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LiDARを使うか、視覚情報だけでいくか。自動運転開発企業を悩ます選択。テスラは視覚情報だけで自動運転に挑戦

自動運転技術を確立するにはLiDARを利用するというのが常識だったが、テスラは視覚情報だけで実現しようとしている。その代わりに全面的にAIを活用して精度をあげている。自動運転技術の実現にLiDARでいくのか、視覚情報だけでいくのか、開発企業は難しい選択を迫られていると汽車之心が報じた。

 

実用化が進むL2+による自動運転

自動運転は、これまでL5(レベル5、完全自動運転。人間は一切の運転操作が不要。ハンドルやペダルもなくなる)を目指してきたが、当面はL2(人間が運転主体となる自動運転)が広まりそうだ。

L2は、人間が主体となる自動運転で、人間はいつでも運転に介入できる状態でなければならない。そのため、運転席に座り、道路状況を注視し続ける必要がある。自動運転中でもスマホの操作やテレビの視聴、居眠りなどはできない。

しかし、テスラのFSD(Full Self Driving)を始めとして、ファーウェイもAITO「問界」シリーズに自動運転機能を提供し、テスラは米国、カナダでFSDの提供を始め、ファーウェイは中国でL2+と呼ばれる自動運転車の販売を始めている。さらに、スマホメーカーの小米(シャオミ)は、自動運転対応のSU7の発売を控え、百度バイドゥ)もすでに無人タクシーなどで確立したL4自動運転技術を応用した個人向け乗用車の開発に入っている。いずれもL2+自動運転と呼ばれるカテゴリーでの提供になる見込みだ。

 

90%以上の時間は自動車に運転を任せることができる

このようなL2+自動運転は、あくまでも人間が主体の運転であり、自動運転が処理ができない状況になると、人間に運転介入を求めてくる。しかし、すでに発売されているテスラやファーウェイの場合、多くのオーナーやメディアが路上での検証を行なっていて、道路環境が整った大都市内の移動であれば、90%以上の時間を自動運転に任せることが可能になっている。運転は車に任せて、自分は別のことをするというわけにはいかないものの、「見てるだけ」でいい状態になっている。

 

LiDARで外界を認知し、走行戦略を演算

このような自動運転は、まずは外界の状況をシステムが知る必要がある。そこで、ファーウェイなど一般の自動運転車はLiDAR(ライダー。赤外線、紫外線などの可視光以外も使ったセンシング装置)が必須となり、これで周囲の車両や人、障害物を認識する。

計測した結果は、BEV空間(Bird Eye View)と呼ばれる3Dモデルに統合され、自動運転システムはこのBEV空間のデータを使って最適な運転戦略を計算しながら走行をする。

▲自動運転を実現するには、なんらかの方法で外界を認識して、その中で走行戦略を演算して決定していく必要がある。

 

あえてLiDARを使わないテスラ

しかし、LiDARは複雑で精密な装置であるため、価格も高く、大きな進化も起きているため、自動車メーカーにとってはどのLiDARを採用するかは悩みの種になっている。高いコストを覚悟して採用しても、それがわずか数年で時代遅れになってしまうこともありえるのだ。さらに、雪や雨などに弱いという欠点もある。

そこで、テスラは、LiDARを使わずに視覚情報だけで自動運転を実現するという大きな突破を果たした。複数のカメラで外界を撮影し、この画像を統合することでBEV空間にまとめるというものだ。LiDARはレーザー光を発射して戻ってくるまでの時間で対象物までの距離を測定するが、テスラの場合は複数のカメラを使った三角測量の要領で対象物までの距離を測定する。

▲外界把握にはLiDARを使うのが一般的。物体の形から移動する物体なのか、静止している物体なのかを把握していく。

 

AIに空間認識をさせるテスラFSD

ただし、この統合は単純なアルゴリズムでは実現できず、テスラでも開発が難航していた。突破をしたのは自然言語処理でも利用されるグーグルのTransformerを利用したことだ。いわばAIに統合をさせるという発想だ。

このアイディアを実現するには、ひとつの大きな課題がある。それは、大量の学習素材データがなければ精度があがっていかないということだ。テスラのFSDやオートパイロットの初期は性能が悪い、問題を起こすと散々悪評を受けながら、テスラは大規模な投資を行なっていった。これにより、FSDは5億マイル以上、オートパイロットは90億マイル以上のデータが収集できている。現在もテスラ車から送られる映像データが蓄積をしていっている。

さらに2014年から独自のチップ開発を始め、2019年にはFSD専用チップを搭載した。2021年8月には、7nmプロセスと性能を向上した「D1」をリリースし、搭載をしている。

また、AIトレーニング用のビッグデータセンターも構築している。

つまり、テスラはLiDARを採用しないことで車両のコストは下げているが、その背後では膨大な開発と設備が必要になり、当然ながら莫大なコストがかかっていることになる。

▲LiDARは物体までの距離も正確に測定できるため、他社の動きも予測しやすい。電動バイクが横切ろうとする挙動や前を行く車両がブレーキをかけるなどの行動を予測をしながら、走行戦略を演算することができる。

 

LiDARとAI。自動運転を実現する2つの方法

このLiDARを採用するのか、それとも視覚情報だけで自動運転を実現するのかという2つの道は、関係者の頭を悩ませ続けている。中国のテック企業は、中国の都市道路状況は複雑であり、視覚情報だけでは難しいと考え、ほぼすべての企業がLiDARを選択している。現状ではLiDARを利用した方が精度も出しやすい。

しかし、将来にわたってLiDARが必要とされ続けるかどうかはわからない。LiDAR自身も進化をするし、また違った技術が登場するかもしれない。技術が切り替わると、流用できるものはあるとは言え、ノウハウもいったんリセットをされる。そこでプロジェクトを再起動するようなことを繰り返すのであれば、最初から最もシンプルな視覚情報を使った方がいいと考えたのがテスラだ。

どちらの道が優れているのか、今のところ答えはまだ出ていない。