中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

iPhoneが20%引き、170円でEVが買える。拼多多の驚きの大盤振る舞いで、なぜ拼多多は成長し続けられるのか

拼多多の定番となったキャンペーン「9.9元搶購」「100億補助」。170円でiPhoneやEVが買える、大幅割引で一流メーカーの商品が買えるなどのキャンペーンで、一部の投資家からは「資金を燃やして、顧客を買っている」と批判をされることもあった。しかし、財務報告書を見ると、営業コストは吸収できており、業績数字はほぼ全面的に上昇している。大量の資金を燃やしているように見えて、拼多多は冷静に計算をしてキャンペーンを行っていると郝聞郝看が報じた。

 

9.9元で自動車が購入できる拼多多のキャンペーン

ついに年間アクティブユーザー数で、第1位のアリババ(淘宝網+天猫)を抜き、利用者数No.1のECとなった拼多多(ピンドードー)。その躍進の原動力となったのが「9.9元搶購」と「100億補助」の2つの施策だ。

9.9元搶購は、アップルのiPhoneやDJIのドローン、五菱のEVなどが、抽選で9.9元(約170円)で買えるというもの。もちろん、オークションと抽選があるため、実際に9.9元で購入できることはほとんどないが、話題性は高い。

もうひとつの100億補助は、拼多多が補助金を出すことによって、大幅な割引価格で購入できるというもの。数量は限定されるが、誰でも割安価格で購入できる。iPhone12が1500元の補助で、わずか4799元(約8.2万円)、SK-IIの化粧水が941元の補助で599元など、一流メーカーの人気商品が大幅割引されているのが特徴だ。

f:id:tamakino:20210705102129p:plain

▲拼多多の百億補助のページ。著名なメーカーの製品が、2割引以上の価格で販売されている。割引ではなく、拼多多が補助金を出すという体裁なので、ダンピング販売にあたらない。この100億補助により、多くの都市住人が拼多多を利用するようになった。

 

拼多多は、資金を燃やして顧客を買っているのか?

一方で、業界内や識者からの批判も多い。ライバルからすれば、資金力にものを言わせて、対抗しようのない施策であるし、一部の投資家からはいわゆる「資金を燃やして、ユーザー数を買う」愚かな施策だという批判をされている。このような施策を続けていると、財務体質を悪化させてしまうことになると指摘する専門家もいる。

しかし、拼多多は思いの外うまくやっているようだ。5月26日に、拼多多は2021年Q1の財務報告書を公開したが、それによると、拼多多の財務内容は急速に改善をしていることが明らかになった。

f:id:tamakino:20210705102122j:plain

▲2021年Q1の過去1年のアクティブユーザー数は8.238億人となり、すでにアリババのタオバオを引き離し始めている。四半期営業収入も221.67億元となり、前年同時期から239%も増加している。スタートアップ企業並みの成長率を維持し続けている。

 

営業コストは順調に下がり始めている拼多多の「健全経営」

財務報告書によると、年間アクティブユーザー数は2020年の7.884億人から、2021Q1は8.24億人となった。これは昨年同時期から31.2%の伸びとなる。四半期営業収入は221.67億元(約3800億円)となり、これは昨年同時期から239%もの伸びとなった。平均月間アクティブユーザー数は7.246億人、これも昨年同時期から49%の伸びとなる。

つまり、「9.9元搶購」「100億補助」の2つの施策の効果は圧倒的で、すでに利用者数No.1の大規模ECとなりながら、スタートアップ企業並みの高い成長率を保っている。

この驚異的な成長を、批判されているように、拼多多はお金で買っているのか。注目されるのは「営業費用/GMV」の値だ。これは営業収入に占める営業費用の割合となり、無謀な焼銭施策をとっているのであれば、この値が異常に高くなるはずだ。しかし、財務報告書から計算をしてみると、2018年、2019年、2020年で、2.9%、2.7%、2.47%と下がり続けている。

