今年の春節では、12のテック企業が総額2200億円のお年玉を消費者に配布をした。テック企業がこのような大規模なお年玉を配布するのは、ユーザーを地方と中高年に拡大する絶好のチャンスだからだと店小魚が報じた。
12のテック企業が配ったお年玉は総額2200億円
中国の新年となる春節(旧正月)。この季節には、各テック企業が消費者に向けて大量の紅包(ホンバオ)を消費者に向けて配布をするのが恒例になっている。紅包とはお年玉のことで、さまざまな方法で取得をするとスマホ決済で受け取ることができる。紅包を受け取るには、当然ながらそのサービスのアカウントを持っている必要があるため、紅包を配布することで、一気に新規ユーザーを増やすことができることから、紅包大戦に参加するテック企業は年々増え、今年は12の企業が参加をし、その配布総額は132億元(約2200億円)を超えた。
昨年は10の企業が参加をし、合計で約60億元の紅包が配布をされたので、今年は倍以上に伸びていることになる。
今年は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)、ショートムービー「Tik Tok」「快手」が初参加となり、いずれも大型の紅包配布を行ったことが、総額が伸びた大きな要因になっている。
▲各テック企業が配布した紅包の総額。どのテック企業も大規模な紅包を配布し、新規ユーザーを獲得しようとする。京東、WeChat、QQは、配布額を非公開にしている。各企業の公告より作成。
▲各サービスが春節に間に獲得した新規ユーザー数。この1週間で、数百万人から1000万人規模の新規ユーザーを獲得する。Mob研究院のデータより作成。
紅包で一気にアリペイと肩を並べたWeChatペイ
この紅包という機能は、テンセントのWeChatが最初に搭載をした。基本的な機能はWeChatペイの送金機能だが、金額を範囲で指定し、くじの要領で金額がランダムに決まるというものだ。配布をする側では、紅包を送る人を指定し、金額の範囲設定や総額を決めておくと、自動的に按分をしてくれる。
WeChatペイは、アリペイに遅れて2013年8月にリリースされた。当時、スマホ決済の世界ではアリペイのシェアが圧倒的で、アリペイに追いつくために、テンセントは2014年の春節期間に紅包をキラーサービスとしてリリースし、大量の紅包を配布した。
この紅包を取得するために、WeChatペイを開通させた利用者は800万人にのぼり、これはアリペイがスタートしてから7年目のユーザー数に相当する。アリババの創業者、ジャック・マーは「アリペイの7年を、たった1週間で追いつかれてしまった」と慌てたという。
翌2015年の春節では、さらに拡大し、10億件の紅包が取得され、2000万人の新規ユーザーを獲得した。たった1年で、WeChatペイはアリペイのライバルとなるほど成長をした。ここから、春節の紅包は、新規ユーザーを大量に獲得する機会だと認識されるようになる。
▲新年には、椅子に座る年長者に対して、ひざまずき、頭を床につけて、口上を述べる儀礼が行われる。この時に年長者が紅包を配る。
▲紅包とは赤い祝儀袋のこと。お年玉だけでなく、婚礼のお祝いなどにも使われる。スマホ決済には、紅包を取得したり、送ったりする機能が備わっている。
アリババはクエストタイプのお年玉で対抗
2018年の春節では、アリババは対抗して「集五福」キャンペーンを行った。これは5つのクエストが用意され、それを実行すると5枚の福カードを集めることができる。クエストは単純なものが多く、万歩計機能をオンにして100歩歩くとか、アリペイに家族登録をするとか、アリババのサービスを使わせるものだ。
5枚の福カードが集まると抽選に参加をすることができ、花唄(ホワベイ、消費者金融サービス)の借入金が帳消しになったり、家族応募では最高で4万8888元(約82万円)の賞金があたるというものだ。
2018年の集五福は人気となり、2017年の独身の日セールの15倍のアクセスがあり、淘宝網(タオバオ)のサービスがシステムダウンしてしまうほどだった。2015年の春節期間の流量は4.9万テラバイトだったが、2020年には271.6万テラバイトと55倍にも増えている。
▲アリババの春節の定番となった「集五福」。5つのクエストを完結して、5つの福の字を集めると、さまざまな特典が受けられるというもの。
春節紅包は、中高年にユーザーを拡大する絶好のチャンス
2019年には、百度が、大晦日の番組である「春晩」の公式紅包スポンサーになり、Tik Tokが同番組の公式SNSとなった。ここから、紅包大戦の主役はTik Tokや快手などのショートムービーサービスに移っていく。
今年2021年にはソーシャルEC「拼多多」が公式紅包スポンサーとなる予定だったが、過重労働などの不祥事が起きたため辞退、代わってTik Tokを運営するバイトダンスが公式紅包スポンサーの座についた。
春晩という番組は、「中国の紅白歌合戦」とも言われるが、歌だけでなく、踊りや寸劇、マジックなども披露されるバラエティ番組で、感覚的には大演芸大会だ。当然ながら、都市の若者はほとんど見ない。見るのは、地方の中高年が中心で、家族揃って春晩を見るというのが幸福な光景のひとつになっている。
大家族が集まり、全員で春晩を観て、祖父母、両親世代は楽しそうにしている傍で、若い世代や子どもたちは退屈そうにスマホをいじっているというのが典型的な光景だ。
ここがテック企業にとっては、新規ユーザーを拡大する大きなチャンスになっている。スマホリテラシーの高い若い世代の多くは、すでにユーザーとなっているが、中高年はそうではない。そこに紅包を配るということで、新規登録をしてくれる。中高年はそのサービスがどんなものであるかもよくわからないし、登録の仕方もよくわからない。しかし、そばにスマホに慣れた子どもたちがいるので、聞きながら登録をすることができる。
通常時にはなかなかリーチできない層にアプローチしていける機会になっている。テック企業のサービスが「リテラシーの高い人だけのもの」から「国民的サービス」に成長するためにも、春節の紅包は重要な施策のひとつになっている。