アリババがSNS EC「小紅書」そっくりのアプリ「態棒」をリリースした。小紅書に対抗するための対策のひとつだと見られている。小紅書はGMV規模ではアリババの1/1000の規模しかない。それでもアリババは小紅書を恐れていると三易生活が報じた。
アリババが小紅書そっくりのアプリをリリース
アリババが「態棒」(タイバン)というSNSアプリを公開し、モニターテストに入っている。この態棒は、インスタグラムにそっくりで、ユーザーはテキストや写真、ムービーなどを投稿できる。その中から、自分の好きなユーザーをフォローをして楽しむというものだ。ただし、インスタグラムと大きく違うのは、記事に淘宝網(タオバオ)で販売をしている商品情報を埋め込めることができることだ。ユーザーは記事内から直接商品を購入することができ、商品を紹介したユーザーには一定の手数料が入る仕組みだ。
これはインスタグラムというよりも、淘宝網のライバルに育ってきた「小紅書」(シャオホンシュー、RED)にそっくりなのだ。もちろん、アリババは何もコメントしていないが、誰もが小紅書に利用者を奪われていることへの対策だと見ている。
SNS+EC=小紅書を恐れるアリババ
小紅書はインスタグラムにEC機能を埋め込んだようなSNS。20代、30代の女性ユーザーが圧倒的に多く、化粧品、服飾品、日用雑貨などが記事に埋め込まれ、その場で購入ができる仕組み。
しかし、小紅書の営業収入はわずか10億ドル(約1300億円)程度と見られ、8億ドルが広告、2億ドルが販売手数料だと見られている。アリババの淘宝網(タオバオ)などの2021年の流通総額(GMV)は8.119兆元(約160兆円)と、規模がまったく違う。なぜ、アリババはこの小さな小紅書を恐れるのか。
タオバオ内部の競争圧がアリババの収益力の源泉
アリババのタオバオは、販売業者が出店するのに費用はかからない。商品が売れても販売手数料のようなものも取られない。すべて無料だ。しかも、ハードルは低く、簡単な審査で出店することができる。これにより、多くの販売業者がタオバオに出店をした。無料なのだから、とりあえず出店しておいて損はないからだ。
これがタオバオの成長の鍵となった。タオバオではあらゆる商品が売られるようになり、消費者は「淘宝」の名前どおり、宝探しを楽しむようになった。
しかし、すべて無料で、アリババはどうやって収益をあげるのだろうか。それは、大量の販売業者がタオバオに参加をし、内部で激しい競争が起きていることが収益源になっている。ただ出品をしても、消費者が発見をしてくれることは難しい。タオバオ内に広告を出したり、プロモーションに参加をすることで、検索順位があがっていく。つまり、アリババの有料の販促サービスを利用することで、商品が売れるようになる。アリババは、タオバオの出品業者を常に激しい競争状態にしておく必要がある。
公域流量のアリババ、私域流量の小紅書
ところが、小紅書はこの競争状態を緩和させてしまう効果を持っている。小紅書で販売されている商品の一部は小紅書自体が仕入れた商品だが、多くはタオバオ、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)などに出品されている商品だ。つまり、タオバオの販売業者にしてみると、タオバオに商品を出品して、アリババに有料のプロモーションを依頼する方法もあるが、小紅書にアカウントをつくり、記事を発信し自社の商品を宣伝する、あるいは有力なインフルエンサーに紹介を依頼するという方法も選べる。
これは、公域流量(パブリックトラフィック)と私域流量(プライベートトラフィック)の問題だ。インターネットビジネスでは、大量のトラフィックを集めた者が強く、そのトラフィックを分配するときに金が動く。例えば、グーグルは検索エンジンという仕組みで大量のトラフィックを集め、それをグーグルアドワーズという仕組みで広告主に分配をする。分配を受ける広告主は、得られるトラフィックの量に応じて報酬を支払う。これがグーグルの収入となる。
タオバオは、アリババが大量のトラフィックを集めている。それを販売業者に分配する時に、プロモーション費用などをたくさん支払った販売業者に優先的にトラフィックを分配する。これがアリババの収入となる。
広告主、販売業者から見ると、他人が集めたトラフィックの分配を受けるので、これは公域流量と呼ばれる。
一方、小紅書などにアカウントをつくり、自力でトラフィックを獲得するのは私域流量と呼ばれる。
公域流量は、分配を受けるたびに報酬を支払う必要があり、その額の決定権はトラフィックを持っている側に主導権がある。一方、私域流量はいったん獲得したトラフィックはそう簡単に減ることはなく、積み重なっていく。販売業者としては、公域流量に頼るより、私域流量に頼った方が大きな利益が望めるようになる。
アリババを内部から弱体化していく私域流量
このような考え方から、タオバオに出店をしながら、タオバオの公域流量の分配に頼らず、小紅書などを利用して自力で私域流量を獲得する販売業者が増え始めている。こうなると、問題は、タオバオ内での競争の圧が低下をし、アリババの有償プロモーションを利用せず、決済をさせるだけのECプラットフォームとしてタダ乗りをされてしまうことになる。
今は、まだ数字に表れる段階ではないものの、この傾向が進むと、タオバオの収益がある時点で急激に低下をするという事態も起こり得るのではないか。アリババはそれを恐れ、小紅書ではなく、タオバオ内で私域流量を獲得できる場所を用意し、タオバオの競争圧を高く保ちたい。それが「態棒」だ。
しかし、場所を用意しただけでは、販売業者は目を向けてくれない。アリババがしなければならないのは、態棒により膨大な公域流量を獲得することだ。これを獲得すれば、態棒を利用する販売業者に分配をすることで新たな収益源が生まれる。小紅書と比較できる程度の流量を獲得できるか。それが大きな鍵になる。