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タオバオの大改革。流量から留量へ。検索から出会いへ。伝統的ECから新世代ECへ

昨年2021年12月に、大きな組織改革があった。アリババ十八羅漢の一人である戴珊がアリババの小売をすべて統括することになり、それ以来、矢継ぎ早にタオバオの改革が始まっている。タオバオは伝統的ECと呼ばれているが、新世代ECへと生まれ変わろうとしていると単仁行が報じた。

 

アリババの組織が大改革。B系と大淘宝が統一

昨年2021年12月、アリババは創業以来とも言える大胆な組織改編を行った。それまで「B系」と呼ばれていたB2C小売事業部、淘菜菜(社区団購)、淘特(低価格版タオバオ)、1688(卸販売)を掌握していた戴珊(ダイ・シャン)が、「大淘宝」と呼ばれるタオバオ、天猫(Tmall)、阿里媽媽(データ分析)も掌握することになった。つまり、アリババの小売系事業を戴珊がすべて統括することになる。

▲ジャック・マー最後の教え子、アリババ十八羅漢の一人。さまざまな冠を持つ戴珊。アリババのDNAを保有する女性の一人。戴珊がアリババの小売サービスを統括することで、タオバオの改革が始まっている。

 

ジャック・マーの最後の教え子、戴珊

戴珊は、社員番号11の創業メンバー「アリババ十八羅漢」の一人。杭州電子工業学院(現・杭州電子科技大学)の学生で、英語と国際貿易の教師が馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)だった。ジャック・マーは翌年起業をし、戴珊はそれにつき従った。つまり、ジャック・マーの最後の教え子ということになる。戴珊はアリババのDNAを体現した人でもあり、張勇(ジャン・ヨン)CEOの後の次期CEOだと見る人もいる。

アリババは、主力であるEC小売事業を戴珊に横断的に統括させることで、アリババのDNAを取り戻そうとしている。

 

組織改変以降、進むタオバオの改革

戴珊が大淘宝を掌握して以来、大きな変化が起きている。タオバオの大きな課題は、アリババ包囲網による圧力だ。ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)、ショートムービーEC「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)、SNS「小紅書」(シャオホンシュー)などに売上を奪われつつある。

そのため、拼多多に対抗して「淘特」(タオター)、小紅書に対抗して「逛逛」(グワングワン)、「態棒」(タイバン)などのサービスを始めていた。しかし、これは受身的な対抗策だ。

それが、ライブコマースと逛逛を「発見」というメニューに納め、いよいよアリババの攻めの対抗策が始まっている。

タオバオの「発見」コーナー。小紅書と同じように、写真や動画を中心とした記事が投稿され、タップをすることでその商品を購入することができる。商品との出会いを演出する。

 

流量から留量へ

タオバオの変化は、このようなメニュー構成やサービスを変えただけではない。おそらく、タオバオ始まって以来の基本的なコンセプトが変化しようとしている。それは「流量から留量へ」というものだ。

流量というのはトラフィックのことで、どれだけたくさんの人がアクセスしてくるかを指す。留量は最近使われるようになったネットマーケティング用語で滞在量を示している。厳密な定義はないが、多くの場合、流量×滞在時間で測ることになる。

例えば、鉄道のターミナル駅は多くの人が移動に使うために莫大な流量がある。しかし、すぐ電車に乗ってしまうために留量はさほど大きくない。しかし、エキナカショップを併設するとそこで買い物をしたり食事をする人が現れ、滞在時間が長くなり、留量も大きくなっていく。

タオバオのライブコマース。従来は奥の方のメニューに収められていたが、メインタブに出てきて、アクセスしやすくなった。現在、配信中のライブコマースにアクセスができる。

 

新たなニーズを生み出すことが難しい伝統的EC

タオバオを始めとする大淘宝は、いずれも現在では「伝統的EC」と呼ばれる。伝統的というのは検索ECであることを指している。食器洗剤が欲しい時は、ECにアクセスして「食器洗剤」と検索をし、商品を見つけて購入する。購入をしたら用がないので、消費者は去っていく。

これは流量に頼った小売だ。現実の世界ではスーパーやコンビニに近い。来店客は自分で商品棚を検索して、目的の商品を見つけたらレジで精算して帰っていく。しかし、この伝統的手法では消費をさらに拡大していくことが難しい。消費者のニーズによる小売なので、消費者が新たなニーズを産んでくれないことには拡大のしようがないのだ。

中国の生活が発展をしている時はこれでよかった。次から次へと新しい商品が登場し、それを購入して使うことが豊な生活を享受することになるので、ニーズは常に拡大し続け、タオバオの流通総額も成長し続けた。

しかし、社会の発展が一段落をすると、もはや新しいニーズは生まれてこない。検索と流量に頼る伝統的ECは限界点に達した。

 

購入欲を刺激することで拡大をする新世代EC

そして、台頭をしてきたのが、拼多多や抖音、快手、小紅書といった新世代ECだ。それぞれに手法は異なっているが、端的にいうと複合型ショッピングモールのような仕組みになっている。例えば、小紅書はインスタグラムのようなSNSで、主な使われ方は芸能人やインフルエンサーが発信をする写真や動画の情報を見て、素敵な生活ぶりを知り、憧れるというものだ。それが利用者の楽しみになっている。そのような記事の中に商品タグが埋め込まれているものがあり、タップをすると、そのまま購入できる。芸能人と同じ服やアクセサリーを買うことができる。

抖音もさまざまなショートムービーを見て楽しむというのが基本だ。その中に、商品タグがついているムービーがあり、タップをするとライブコマースに誘導されたり、商品ページに着地をして購入をする。

このような新世代ECは、ショッピングモールと同じように楽しむために利用をする。その中で、新たな購入欲が刺激をされ、購入に結びつく。新世代ECでは、アクセス数=流量ももちろん重要だが、それ以上に重要なのは滞在時間=留量だ。長時間滞在してもらうことで、商品と接する機会を増やし、購入に結びつけている。

タオバオのトップページは従来通り。基本は検索窓から商品名やジャンルなどを検索して、希望の商品にたどり着くというもの。

 

流量+留量で、新世代ECに対抗をするタオバオ

タオバオは、「発見」というメニューを用意し、そこから逛逛(小紅書的サービス)、ライブコマースの一覧を見ることができる。つまり、発見メニューを使ってもらうことで、留量を増やそうとしている。これは今までタオバオが頼ってきた流量ではなく、留量によるECにシフトすることを予感させる。

もちろん、従来の検索型EC=伝統的なECはそのまま温存されるが、さらに留量によるECを育て、新世代ECに対抗をしようとしている。タオバオが生まれて20余年、タオバオは生まれ以来最大の変化をしようとしている。アリババの逆襲が始まろうとしている。