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生鮮EC2社が米国で上場申請。生鮮ECの最大のテーマは黒字化

買菜、毎日優鮮の生鮮EC2社が相次いで米国で上場申請をした。しかし、先にナスダックに上場した毎日優鮮は公開初日に株価が下落するなど前途多難なスタートになっている。生鮮ECの最大のテーマは黒字化だと商業数据派が報じた。

 

生鮮EC2社が赤字上場

生鮮食品をスマホで注文すると30分ほどで宅配してくれる生鮮ECの「毎日優鮮」(メイリー)、「叮買菜」(ディンドン)が、6月9日に米国証券取引委員会(SEC)に相次いで目論見書を提出して、上場を申請した。毎日優鮮はナスダック市場に、叮買菜はニューヨーク市場に上場をする。目論見書の提出は、わずか1時間違いという、文字通り「先を争って」の申請となった。

しかし、6月25日、先にナスダックで株式を公開した毎日優鮮は、初日で株価が25.7%も下落するという前途多難のスタートとなった。

前途多難なのは、叮買菜も同じだ。なぜなら、両社とも赤字運営であるために、黒字化が大きなテーマになっているからだ。しかし、識者の中には、果たして生鮮ECが黒字化するのは可能なのか?と首をひねる人も多い。生鮮ECの黒字化のどこに難しさがあるのだろうか。

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▲16都市に展開をする毎日優鮮。システム投資を行い業務効率化を図ることで、黒字化を目指している。

 

倉庫から近隣に配達をする生鮮EC

生鮮ECは、「前置倉」(前線倉庫)と呼ばれる仕組みで配送を行う。前置倉は市内に分散配置する小型倉庫で、1つの倉庫で半径3kmから5km程度の配達エリアをカバーする。いわば「客のこないコンビニ」だ。店舗ではないので、立地にこだわる必要はなく、店舗スタッフも最低限ですむ。店舗運営に比べて圧倒的に運営コストが小さくて済む。ここから、注文のあったお宅に電動バイクなどで配達をするという仕組みだ。

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▲29都市に展開をする叮買菜。上場申請後も拡大路線を走っている。

 

飛躍の機会になった新型コロナの感染拡大

生鮮ECにとって飛躍のチャンスとなったのがコロナ禍だった。2020Q1の時期に、都市ではロックダウンが行われ、多くの人が外出を控えた。日常の生鮮食料品の買い物も困るため、多くの人が生鮮ECや新小売スーパーなどの配達をしてくれるサービスに注目をした。叮買菜はこの時期に営業収入を大きく増やし、それ以降、右肩上がりの成長が続いている。叮買菜にとって、コロナ禍がジャンピングボードとなり、上場の目が見えてきたことになる。

しかし、同じく上場をした毎日優鮮は、コロナ禍以降も営業収入が増えていない。株価が下落したのもこのような状況が影響している可能性が大いにある。しかし、これは、黒字化に向けて、両者の戦略の違いなのだ。

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▲両社の営業収入の推移。叮買菜は新型コロナの感染拡大以降、拡大が続いている。一方の毎日優鮮は新型コロナ以降も低迷をしている。

 

黒字化戦略が異なっている2社

両社の純利益(純損失)を見てみると、両社ともコロナ禍による需要拡大期には純損失が大きく減少し、経営状態が一気に改善された。しかし、叮買菜はその後、以前にもまして純損失幅が拡大をしている。一方、毎日優鮮はじわじわと損失幅は大きくなっているものの、損失幅を抑えようとしている。つまり、叮買菜はコロナ禍という好機を得て、以前にも増して拡大路線を取り、毎日優鮮は経営体質の改善を急ぎ、一気に黒字化を達成しようとしているように見える。

実際、上海から始まった叮買菜は、現在29都市に950の前置倉を展開している。一方、毎日優鮮は16都市に展開をし、2019年には1500の前置倉を展開していたが、現在は631に大幅削減をしている。需要予測をするシステムを開発し、少ない倉庫で効率的に配達できる仕組みの構築を進めている。

実際、両社の運営コストを2019年と2020年で比較をすると、叮買菜は17.41億元から31.42億元と増加をしているが、毎日優鮮では54.8億元から49.4億元へと減少している。

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▲両社とも赤字運営になっている。拡大をしている叮買菜は損失幅を広げながら拡大路線を走っている。毎日優鮮はシステム投資を行い、損失幅が減少をしてきている。

 

黒字化ラインにほど遠い生鮮ECの注文件数

いったい両社に黒字化の目処はあるのだろうか。「叮買菜:前置倉モデル、宅配に注目した社区EC」(海通証券)によると、叮買菜の黒字化ラインは、1日1倉庫1250件のオンライン注文件数だと推算されている。

買菜の目論見書の数値(倉庫数、営業収入)から計算をすると、現在の1日1倉庫の注文数は574件となる。黒字化ラインの半分もいかない状態だ。叮買菜の梁昌霖CEOは、かつて「客単価65元、1日1倉庫で1000件」が理想的な状況だと述べたことがあるが、その状態までもまだまだ大きな開きがある。

毎日優鮮も同様の計算をしてみると463件となる。ビジネスモデルが異なるので、1250件が黒字化ラインとは限らないが、毎日優鮮も黒字化ラインには程遠いことは明らかだ。

 

購入頻度を高める叮買菜、客単価を上げ、コストを下げる毎日優鮮

もちろん、両社ともに黒字化への努力は続けている。叮買菜ではリピート率と購入頻度をあげることに集中をしている。叮買菜がスタートした最初の1年間はリピート率はわずか38%だった。初回クーポンにつられて1回は使ってみるものの、2回目がないという人が多かったのだ。しかし、現在は50%を超えているという。また、平均購入回数も月4回だったものが、2020年は6.5回に目標設定していた(達成できたかどうかは不明)。

一方、毎日優鮮は、システム投資を行い業務効率を上げて運営コストを下げ、同時に客単価をあげていく戦略だ。1時間配送されるのは4300種類だが、翌日配送品を2万種類も用意している。これにより客単価は94.6元と、生鮮ECの中では頭ひとつ抜けた高さとなっている。また、飲食店などに配送するtoBサービスの展開も始めている。飲食店で食材が不足をした時に、スタッフがスーパーに走るのではなく、毎日優鮮に注文をしてもうおうというものだ。

 

黒字化が最大のテーマとなっている生鮮EC

買菜、毎日優鮮とも黒字化が大きなテーマになっているが、その出口戦略がはっきりと違ってきた。叮買菜は創業時から変わらず、拡大路線を走り、リピート率、購入頻度、客単価を改善することで黒字化を目指している。一方で、毎日優鮮は拡大路線は抑え、業務効率をあげることでバランスさせ、翌日配送やtoB配送など周辺領域に新しい市場を発見し、それで黒字化を目指している。

同じビジネスモデルで、同じ時期にIPOを申請した両社だが、その戦略は大きく違い始めている。どちらが先に黒字化を達成するのかが注目されている。