貴陽市と上海市のイケアが相次いで閉店をした。中国では初の閉店となる。イケアの売り場を巡りながら購入するという購入体験は、当初、若い世代を中心に圧倒的な支持を受けた。しかし、それが時代に合わなくなってきていると江瀚視野が報じた。
イケアが中国で初めての閉店
中国のイケアが苦境に立たされている。今年2022年4月1日には、貴州省貴陽市の店舗を閉店した。1998年に上海に1号店を出店して24年、初めての閉店となった。イケアによると、貴陽店の業績は予想通りであったものの、貴州省のオンライン売上に及ばないため、コスト削減をし、オンライン販売に集中をするための調整だとしている。
さらに、7月には、上海市の揚浦店を閉店した。2020年3月に開店をし、2021年7月にはリニューアルオープンをしたが、結局1年で閉店となった。この揚浦店は、ショッピンモールの中に入る初めての小型店舗だった。イケアは郊外に車でいくような大型店舗が主体で、標準店舗は3万平米もある。一方、揚浦店は8500平米と1/3以下の店舗面積で、消費者との接点を広げようという新しい試みだった。
若者から圧倒的に支持されたイケア
イケアは1998年に中国に進出すると、すぐに若者から圧倒的な支持を受けた。どこのイケアもレジには長蛇の列ができ、現在33店舗を展開している。
歓迎された最大の理由は価格の安さだ。それまでの家具の相場からすると半分以下か1/3程度の価格になる。しかも、デザインは北欧風で、しゃれた家具が低価格で買える。さらに、DIYで自分で組み立てる、木材チップを再利用して環境に負荷を与えない、有機接着剤などを排除し健康に配慮など、環境問題に関心を持つ人々からも支持された。
ECの影響を受けずにきたイケア
中国では多くの小売業がECに圧迫をされ、オンラインに対応せざるを得なくなっている。しかし、イケアはこの影響をあまり受けずに済んだ。なぜなら、家具のような大きなものは、多くの宅配便企業が対応をしていないか、特別配送となり高額の配送料が必要になるからだ。そのため、家具は家具屋に行き購入し、家具屋の配送で届けてもらうというのが一般的だった。
しかし、組み立て家具であるイケアは、車があれば自分で買いに行ける。この手軽さが人気の理由のひとつになった。また、購入代行の商売をする人も現れた。注文を受けて代わりにイケアに行き、購入をし、届けて組み立てまでする。それでも購入者にとって家具の相場価格よりも安上がりになる。
しかし、宅配企業が大型商品への対応を始め、家具もECで購入することが多くなり、イケアもオンライン対応をせざるを得なくなっていった。
国内にライバルも多数登場
またライバルも登場している。低価格家具というジャンルを拓いたのはイケアだが、国内家具メーカーが低価格商品や組み立て家具に対応をし、さまざまな商品を登場させた。選択肢がイケアだけではなくなった。
しかも、イケアは北欧風だが、デザインに関しても中華風、アジア風、アールデコ風、ホテル風、カントリー風などさまざまなものが登場してきた。若者たちはイケアに飽きたというのではなく、さまざまな選択肢を得て、イケアもその選択肢のひとつになってきている。
販売方法が時代に合わなくなる
さらにイケアは多様な販売形態を提供するという点で遅れをとった。他の小売業では、オンライン販売とオフライン販売が融合をし、O2O(Online to Offline)を超え、OMO(Online Merge with Offline)が標準の販売形態になりつつある。一方、イケアは店舗に行き、店内を巡回し、さまざまな提案空間を眺めながら商品を探すという方式を重視している。
この体験型小売は、イケアの顔であり伝統になっているが、多様なニーズに応えることは難しい。「同じ椅子がもうひとつ急いでほしい」というようなニーズに店舗は応えることができない。また、イケアに買い物に行くということは数時間は店舗に滞在することになり、来店ハードルが高くなる。
消費者との接点の再構築が迫られているイケア
もちろん、イケアもこのようなことを意識し、上海揚浦店のような小型店を試みて、多様なニーズに応えようとした。イケアは上海揚浦店の閉店について、新型コロナの感染拡大を理由のひとつに挙げているが、上海の感染状況は2022年までは比較的穏やかで、中国でコロナ対策に成功した唯一の都市とまで言われていた。
小型店といっても、結局は車で買いに行かなければならなくなる。上海にはすでにイケアが3店舗もあり、車で行く人は商品数の少ない小型店よりも、大型店に行く。イケアは、消費者との接点をどうつくるかということを考えなければならなくなっている。