大晦日の国民的番組「春晩」の公式紅包が、労働問題で不祥事を起こしている拼多多から、急遽、Tik Tokを運営するバイトダンスに変更となった。ECに本格参入、独自の決済システムも始めたバイトダンスにとっては、思わぬ幸運を得たことになる。Tik TokはSNS機能も強化され、テンセントのWeChatに近づいており、今年はテンセントとバイトダンスが激しく競争する年になりそうだと財経無忌が報じた。
中国では大晦日の定番番組「春晩」
中国の正月は、1月下旬から2月上旬の春節(旧正月)を盛大に祝う。その前日である大晦日にあたる除夕の午後8時から放送されるのが、中央電子台の春節聯歓晩会(春晩、チュンワン)と呼ばれる番組だ。
内容は歌と踊り、武術、寸劇などのバラエティーショーで、中国の紅白歌合戦とも言われる。午後8時から始まる4時間番組で、番組が終わると夜12時となり、新年を視聴者全員で祝う。
驚くのはその視聴率だ。2001年以降、2015年に28.3%になっただけで、毎年30%を超えている。海外へのネットライブ配信も盛んに行われている。日本でも、YouTubeライブ、ニコニコ生放送などで同時放送をされた。2020年の春晩は、世界中で12.32億人が視聴したと発表されている。
《中央广播电视总台2020年春节联欢晚会》完整版 2020 Spring Festival Gala | CCTV春晚
▲春晩は、日本でも在住の中国人のために、YouTubeライブやニコニコ生放送などでも放映された。
ユーザー数を飛躍的に伸ばすことができる春晩紅包
これだけの人が見るお化け番組であるため、そのCM争奪戦は毎年凄まじさを加えている。テック企業はCMだけでなく、紅包(ホンバオ)の配布を毎年やっている。紅包というのはお年玉のことで、1元程度のお年玉をスマホ決済でもらえたり、知り合いに紅包を送ることができるというものだ。
昨年は、テンセント系の動画共有サービス「快手」が春晩公式紅包を配布した。この紅包をもらうには、快手をインストールし、アカウントを作ることが必要で、ユーザー数を一気に拡大することができる。
▲メイン会場に観客を入れ、多次元生中継などを織り込むバラエティ番組「春晩」。大晦日に生放送されるため、中国の紅白歌合戦とも言われる。
公式紅包は、拼多多から急遽、Tik Tokに変更
2021年の春晩は、公式紅包は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が行うことになっていた。しかし、拼多多は、昨年暮れに従業員が帰宅途上で倒れて死亡する、今年2021年になって従業員が飛び降り自殺をするという労働問題を立て続けに起こしていた。そのため、公式紅包の座から降り、代わりにTik Tokのバイトダンスが行うことになった。
これは拼多多にとって大きな挫折となる。昨年、新たな生鮮EC「多多買菜」を始め、12月には独自のスマホ決済「多多銭包」を始めた。これを春晩の紅包によって一気にユーザー数を拡大しようとしていたのだと思われる。
一方で、バイトダンスには幸運がめぐってきた事になる。昨2020年6月にはEC部門を新設し、Tik Tok(抖音、ドウイン)でのライブコマースを強化してきた。そして2021年には独自のスマホ決済「抖音支付」を始めている。このようなサービスを春晩紅包で一気に拡大をすることができる。
▲内容は、歌と踊り、武術、寸劇などのバラエティーショー。中国では、故郷の実家で家族全員で春晩を見るのが、幸福な家族の一典型だとされている。
バイトダンス飛躍の年となるか
この紅包は、春晩公式でなくても、各サービスが独立てして行う。合計すると、この7年で70億元(約1100億円)が配布されている。
各テック企業が紅包にこだわるのは、テンセントのWeChatペイの成功例があるからだ。それまでスマホ決済市場は、アリババのアリペイが9割のシェアを占め、圧倒的な地位を保っていた。しかし、テンセントのWeChatペイは、2014年に500万人、2015年には2000万人規模の紅包を配布して、一気にアリペイのシェアの半数程度まで追いついた。それ以来、WeChatペイは、アリペイのライバルとして、中国人が使う2大スマホ決済の地位を確保した。
新しいサービスを始めるテック企業にとって、新年の紅包は、飛躍する大きなチャンスになっている。思わぬ幸運に恵まれたバイトダンスだが、昨2020年からECへの本格進出、SNS機能の強化を行い、テンセントのWeChatの座をねらっているとも言われる。今年は、テンセントとバイトダンスの競争が激しくなる年になりそうだ。