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イケアの中国でのライバルはソーシャルEC「拼多多」。なぜ、イケアはECに苦しめられるのか

イケアの中国での業績が下降をしている。コロナ禍の影響も大きいが、ソーシャルEC「拼多多」の存在がイケアを追い詰めている。イケアの強みを拼多多がすべて消してしまったからだと商業観察家が報じた。

 

イケアのライバルは拼多多

北欧家具の製造販売「イケア」が中国で苦しんでいる。そのライバルは、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)だ。

イケアは1998年に中国に進出をすると、都市の若者から圧倒的に支持された。デザインがよくて、価格が安い。さらに自分で組み立てるDIY方式も、新しい家具の買い方に映った。

しかし、それから20年、中国の生産能力や流通能力は大きく向上し、イケア以上に家具を安く販売できるライバルが登場し、次第にイケアの業績が下降をしていった。2022年4月には貴州省貴陽市の店舗が閉店し、さらに7月には上海市の揚浦店が閉店となるなど苦境が続いている。

▲中国でもイケアは郊外の大型店が基本。車で行って自宅で組み立てる。2010年頃まではイケアの強さは圧倒的だったが、拼多多が登場したことにより、翳りが見え始めた。

 

もはやイケアは安くない

その理由は、もはやイケアは安くないということだ。例えば、スタンド型の衣類ハンガーはイケアで67元で販売されているが、拼多多で同様の商品を見つけると9.9元で買える。ソファのサイドテーブルはイケアで149元するが、拼多多では20元ほどで買える。

デザインや品質にこだわるのであればともかく、日用雑貨に近い家具の領域では拼多多の方が圧倒的に安い。もはやイケアはどちらかというと、標準品よりもワンランク上の商品になってしまっている。

 

中国では行かせなかったイケアの3つの強み

イケアは、1943年にスウェーデンで創業された家具量販企業。現在、世界で約460店舗を展開している世界最大の家具量販店だ。

イケアが最初に成功したのは英国などの成熟した消費市場で、続いて欧米、日本などで家具の領域で支配的な地位を築くことに成功をし、グローバル企業に成長した。しかし、中国では勝手が違っていたようだ。

 

イケアを凌駕する中国下町工場の生産能力

イケアが成功した理由は3つある。しかし、中国市場では、その強みが発揮できなかった。

ひとつは強大な生産能力だ。家具は現在でも手づくり部分が多く、大規模生産がしづらい。そのため、大量生産をする企業がなかなか登場しなかった。ところが、イケアは大量に生産し、世界市場の直営店で大量に販売するという体制を整えた。これにより低価格での販売が実現できた。

しかし、中国は規模は小さいが無数の生産工場が存在する。この生産工場をまとめることができればイケアを凌駕することができる。

1998年にイケアが中国に進出をした時には、この生産工場をまとめる仕組みが存在しなかったために、イケアの業績は好調だった。しかし、2015年に拼多多が登場すると、拼多多は地方の中小企業の生産品をまとめる役割を担うようになった。

 

広大な展示販売店は、ソーシャルECに置き換えられた

イケアが成功できた理由の2つ目が広大な直営店だ。いくら大量に家具を生産できてもそれを販売する場が必要になる。都市内部にある家具店では、展示できる商品数も限られ、保有できる在庫数も限られる。

しかし、イケアでは都市近郊に広大な直営店を設置し、大量の家具を展示した。さらに、組み立て式にしたため、在庫も多く保有できる。車で行って、ゆっくりと家具を見て、買って帰り、自分で組み立てるというスタイルが定着をした。

しかし、拼多多はECであるために、展示数、在庫数とも無限に持つことができる。実物を見ることはできないが、ソーシャルECであるためにすでに買った人の生の声に触れることもできる。そのような情報から購入する商品を決め、宅配してもらい組み立てることができる。

▲イケアの典型的な店内。広い店内に家具をゆったりと展示する。来店客は店内を回り、家具のテーマパークを楽しむ。

 

モデルチェンジ戦略が拼多多の台頭を許すことに

イケアが成功できた理由の3つ目がモデルチェンジだ。イケアは頻繁に価格改定を行い、モデルチェンジした製品を投入する。家具というのは長期間にわたって使うものなので、購入頻度をあげたりリピーターを養成することが難しい。しかし、イケアは価格改定を頻繁に行い、モデルチェンジをすることで、消費欲を刺激する。イケアの製品は、リサイクルについても考えられているため、家具を買い替えても環境に与えるインパクトは非常に小さい。これで、家具の購入頻度をあげ、リピーターをつくり、イケアのファンを生み出してきた。

しかし、中国では、イケアがモデルチェンジをすると、販売が停止されたモデルとそっくりの家具が製造され、「イケアと同モデル」の名目で拼多多で販売される。イケアのモデルチェンジは流行を追いかけているわけではなく、消費を刺激するための施策なので、消費者にとっては旧モデルでもかまわない。この「イケアと同モデル」戦術をとる家具が、拼多多でよく売れている。

▲拼多多では、イケアの旧モデルと同じデザインのものが「イケア同モデル」として格安で販売をされている。多くの商品の品質はイケアに劣るが、通常の使用であれば問題を感じることは少ない。

 

米国にも海外版拼多多「Temu」が進出

イケアは中国市場では苦戦をしているが、他の国では今でも圧倒的な存在感を保っている。しかし、イケアにとって、これから頭の痛い問題が持ち上がるかもしれない。

拼多多は中国の地方企業が製造した製品を海外で販売する越境EC「Temu」を米国でスタートさせた。現在のところ、利用している消費者の中心は、華人、華僑だが、その圧倒的な安さは大きな話題になっている。Temuが海外市場でも定着するようになると、イケア王国にも翳りがさすようになる可能性がある。