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テスラのブレーキ問題。事故に遭遇した女性が、第三者による検証を要求

中国で、ある動画が話題になっている。テスラ鄭州福塔店の前に、明らかに事故を起こしたテスラモデル3の屋根に座り、テスラに説明を求める訴えをしている女性の動画だ。車には、大きな文字で「テスラのブレーキは腐っている」と書かれている。女性の主張とテスラ側の主張が食い違っており、第三者による検証を求めたが、テスラ側が応じなかったことによる行動だと微社評が報じた。

 

ブレーキが効かずに生じたテスラモデル3の事故

この女性は、2月21日午後18時17分、父親が運転するテスラモデル3で、河南省安陽市の国道341号線を南下しているときに事故に遭遇した。

女性の主張によると、当時の速度は時速60km前後。信号まで200mほどのところで、運転していた父親はアクセルから足を外し、車は空走し、減速を始めた。信号が近づいたところで、ブレーキを踏んだが反応がない。再度、踏み直すと、ブレーキペダルが固定をされていて、踏めないことがわかった。車は時速50km程度で信号待ちをしている車に接近をしていく。2台の車をハンドル操作で避けた後、長城汽車SUV接触をし、ハンドルを左に大きく切った。その後、日産のセダンに接触をし、最終的にコンクリート製の中央分離帯に衝突をして、車は止まった。

女性の主張では、テスラモデル3のブレーキペダルに不具合があり、事故が起きたということになる。

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▲女性は、テスラ鄭州福塔店の前に事故車両を持ち込み、その屋根の上に座ってテスラを非難した。この映像はSNSで拡散し、話題を呼んでいる。

 

食い違うテスラ側の主張

しかし、テスラ側の主張は大きく異なっている。まず、事故が起きたのは、女性が主張する18時17分ではなく、その3分前の18時14分であると主張した。さらに、速度は当初118.5kmという一般道走行としては安全性を著しく欠いたものだったと主張した。

つまり、テスラ側の主張は、ブレーキの不具合ではなく、スピードを出しすぎていたため、ブレーキは正常に働いたものの、制動が間に合わなかったのだと主張した。

事故処理を行なった安陽市交通管理局では、安全な車間距離をとっていなかった運転手(女性の父親)に問題があるとして、事故の100%の責任を課した。しかし、速度超過については言及がなく、車間距離の問題だけを指摘した。

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▲テスラ側が車両データから作成した事故経過。しかし、不審な点が多い。ブレーキを踏んでいるのに、速度がほとんど低下しない。最後の項目の時間順が入れ違っているなど、女性は説明を求めている。

 

食い違う事故発生時刻

この事故について、女性はテスラ側に説明を求めている。

ひとつは、女性の主観では事故の発生時刻は6時17分であるのに、テスラの主張では6時14分になっていて、この3分の食い違いはどうして起きたのかということだ。テスラ側は車両の記録データに基づいているため、発生時刻は6時14分で間違いがないとしている。

では、女性は何を根拠に6時17分と主張しているのだろうか。女性は、事故発生当時、助手席に座っていた。中央分離帯に衝突し、エアバッグが作動して1分以内に携帯電話に電話がかかってきた。しかし、電話に出ている余裕はなく、車から脱出をした。すると、再び電話がかかってきた。それはテスラのスタッフからのもので、異常な車両情報が検出されたが、事故を起こしたのではないかと尋ねるものだった。

女性は、自身の通話記録を公開している。それによると、テスラからの電話は6時18分であり、彼女の記憶によると、事故発生から1分程度後に電話を受けたので、事故発生時刻は6時17分だと主張している。

もし、テスラの主張通り、事故発生時刻が6時14分だとすると、リアルタイムで事故をモニターしているはずのテスラのスタッフが、電話をかけるまでの4分間、いったい何をしていたのかが問題になる。

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▲女性の携帯電話の通話記録。テスラスタッフからの電話が午後6時18分で、2分36秒通話をしていることから、事故が起きたのはその1分前である6時17分だと推定している。テスラ側は6時14分だと主張している。

 

不審な点が多いテスラ提出の車両データ

また、女性は、テスラの主張する速度118.5kmはまったくの捏造だと主張している。事故発生箇所付近には、信号が2つもあり、夕方のラッシュ時で混雑をしており、そんな速度を出せる状況にない。女性の家族は特に急いでいるということもなかった。

そもそも、テスラの提出した記録には不審な点が多いという。時速118.5kmでブレーキを踏み、その0.21秒には時速116km、1.23秒後には時速109.5kmまでしか速度が低下していない。これはほとんどブレーキを踏んでいない空走状態に近い。しかし、ブレーキを踏んでから2.7秒後にはABSが作動するのだ。ABSが作動するほど強くブレーキを踏んで、これしか速度が低下しないということがあり得るだろうかというものだ。

さらに、テスラの提出したデータは信用できないと主張している。なぜなら、車両姿勢安定プログラムが起動する27.59秒の記録の下に、時間が巻き戻った27.45秒の速度記録が並べられている。なぜ、時間順に並んでいないのか。単なる作業ミスなのか、それとも何か別の理由があるのか、説明を求めている。

女性の立場に立って、記録を眺めると、女性の主張する通り、時速60kmで走行していたのに、ブレーキ不良によって事故が起きた。しかし、それを隠蔽するために、3分前にたまたま事故車両が118.5kmという高速で走行していたデータを見つけて、その時に事故が起きたようにデータを修正したと考えると、辻褄が合う。もちろん、真実がどうであるかはわからないが、テスラ提出のデータに不審な点が多いことは否定しようがない。

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▲テスラに説明を求めている女性。第三者による事故検証と、医療費の賠償を求めている。テスラ側は、車両の無償修理を提案した。

 

女性は検証を要求、テスラは無償修理を提案

女性は、テスラ側に、第三者による事故検証を求めたが、テスラ側は事故原因は女性家族にあるのは明確だとして、これを拒否。すると、女性は、破損したテスラモデル3の返品を要求して、さらに医療費などを請求した。

テスラ側は状況を鑑み、車両の無償修理と保険適用での優遇措置を取ることを提案したが、女性はこれを拒否、最終的に店舗前でのアピールとその様子の動画配信という行動に出た。これが多くの人の関心を呼んだ。

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▲事故車両は、他の車両に接触した後、中央分離帯に衝突。両親の命に別状はないものの、負傷を負っている。

 

急増するテスラの事故問題

このような車両の問題であることが疑われるテスラの事故は、中国国内で2020年に10件起きていた。それが2021年の1月には4件と急増をしている。モデル3が好調に売れ、台数が増えていることもあるが、運転者は突然の加速、ブレーキ作動不良、ステアリング不良などを訴えているが、テスラが車両の問題を認めた事例は1件もない。

専門家の中には、テスラは企業としても20年に満たず、自動車製造を始めてから10年足らずで、経験不足を指摘する人もいる。自動車は、販売して終わりでなく、その後、何年間も使われる。車両の問題、部品の劣化、所有者によるメンテナンスなど、さまざまな要因が複雑に絡み合う。

中国ではEVが売れ始め、本格的なEVシフトが始まりそうな機運が生まれ始めている。しかし、この問題が長引くと、EVに対する信頼性ばかりでなく、テスラという企業に対する信用も失われることになる。