中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Forever 21が中国市場から撤退。通用しなくなるファストファッション

2019年4月にファストファッションブランド「Forever 21」が中国から完全撤退をした。その理由はForever 21の戦略的な失敗にもあるが、ファストファッションという「早く買い、早く捨てる」という考え方から、消費者が離れ始めていることもあると華商韜略が報じた。

 

台湾、中国から完全撤退をするForever 21

2019年4月で、中国でZARAH&Mとともに「ファストファッション御三家」と呼ばれたブランドの一角「Forever 21」が完全撤退を決めた。上海旗艦店は、目抜き通りである南京路歩行街にあり、上海最大の観光スポット「外灘」にも近いという好立地。2012年9月にオープンして以来、すぐに上海のランドマークとなった。

Forever 21は、4月になって中国市場からの撤退を公表。北京、上海、南京などの店舗で在庫の整理を始め、上海店では75%オフ、1つ買えば1つ無料などの投げ売りを行った。4月29日になって、展開していた20店舗の営業を完全に停止し、同時にTmallや京東に出店していたEC旗艦店も停止した。

台湾の台北市忠孝店の営業を3月末で停止していて、台湾から完全撤退してから1ヶ月後に中国からも撤退したことになる。

ファストファッションが流行する中国市場を、Forever 21が攻略できなかったのは、ひとえにタイミングの読み違いが大きいと華商韜略は結論づけている。

f:id:tamakino:20190610140230j:plain

▲上海南京路にあるForever 21旗艦店。感度の高い外灘地域にも近く、上海のランドマークとなっていた。これが消える。

 

最初に中国に進出をするも、失敗をして一度撤退している

Forever 21は、軍事クーデターが起こり、全斗煥政権が誕生した韓国から、逃れるように米国に渡ったドン・チャンと妻のジンスク・チャンが創業したアパレルブランド。当初は、在米韓国人の若者のためのファッションブランドだった。現在では48カ国に790店舗を展開する一大アパレルブランドに成長している。

Forever 21が中国に上陸したのは2008年と極めて早かった。ユニクロが2002年に上陸をしているのを除けば、ファストファッション御三家と呼ばれるZARAよりも2年早く、H&Mよりも1年早かった。

しかし、上陸地点となる1号店は、誰も予想をしなかった場所だった。普通は、最も拡散力のある北京、あるいは流行感度の高い上海に1号店を出すのが常道。しかし、Forever 21は、江蘇省の常熟市に1号店をオープンした。

常熟市は典型的な地方都市にすぎない。Forever 21がここに1号店を開いた理由は、中国アパレルの集積地だったからだ。そのため、アパレル系の流通機能が整っており、店舗運営にとっては都合がいい。

Forever 21がなぜこのような戦術をとったかはよくわからない。しかし、4級都市とも言える常熟市に、「最先端のファッションをいち早く安価に」提供するForever 21はまったく合わない。1年後には経営不振から閉店をすることになる。

f:id:tamakino:20190610140219j:plain

▲Forever 21上海旗艦店では、在庫一掃セールが行われ、在庫のほとんどがなくなった。上海のランドマークともなっていた店舗がなくなる。

 

f:id:tamakino:20190610140222j:plain

▲他店でも在庫一掃セール=投げ売りが行われ、殺到した客により混乱が起き、閉店時間を早めた店舗もある。

 

ECサイト「Tmall」を通じて、再参入

その後、Forever 21は戦略を変えて、2011年にアリババのECサイト「Tmall」に旗艦店を開店し、ECを通じて、中国全土にブランドの浸透を図った。さらに同じ年に香港に店舗をオープン。

こうして、海外の感度の高いファストファッションブランドとしてのイメージを高めてから、北京の王府井のショッピングモール「apm」に大陸1号店を開店した。

Forever 21が遠回りをしている間に、ライバルたちは着々と中国市場での地位を固めていた。北京apm店が開店した時には、ZARAはすでに120店舗を展開し、これから二級都市への浸透の準備に入っているところだった。ユニクロはすでにグローバル売上の半分が中国市場というほど、中国市民の間に浸透していた。

