現在は「南は急速充電、北は通常充電」が合言葉になろうとしている。住宅や社屋の多くが、充電設備を備えるためには電気設備を更新する必要があるため、充電設備を備えていない。そのため、多くの人が公共あるいは民営の充電ステーションを利用することになる。充電時間を待っていると時間を無駄にすることになるため、少しでも早く済む急速充電ステーションに車が集中することになるという悪循環に陥っている。
しかし、自宅に帰ってマンションの駐車場に車を停めている夜はほとんど車を使わない。会社に出勤して仕事をしている間はほとんど車を使わない。このような住宅と企業の駐車場に充電設備があれば問題は解決する。しかも、かなりの長い時間、車を駐車しているのだから急速充電である必要はない。導入費用は安く済むことになる。
現在、長春市政府など、東北の都市政府は、住宅や社屋の電気設備の更新費用を補助する政策を考え始めている。東北地区にEVが普及するにはまだまだ時間がかかりそうだ。