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広がるデジタル人民元による給与支払い。利便性だけでなく、労働者や市民の権利を守ることにも

公的機関を中心に、デジタル人民元による給与支払いが広がっている。利便性だけでなく、スマートコントラクト機能などで労働者や市民の権利を守ることにもつながると北京商報が報じた。

 

広がるデジタル人民元による給与支払い

デジタル人民元による給与支払いが広がっている。デジタル人民元とは、人民銀行デジタル人民元研究所が開発をし、政府が推進するデジタル通貨。法定通貨として位置付けられているため、紙幣や硬貨の人民元と同等に通用をする。スマートフォンまたはプラスティック物理カードで扱うことができ、送金はオンラインまたはNFCタッチで行うことができる(暫定的にQRコードにも対応)。

すでに対応している商店も多く、また、アリペイやWeChatペイなどの主要なスマホ決済に紐付けてチャージに使うこともできる。現金が必要であれば、銀行のATMなどで現金に換えることもできる。また、北京市ではすべての税金の納付がデジタル人民元でできるようになった。

▲デジタル人民元のアプリを入れれば、普通のスマホ決済と同じように使える。NFCによるタッチ決済が基本だが、暫定的にQRコードにも対応している。また、物理カードにも対応している。

 

デジタル給与支払いは地方にも広がる

給与支払いをデジタル人民元で行うことにはさまざまなメリットがある。銀行振込のような手数料は不要であり、しかも送金をすれば瞬時に届き、銀行振込のようなタイムラグもない。経理事務の手間が軽減され、労働者はすぐに給料を受け取ることができる。

北京市広東省重慶市海南市江蘇省、河北省、四川省などでは、政府機関を中心にデジタル人民元による給与支払いが広がっている。さらに、地方にまで広がり始めている。河北省唐山市玉田県財政局は、全県9791人の政府職員の給与をデジタル人民元による支払いにした。今年2024年5月に、デジタル人民元給与支払い先行試験区に指定され、デジタル給与支払いを積極的に進めている。このような試験区は現在37ヶ所あり、地方でもデジタル人民元支払いが進められている。

 

中抜きを許さない直接デジタル支払い

さらに、推進をされているのが、人力資源社会保障局(人社局)の賃金支払いだ。人社局では、農村の道の補修や橋の架け替えといった簡単な公共工事は、建設会社に発注をし、作業員として農民を雇ってもらう方式を採用している。農民に対する一種の福祉政策にもなっている。

ところが、この給与支払いのトラブルが後を立たず、社会問題となっていた。建設会社による遅配、倒産による不払い、さまざまな名目による中抜きなどの問題が、重慶市では2023年に1334件も発生し、重慶人社局では、建設会社からのべ1.48万人の給与2.01億元を回収し、農民に再支給をした。

お金の流れは、人社局から建設会社に工事代金が振り込まれ、建設会社が労働者に対して賃金を支払うことになっているため、悪質な建設会社が不正を行う余地があった。

重慶人社局では、これを変えて、労働者の賃金は、重慶人社局が直接労働者に対してデジタル人民元で支払い、工事代金から給与支払い分を引いた残りを請負建設会社に送金するようにした。これで、給与支払いのトラブルは一掃をされた。

また、企業が倒産をした場合でも、労働者の給与は100%保証され、その残りの資産を債権者で分配をすることになっているが、現実には弱い立場の労働者の給与を支払う前に、債権者が資産を分配してしまうようになっている。これも、デジタル人民元支払いになっていれば、先に給与が送金された状態で、債権者により資産分配が行われることになり、労働者の権利を守れるようになる。

▲支払いだけでなく、個人間の送金も対面/オンラインで簡単にできる。税金類の納付でもデジタル人民元への対応が始まっている。

 

定期支給金の自動化をするスマートコントラクト

この賃金未払いなどから労働者の権利を守るために、デジタル人民元にはスマートコントラクト機能が備えられている。これは、逆方向の自動引き落としのようなもので、企業と労働者が契約をし、定期的に基本給などが設定した時期に自動的に送金されるというものだ。

今後、この機能を使って、年金や生活補助金、退役軍人の補助金など、定期的に支払われる公的補助の多くがデジタル人民元支払いになっていく。公的機関側は設定をしておくだけで自動的に支払いが実行されることになり、事務作業の手間が大きく軽減されることになる。同時に受け取る側は、支給に対する不安が解消される。

民間の間でのデジタル人民元の利用率は今ひとつあがらない。すでにスマホ決済が浸透をし、使い勝手はスマホ決済とほぼ変わらないため、わざわざデジタル人民元に換える理由がないからだ。しかし、このような給与、公的補助などの支払いにデジタル人民元が活用されていくことで、公的機関の業務負担を軽減し、支払いを受ける市民の権利が守られるようになっていく。