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家電配送でも利用される前置倉。小型分散倉庫の活用が、配送効率を大きく改善させる

家電メーカー「美的集団」が、前置倉方式の物流を取り入れたことが大きな話題になっている。前置倉は、消費者に近い場所に小型倉庫を配置することで、配送時間を短縮する手法で、生鮮ECの30分配送などで利用される。しかし、短時間配送が必要とされていない家電配送でも、前置倉にすることにより、物流の効率が大きく改善されると家電圏が報じた。

 

家電メーカーが前置倉を採用する不思議

中国の家電メーカー「美的集団」(ミデアグループ)が前置倉への転換を始めている。前置倉(前線倉庫)は、生鮮ECなどで使われている手法で、注文後30分配送を実現するために、中央倉庫方式ではなく、配達先である消費者に近い場所に大量の小規模倉庫を設置するという手法。配達時間がサービス品質に直結する生鮮ECの場合は必須の方式だが、そこまで短時間配送にこだわる必要のない家電メーカーがなぜ前置倉方式を採用するのかと話題になっている。

この美的の前置倉方式は、中国国家発展改革委員会が選んだ「全国物流製造深度融合典型事例」50の一つにも選ばれている。

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▲前置倉は、生鮮ECや社区団購などで使われている手法。消費者の近い場所に小型の倉庫を大量に配置することで、注文から配送までの時間を短縮する。ただし、ビッグデータ解析や機械学習を使って、需要予測を行い、適正配送をしないと、欠品や商品ロスが生じる。

 

ビッグデータが活用できれば前置倉は高効率物流となる

この美的の物流を担当しているのは、物流企業「安得」(アンダー)。安得では、前置倉を前提とした配送物流網を構築し、物流コストを大幅に低減することに成功をしている。

前置倉は、倉庫が配送先に近いために短時間配送が可能になる利点があるが、課題は商品の過不足が起こりやすいことだ。各前置倉に適切な数の商品配送をしないと欠品が起きてしまう。また、商品ロスも集中倉庫であれば抑えやすいが、分散している前置倉では制御がしづらい。

この問題を解消するには、前置倉同士での在庫調整をする配送が必要となるが、根本的な解決先はビッグデータの活用だ。どの前置倉にどの程度の注文が入るかをビッグデータ解析、機械学習などを使って事前予測をして、適切な量を前置倉に搬入をする。その予測レベルが上がってきて、短時間配送とともに、倉庫の効率的な利用=物流コストの低減が注目されるようになっている。

 

前置倉にすることで物流効率が全面的に改善される

美的集団では、現在全国に1500ヶ所の前置倉を設置しているが、最終的に3000ヶ所に増やす予定だ。

これにより、前置倉に配送するいわゆる伝統的な中規模以上の倉庫は、2200ヶ所から136ヶ所に減らすことができ、倉庫面積は550万平米+から160万平米+に減らすことができる。また、従来は、末端店舗が発注をすると、納入までに最大45日かかっていたが、これが20日に短縮される。倉庫全体の回転率も51日から35日に短縮される。

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▲美的集団の物流を担当している安得では、家電物流に前置倉の手法を利用することで、物流の効率を大きく改善することに成功した。



短時間配送は不要でも、時間指定設置配送が必要になる

家電の場合、短時間配送であることの必要性はさほど高くない。翌日配送、当日配送でじゅうぶんであり、30分配送、1時間配送は求められていない。しかし、一方で、指定時間配送は求められる。特に冷蔵庫や洗濯機、テレビなどの大型家電では設置の必要があるため、在宅であることが必須であり、当日配送よりも、休日など指定した日の指定時間の配送が求められる。このような要望に対しても、中規模倉庫よりも前置倉の方が対応をしやすい。

つまり、前置倉方式を採用することで、物流ネットワーク全体をスマート化し、きめ細い対応を可能にした。

この美的集団の改革により、前置倉が短時間配送だけでなく、物流効率を大幅に向上させることが明確になった。他の業種でも、この前置倉方式が広がっていく可能性がある。