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今回は、アリペイとデジタル人民元の関係についてご紹介します。
アリババの創業者である馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)氏が日本に半年もの長期滞在をしていることは多くの読者の方が報道などでご存知だと思います。なぜ日本にいるのか、その理由はご本人しかわかりませんが、中国のメディアでは日本の農業と水産養殖技術を学ぶためとされています。
しかし、1月7日にはタイのバンコクに現れ、ボクシングの試合を観戦したというニュースが報じられ、その後、香港に移動し、旧正月である春節は香港ですごしているそうです。香港にいるということは、中国へ帰国する準備でもあるため、いつジャック・マーが中国に入るのかが注目をされています。
この間、ジャック・マーの周辺には大きな変化がありました。それはスマホ決済「アリペイ」を運営する螞蟻集団(アントグループ)の株主構成の大幅な変更があり、実質的な支配者であったジャック・マーが一株主の地位に後退したというものです。
アントは、元々アリババのアリペイ部門が独立したもので、上場をすればアリババ、テンセントに次ぐ、大型テック企業になることは確実です。ジャック・マーの代わりに大株主になったのが、杭州星滔という政府出資の投資企業です。ジャック・マーの虎の子のようなアントグループを政府に召し上げられてしまったことになります。
これだけ聞くと、何かひどい話のように思えます。確かに2020年以降のジャック・マーは、政府との関係が大きく動き、そこから私たちは壮大な善と悪が衝突するストーリーを描き出してしまいます。
その壮大なストーリーの主役は善の象徴であるジャック・マーで、ジェダイの騎士のような存在です。悪の象徴は習近平主席で、ダースベーダーのような存在です。このストーリーでは、ジャック・マーは、中国でライトセーバーを取り上げられ、フォースの力も封印されてしまったため、ダークサイドに落ちるのを避けるために日本に長期滞在していたということになります。映画化をしたら、なかなか面白そうなストーリーです。
中国の政権内部で、何が起きているかは正確なことは誰にも知ることはできません。中国は社会主義国であり、政権の情報統制は私たちの想像を超えた厳しさにより律せられています。公式発表以外、一切の情報を漏らしません。引退をしても回顧録など出版しませんし、政権内部にいるときに親しい記者や友人にオフレコで話すということもありません。万が一、漏らしたりすると、すぐに粛清されて失脚することになります。
ですので、世の中に出回っている「政権内部では…」という情報は、すべて、外部の人による推測になります。もちろん、推測だからといって、無意味な情報というわけではありません。種々の状況と照らし合わせて、合理的な推測もあれば、不合理な推測もあります。そして、個人の妄想を乗せたファンタジーもあります。このジャック・マーの物語は、この3つのうちのどれでしょうか?
ジャック・マーのジェダイの騎士の物語は、複数のエピソードに分けて映画化すべきほど長い物語です。
ことの起こりは、2020年7月に、アリペイを中心にフィンテックサービスで成長したアントグループが上海と香港に上場を申請したことから始まります。上場をすれば、アリババ、テンセント以来の大型上場になることは確実でした。8月には上場申請が受理をされ、大きな問題がなければ上場されることが確実になりました。
しかし、その最中の10月24日、上海の外灘で開催された国際金融フォーラムで、ジャック・マーは政府批判とも取れる発言をします。
欧米メディアが問題だと指摘した部分は次のものです。「バーゼル合意は老人クラブのようなもので、未来を規制するのに昨日の方法を使うことはできない」。
バーゼル合意とは国際的に導入が進んでいる銀行の自己資本比率の規制です。要は銀行の自己資本に最低ラインを定め、体力をしっかりしてもらい、それができない銀行には退場してもらおうというものです。内容的にはBIS規制のことです。中国もこのバーゼル合意には参加をしているため、中国政府が支持するバーゼル合意を意味のないものだと批判したというのです。それで習近平主席が激怒したということになっています。
ウォールストリートジャーナルの報道(https://jp.wsj.com/articles/SB10630137526570893697904587200250766804684)によると、習近平主席の怒りを恐れたジャック・マーは、11月2日に、アントの一部を政府に譲渡すると申し出て許しを乞おうとしますが、習近平主席はこれを拒否。
11月3日、上場される36時間前に、上海の証券取引所が、当局の監督指導が行われているため、アントの上場を一時延期すると発表しました。後に、この延期期限は無期限であることも発表されました。つまり、アントの上場は中止になったのです。
あるアリババ社員によると、この時、アントの社屋から大きな悲鳴があがり、それがアリババ社屋でも聞こえたほどだったと言います。アリババとアントは同じキャンパス内にありますが、もちろん人の声が聞こえるような近い距離ではありません。それほど大きな悲鳴があがったということです。なぜなら、アントの社員の40%は自社株を保有していたからです。平均で3万株ほどだそうで、上場をすれば確実に数千万元(数億円規模)の資産になります。アントは、社員の半数近くが億万長者という夢のような企業になれるところだったのです。気の早い人は、海南島あたりに別荘を買ってしまっていたかもしれません。
これ以来、ジャック・マーは公的な場所に顔を出さないようになり、世界中で「失踪説」が駆け巡ります。
そして、習近平主席はアリババに対して独禁法による捜査を始め、2022年4月には182億元(約3000億円)という高額の罰金が課せられます。さらに、5月にはジャック・マー逮捕の報道が流れます。罪状は海外の反中敵対勢力と結託して国家分裂と政府転覆を扇動した容疑です。
ところがこれは中央電子台が「馬某」と報じたものであり、別のマーさんであったようです。中国では逮捕者の人権を守るために、刑事事件であっても実名報道はほとんどされず、「某」と伏字にするのが一般的です。これが誤解をされたようですが、陰謀論が好きな方は、これは実在しない逮捕であり、ジャック・マーに対する習近平主席の警告メッセージだと言います。
その直後、ジャック・マーは日本に飛び、身を隠すために長期滞在をしていたというストーリーです。
そのジャック・マーがいよいよ香港に入り、中国に入るタイミングをうかがっています。ついにジャック・マーの反撃が始まるのか?エピソード4「ジェダイの帰還」に乞うご期待というのが、だいぶ茶化してはいますが、世間で語られるストーリーです。
確かに面白いストーリーですが、私には中国政府がデジタル人民元を着々と拡大させ、国際基軸通貨になる計画を進めているように見えます。魅惑的なストーリーの裏では、日本経済の将来に大きな障害となる人民元の国際化が進んでいるように見えます。
今回は、デジタル人民元とアリペイの関係についてご紹介します。
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