Forever 21は、実質的な中国市場参入が遅れただけでなく、拡大速度も遅かった。現在、ZARAは500店舗、ユニクロは700店舗規模になっているのに、Forever 21は20店舗でしかない。中国メディアは「ファストファッションなのに成長はスローだ」と書き立てた。

f:id:tamakino:20190610140225j:plain

▲ウェブサイトでは、ECサイト「Tmall」の旗艦店も4月29日で閉店することが告知された。

 

「早く並び、早く買い、早く捨てる」ファストファッション

Forever 21がぐずぐずしている間に、肝心の中国の消費者の意識が変わっていた。

2010年頃までは中国の消費者はファストファッションを渇望していた。「最新のファッションを身にまといたい。でも、高級ブランド品には手が出ない」ということから、「最新の流行をすぐに商品化し、安価で提供する」ファストファッションはぴったりの存在だった。既存のアパレルメーカーは企画から生産、発売まで6ヶ月から9ヶ月かかるが、ファストファッションは5週間で店頭に並ぶ。

安価な分、品質についてはそこそこだが、翌年には別の流行を追いかけるので、去年の服は着なくなる。ワンシーズン着られる品質であれば問題はなかった。ファストファッションとは「早く店頭に並び、早く買い、早く捨てる」ファッションだったのだ。

f:id:tamakino:20190610140233j:plain

▲北京のapm店。こちらも目抜き通りの王府井にあり、感度の高い地域だ。こちらもランドマークとなっていたが、消える。

 

2015年頃から変わる消費者の意識

しかし、2015年頃から消費者の意識が急速に変わっていく。エコが重要視され、毎年流行を追いかけることは恥ずかしいことになり、自分の個性を主張できるファッションが好まれるようになる。ワンシーズンしか着られない服ではなく、多少高くても気に入ったデザインで長く着られる服が好まれるようになっていく。

さらに流行の発信源は、アパレル店舗のショーウィンドウではなくなっていた。自分のお気に入りの網紅(ワンホン)=インフルエンサーのライブや動画を見て、網紅と同じファッションを身にまとおうとする。網紅の数だけファッションがあり、流行は細分化していった。流行を生み出して、大量生産し、大量に販売をするというファストファッションの方程式が崩れ始めてしまった。

ZARAユニクロはこのような変化に対応し、品質を向上させる努力や長期にわたって着られるオーガニックな素材、デザインを取り入れていった。さらに自社ブランドと合致する網紅と契約をし、自社製品を拡散してもらうような努力もしている。それでもZARAH&Mは伸び悩みを見せている。Forever 21はこの点でもじゅうぶんだったとは言えない。

f:id:tamakino:20190610140227j:plain

▲2018年の「ZARA」「H&M」「ユニクロ」の中国での店舗数。これに比べてForever 21は20店舗しかなかった。

 

崩れるファストファッションの方程式

中国市場から敗走をしたファストファッションは、Forever 21だけではない。英国のTopshopは、上海に店舗を出店する計画を放棄して、2018年8月に撤退することを表明した。

2018年12月には、3年で500店を展開する計画を進めていた英国のNew Lookが撤退を決め、すでにオープンしていた100店を閉店した。

ZARAでさえ、店舗展開の計画を修正し、三級都市の店舗を閉店し調整をしている。このような撤退、調整の理由は「早く買って、早く捨てる」という旧来型のファストファッションが通用しなくなり、流行の拡散チャンネルが小売店の店頭から網紅に移ってしまったことだ。

ユニクロはすでに品質を向上させ、機能性をアピールする実用ファッションを主軸にしている。「ファストファッション」という考え方そのものから、中国の消費者は離れようとしている。