つまり、100億補助などと言って、大量の資金を惜しげもなく投下しているように見えるが、それは莫大な営業収入に見合った額であり、しかもうまく抑制をしてきている。それで大きな成長ができているだから、優れた施策として褒められこそすれ、批判をされる謂れはないと見るのが妥当だ。

f:id:tamakino:20210705102125j:plain

▲100億補助などの原資になっている市場開拓費用は129.97億人となり、前年同時期から78%も増加をしたが、営業収入が239%も伸びているため、営業収入に占める割合は減少をしている。資金を投下しているが、それ以上に営業収入が伸びている。

 

100億補助で、未開拓だった都市住人を惹きつけた

100億補助は、2019年6月に始まった。急成長をしていた拼多多だったが、当時、伸び悩みの傾向が現れ始めていた。すると、すかさず、拼多多は100億補助という施策を打ち出し、毎四半期3600万人から5000万人の規模でアクティブユーザー数を増やすという第2の成長期に入った。

拼多多の強みは激安だ。多くの日用品が激安価格で販売される。そのため、初期の利用者の多くは地方都市や農村の消費者で、購買力があまり高いとは言えない人の間で人気となった。また、激安商品である分、品質は高級とは言えず、当初は、都市部の消費者からは「貧乏人のEC」と悪口を言われることもあった。

そのイメージも100億補助で大きく改善している。100億補助の対象商品となるのは、iPhoneや有名化粧品、有名ブランドの衣類などで、都市住人が欲しがる商品であり、品質の点でも問題がない。

これにより、都市住人が新たに拼多多を利用するようになった。これが利用者数急増に大きく貢献している。また、100億補助の対象商品になっているのは一流メーカーの商品であり、品質に問題があることはまずあり得ず、購入した消費者は満足をして、高評価のレビューを書き込む。これにより、「拼多多は高品質の商品も販売している」というイメージが定着をしていった。

 

拼多多が重要視をするARPUという指標

拼多多が重要な指標としているのが、ARPU(Average Revenue Per User、1ユーザーあたりの平均売上)だ。1度の買い物で購入する額(客単価)は、激安商品中心の拼多多では小さいが、1年に何度も買い物をしてくれればARPUは高くなる。客単価よりもARPUを重視することで、GMVをあげることができ、なおかつ、リピート率が高いということだから、安定したGMVの成長が期待できるようになる。

このARPUは2020年末の1467.5元から2021Q1には2115.2元と大きく伸びている。100億補助の対象商品は、割引率は大きいものの、高額商品であるために、これが影響してARPUを伸ばしている。拼多多では、四半期ごとに20%以上のARPUが伸びている。他のECではARPUを公開しているところは少ないが、業界関係者によると、勢いのある成長期を除けば10%に達することすら難しいレベルで、拼多多のARPU成長は異常といってもいいほどの値であるという。

 

計算された拼多多の大盤振る舞い

拼多多は、100億補助の施策をとってみたら、結果として経営数字が成長しているというわけではなく、ここで紹介したような数字の改善は、100億補助を始める前から想定をして、それをねらって施策を実行したことは間違いない。つまり、拼多多は計算を立てて100億補助を行い、ねらい通りの結果が出ているということだ。

識者やメディアが、100億補助の批判を展開したり、危うさを指摘しても、拼多多としては苦笑する以外なかっただろう。

このような「焼銭大戦」と呼ばれる「大量の資金を市場に投下して、それ以上の利益を得る作戦」は、中国は過去に何度も起きている。しかし、その目的のほとんどは「市場シェアを確保し、株式公開をする」ことだった。いくら莫大な資金を使おうとも、株式公開ができれば帳尻を合わせることができる。もちろん、それに失敗した企業は、破綻をして街の底に沈んでいくしかない。

しかし、拼多多はすでに米ナスダック市場に上場済みで、従来通りの焼銭大戦を実行すると、株式公開というお金の辻褄合わせの機会はやってこない。拼多多は、破綻をさせない計算をした上で、成長するために焼銭大戦を行っている。ここが、アリババを含め、他のライバルたちが拼多多に追いつけない理由となっている。