中国ではテスラ車の暴走事故が連続して報道されている。テスラ車に問題があるのか、それとも運転手の運転ミスなのか。テスラは車両データのオープン化を進めており、搭載されているブラックボックスのデータも自分で取得ができるようにしている。このような車両データから事故の真相が明らかになる可能性があると電動星球Newsが報じた。
話題となったテスラモデルYの暴走事故
昨年2022年11月5日、広東省潮州市で、テスラのモデルYが暴走をし、2台のオートバイと2台の自転車と衝突をし、2名死亡3人負傷という事故が発生をした。運転をしていた所有者によると、路肩に停車をしようとしたところ、ブレーキペダルが固くて踏み込めない状態になり、力を入れて踏んだところ、突然アクセルが入り、急発進をした。その後もブレーキを踏むことができず、アクセルは入ったままとなり、最高で時速198kmに達した。2kmほどを暴走した後、衝突をして大破して車は止まった。運転手は肋骨を2本骨折する怪我をした。
この事故の様子は防犯カメラ、交通カメラが捉えており、その映像が公開されたことからも大きな話題となった。
▲広東省潮州市で起きたテスラモデルYの暴走事故。ブレーキペダルが踏み込めなくなり、時速198kmに達し、2名死亡3人負傷という大事故になった。
食い違う運転手とテスラの主張
当然ながら関心は事故原因となる。運転者の家族は、本人から聞いた話として、「ブレーキが踏めなかった」「本人は20年以上トラックドライバーを務めてきており、このような運転ミスは考えづらい」として、事故はテスラ車のブレーキの不具合によるものだとした。
これに対し、テスラは車両データからわかったこととして、次の3つの事実を公表した。
1)データによると、アクセルが長時間踏まれ、100%踏まれた時間が継続をした。
2)暴走の間、ブレーキが踏まれたことはない。
3)暴走の間、シフトレバーが4回パーキングに入れられたが、すぐに解除され、この時にブレーキランプが短く点灯している。
事故の原因については触れてなく、交通警察の調査に協力をしており、警察側でも第三者にデータの鑑定を依頼しているということだけを述べた。
続くテスラの暴走事故の報道
多くの人が、2021年2月に河南省安陽市で起きたテスラモデル3の事故を思い出した。信号待ちで停車している車列に、ブレーキが効かなくなったテスラ車が追突をしたというものだ。幸いにも軽傷者しか出なかったが、テスラ車の所有者は「テスラ車のブレーキに不具合があった」として、テスラ社に損害賠償を求めた。一方、テスラ側は運転ミスによるものとして主張が対立をし、所有者はSNSやショートムービーを使ってアピールをしたため、大きな話題となった。
この事故の真相は最後まで明らかになっていない。しかし、今年2023年になって所有者がSNSで、テスラと和解をし、今後この事件について発言はしないと表明したため、事件としては終わったものの、テスラと運転者のどちらに問題があったのかは永遠にわからないことになってしまった。
それ以降、テスラの暴走事故はたびたび報道されるため、世間では「テスラ車には問題がある」という認識が広がっている。しかし、テスラ車の事故はメディアが好んで報道するために多く発生しているかのような錯覚をしがちであり、また、中には運転ミスによる事故であるのにテスラ車の欠陥を主張していたことが発覚をしたケースもある。
自動車にも搭載されているブラックボックス
テスラは中国でも人気の高い電気自動車(EV)であり、多くの人がテスラ車の事故の真相を知りたがっている。この潮州市の事故では、真相が詳細に明らかになる可能性が出てきている。
その焦点となっているのはEDR(Event Data Recorder)の存在だ。これは自動車の挙動データを保存し続ける装置で、航空機のブラックボックスに相当する。事故が発生した場合は、このEDRのデータを見れば、事故の様子を詳細に知ることができる。衝突時の速度、加速度、ハンドルの回転角度、エンジンの挙動、エアバッグ、補助システムの動作、運転者の動作(ペダル、ハンドブレーキなど)などが記録される。
米国では2014年、日本でも2022年から新車に搭載することが義務化されている。中国でも2022年1月以降に生産された新車には搭載しなければならないことになっている。
このEDRのデータは特定のツールを使わないと抽出することができないため、データの改竄や修正、消去などはできないようになっている。
今回の事故では、報道はされていないものの、交通警察は当然EDRのデータを取得し、第三者に鑑定を依頼をしているはずだ。
データのオープン化を進めているテスラ
そもそも、テスラは車両データのオープン化を進めている。例えば、Teslamateという無料アプリを使うと、テスラ車の所有者は自分の車の走行データをスマートフォンで見ることができるようになる。
また、Tesla API(https://www.teslaapi.io/)というサイトでは、テスラが公開しているAPIからさまざまな情報を取得することができる。このサイトはテスラ公式ではなく、有志が集まって、テスラ用のモバイルアプリを開発するためのものだが、テスラはこの存在を知っていながらAPIの公開を続けているため、黙認をしていると考えられている。
さらに、EDRデータも、テスラは所有者が取得できるようにしている。専用のEDR取得プログラムとWindows PCがあり、MyTeslaアカウントがあり、EDR専用のケーブルを購入すれば、EDRデータを自分で取得することができる。
一般人がEDRデータを取得したところで何も読み取ることはできないが、専門家に鑑定を依頼することはできる。
明らかになった事故鑑定書の存在
自動車系のブロガー「韓潮」は、入手経路は明らかにしていないものの、潮州市の事故のEDRに基づいた鑑定結果の報告書と称するものを公開した。韓潮によると、この報告書からはっきりしたことは、テスラが事故直後に発表した「アクセルが常時踏まれ、ブレーキは踏まれなかった」ということと符合する。
この報告書は、潮州交通警察が鑑定依頼をしたものだと推定され、近々、潮州交通警察はこの鑑定書に基づいて事故責任認定書を発行することになると見られる。
テスラ車に問題があるのかどうかははっきりしない。しかし、テスラはデータのオープン化を他の自動車メーカーに先んじて進めている。これにより、正確な事故分析が可能となり、テスラ車による事故の真相追及が進むことになる。この車両データのオープン化は、テスラが進めた大きなイノベーションのひとつだ。