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テック企業創業者は40歳で引退。伝統産業創業者は70歳になっても現役。この違いが生まれる理由

テック企業の創業者は、40歳前後で引退をする例が多い。一方で、伝統産業の創業者は70歳を超えても現役を続ける。この違いは、後継者に対する考え方が違っているからだと郝聞郝看が報じた。

 

38歳でバイトダンスCEOを退任した張一鳴

TikTokなどを開発したバイトダンスの創業者、張一鳴(ジャン・イーミン)が、バイトダンスCEOを退任した。後任は、共同創業者の梁汝波(リャン・ルーボー)となった。

張一鳴は、社内メールでこう語っている。「私たちは幸運にも時代に恵まれ、機械学習の技術をモバイルデバイスとムービーに応用することで、イノベーションを起こし、それを実践し、一定の成果を得ることができました。企業業績は順調ですが、この会社がさらにイノベーションを起こし、創造力と意義に溢れることを期待しています」。

張一鳴は、日常の経営業務からは離れ、長期戦略、企業文化、社会貢献などの重要な長期プロジェクトに携わることになる。

張一鳴はまだ38歳でのCEO引退だった。

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▲バイトダンスの創業者、張一鳴。38歳でCEOを退任し、今後は企業戦略や企業文化などの長期プロジェクトに専念をする。

 

脂の乗った年齢で引退をするテック企業創業者たち

その2ヶ月前には、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の創業者、黄(ホワン・ジャン)が40歳で会長を辞任し、引退をした。また、歩歩高(ブーブーガオ)の創業者、段永平(ドワン・ヨンピン)は40歳で引退をし、米国に移住をし、投資家として第2の人生を送っている。EC「京東」(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は46歳で、CEOを辞任し、執行役員に退いた。アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は55歳で、アリババのCEOを退いて引退をした。

企業家にとって、40代、50代は、経験も豊富となり、決断力もある黄金年齢だが、その年齢で一線を退く企業家が目立つようになっている。

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▲アクティブユーザー数でアリババを抜いて、中国No.1のECになった拼多多の創業者、黄は40歳で会長を退任した。

 

ぎりぎりまで辞めない伝統産業の創業者たち

一方で、高齢になっても企業を率いている企業家もいる。家電メーカー「美的」(ミデア)の創業者、何享健(フー・シャンジエン)は70歳まで会長を務めた。聯想レノボ)の創業者、柳伝志(リュウ・チュアンジー)は75歳まで会長を務めた。

さらに、華為(ファーウェイ)の創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)は77歳で現在も会社を率いている。

テック企業の経営者は30代から40代で引退をし、伝統産業に近い企業の経営者は何歳になっても企業のトップを務める傾向がある。

この20年の間に創業された著名テック企業で、今でも創業者が企業トップを勤めているのは、百度バイドゥー)、小米(シャオミ)、順豊(SF Express)、テンセントぐらいになっている。

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▲中国500強企業の中の主な創業者の現在の年齢と引退をした年齢。テック企業では40歳が引退のひとつの基準になっているようだ。

 

「自分は過ちを犯さないと思ったら、歳をとった証拠」(ポニー・マー)

テンセントの創業者、馬化騰(マー・ホワタン、ポニー・マー)は、かつてこう語ったことがある。「私が最も心配をしているのは、消費者がどのようなものを好むのかがわからなくなることだ。QQやWeChatでも、永遠に使われ続けるとは誰も保証できない。人の気持ちは移り変わるからだ。もし、自分はすべてがわかり、過ちは犯さないと感じたら、それは歳をとったということだ」。

つまり、ポニー・マーは、年齢ではなく、自分の能力がテンセントを率いるのに適していないと感じた時に引退をすると考えているようだ。

2019年に、百度の創業者、李彦宏(リー・イエンホン)は、こう語った。「現在の技術革新のスピードは早く、市場の変化も早い。ショートムービーに関連するプロダクトは、20代か30代でないとその面白さが理解できない。私たちは、そういう若い世代を経営層に入れる必要がある」。そして、若い世代の経営者育成と、現経営者の引退制度の構築を始め、経営陣の若返りを図っている。

一方で、引退して、何度もトップに返り咲く人もいる。レノボの柳伝志だ。2004年、レノボIBMのシンクパッド事業を買収した時、柳伝志は、これでレノボは世界第3位のPCメーカーになったことを受けて、会長を辞任して引退をした。しかし、2009年に取締役に復帰、2011年にレノボの経営が危機を迎えると、再び会長となり、建て直しの陣頭指揮を取った。そして、2019年になって、正式に会長を辞任した。

 

後継者が見つかるテック企業、後継者が見つからない伝統企業

テック企業で重要なのは、イノベーションを起こせる創造力と、移り変わる市場に適合していく能力だ。経験、能力が同じであるとしたら、若いというだけで分がある。若者の生活を体験しているかどうかは大きな違いとなる。40歳というのはまだ若いと言えるが、それでもテック企業の経営者は、スマートフォンを持って街をうろつき、10元のお金を惜しんでECで買い物をすることはなくなる。根本のところで、若者の生活が理解できなく時期がやってくる。だから、早い年齢で第一線を退き、長期戦略や研究、社会貢献など、年齢が高くてもできる仕事に転身をする。

一方、レノボやファーウェイのようなメーカーは、製品を買うのは若者だけでなく、全世代にわたり、法人顧客も多い。イノベーションや市場対応は現場に任せ、その現場の判断が正しいかどうかを見極める目があればいい。それ以上に、後継者が見つからない。何もないところから会社を大きくした創業者から見れば、どれだけ有能な人であっても、頼りなく見えてしまうからだ。

イノベーションを重視するテック企業では、若いというだけでも後継者となり得る。しかし、運営能力を重視する伝統企業では、創業者の能力が突出をしているため後継者が見つからない。このことが、テック企業の創業者は若くして引退をし、伝統企業では老人の域になっても引退をしない現象につながっている。