中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

常に変わり続けてきた中国ビッグテックを表す言葉。BAT、TMD、ATM、HATの次は?

米国のビッグテックを表す時には、GAFAFAANGFacebookAppleAmazonNetflixGoogle)が使われる。中国のビッグテックを表す時にもBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)が使われる。しかし、中国のビッグテックを表す言葉は常に変わり続けてきたとCEO来信が報じた。

 

黎明期の「4大企業」と「インターネット7雄」

中国のビッグテックを表す言葉BAT。百度バイドゥ、アリババ、テンセント)の3社を表す言葉だ。

しかし、2000年前後、PCをベースにしたインターネットが普及をし、その頃、使われたのは「4大企業」と言い方だ。その内容は、新浪(シンラン)、捜狐(ソーフー)、網易(ワンイー、ネットイース)、騰訊(タンシュン、テンセント)の4社だった。

2010年頃になると、捜狐の創業者、張朝陽が語った言葉「中国のネット業界は、7巨頭による競争だ」という言葉が有名になり、「インターネット7雄」という言葉が広まった。4大企業に加えて、百度、アリババ、盛大(シェンダー)が入っている。

 

三国志になぞらえられたBAT

2012年に、侯青林という作家が「インターネット三国殺」というノンフィクションを出版した。これは、百度、アリババ、テンセントの3社に焦点をあてて、それを三国志の魏呉蜀になぞらえて、3社の成立過程から競争、三足鼎立に至るプロセスを描いたものだ。このノンフィクションが非常に人気となり、それ以来、ネットを中心にBATという略号が使われるようになった。

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▲2021年に出版された「インターネット三国殺」。百度、テンセント、アリババの成立過程を描いたノンフィクション。この本からBATという言葉が生まれた。

 

BATの次に使われたTALBE、TMD

2014年になると、メディアはTABLEという言葉を使うようになる。BATに加えて、Lは小米(シャオミ)。創業者の雷軍(レイ・ジュン)のイニシャルだ。Eは奇虎360で、3を裏返しにしたEで代表されている。

しかし、この言い方は長続きしなかった。続々と新しい世代の企業が頭角を表してきたからだ。そこで新世代のテック企業としてTMDが使われるようになった。Tは今日頭条(トウティアオ)のバイトダンス、Mは美団(メイトワン)、Dは滴滴(ディディ)だ。

2016年11月に、TMDの創業者3人は、烏鎮で開催された世界インターネット大会の閉会後、近くの喫茶店でお茶をし、3時間半にわたって意見を交換した。中国ではキーマンが食事をして、それをメディアに公開するということは、強い提携関係を作っていくというアピールになる。これ以来、BATを脅かす存在として、TMDという言葉がよく使われるようになる。

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TMDを強く印象づけたお茶会。左から美団、バイトダンス、滴滴の創業者。

 

AT2強時代を象徴した東興飯局とダボス会議

2017年に、美団の創業者、王興(ワン・シン)は、メディア「財経」の取材を受け、こう尋ねられた。「美団はBAT級の企業に成長できるでしょうか?」。その質問に王興は、こう答えた。「BATがビッグテックを表す言葉だとはもはや思っていません。美団はA、Tと同規模のビッグテックになることを目指してします」。

つまり、BATのうちの百度はすでに脱落をしていて、ATの2強時代になっていると王興は捉えているということだ。

その年の、世界インターネット大会の期間中、有名な「東興飯局」と呼ばれる食事会が開催された。EC「京東」(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)と、美団の創業者、王興の2人が幹事となっている食事会で、メンバーはテンセントの創業者、馬化騰(マー・ホワタン、ポニー・マー)を中心としたテンセント系列の経営者、投資家が出席をした。

さらに、翌2018年1月には、ダボス会議に出席したアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、世界各国の政治リーダー、ビル・ゲイツなどの国際的な著名人を招いて「中国文化」と題した食事会を開催した。

この2つの食事会で、AT2強時代になったことが印象づけられた。

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▲中国で最も有名な食事会「東興飯局」。テンセントのポニー・マーを中心に、テンセントが出資している企業トップ、投資家などが勢揃いをした食事会。バイトダンス、シャオミ、美団、京東、滴滴、快手などのCEOが出席した。

 

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▲2018年1月に、ダボス会議に出席したジャック・マーは、各国の著名人を招いて「中国文化」と題した食事会を開催した。

 

続いて使われたATM、HAT

2018年、小米と美団が香港市場に上場すると、ATMという言葉が使われるようになった。ATに加えて、Mは小米、美団、螞蟻金服(マーイー、アントフィナンシャル)のいずれかだというもの。

2019年5月に、美団の創業者、王興は、SNSで「HAT(ファーウェイ、アリババ、テンセント)がBATに置き換わる時がやってきた。ファーウェイは間違いなく中国屈指のテクノロジー企業であり、メディアはBATの代わりにHATを使うべきだ」と発言をし、注目された。それ以来、HATという言葉がよく使われるようになった。

しかし、ファーウェイは、米国のさまざまな規制により、事業の成長が大きく制限されることなった。通信機器などのtoB事業は以前と変わらず好調であるものの、スマートフォンなどのtoC事業は大きく売り上げを落としている。

そろそろHATに変わる言葉が必要な時代になっているが、まだこれといって広く使われる言葉はないようだ。

この20年、米国ではGAFAがテック業界のリーダー的存在であり続けてきた。しかし、中国では呼ばれ方が刻々と変わっていく。最初から入り続けたのはテンセント1社だけだ。