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SNS機能を強化しているTik Tok。テンセントのWeChatと激突

中国版Tik TokのSNS機能が強化され、WeChat並みのSNSに進化をしていく方向が見え出している。Tik TokとWeChatは、弱いSNSと強いSNSという棲み分けがあったが、双方に互いの機能を取り入れ、重なる部分が多くなっている。バイトダンスとテンセントの競争も激化することになると全現在が報じた。

 

Tik TokはSNS機能を強化する

抖音(ドウイン、中国版Tik Tok)の動きが活発になってきている。2021年春節前の除夕(大晦日)に放映される国民的番組「春晩」(チュンワン)では、公式紅包スポンサーとして、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が決まっていた。番組内で紅包(お年玉)の取得方法が解説され、その通りにすると数元のお年玉がもらえるというものだ。テックサービスにとっては、利用者数を大きく拡大するチャンスとなっている。

ところが、拼多多では、過労死の可能性がある従業員の死亡事件、飛び降り自殺事件などが続き、にわかに労働環境に問題があるという疑いが持たれるようになった。このため、公式紅包スポンサーの座を辞退し、その代わりに、Tik Tokを運営するバイトダンスが公式紅包スポンサーに就いた。

春晩は中央電子台だけでなく、ネットでもライブ中継され、日本でもニコニコ生放送YouTubeライブで配信される。中央電子台の視聴率は30%を超え、ネット配信も合わせると世界で10億人以上が見る番組。バイトダンスは12億元(約195億円)の紅包資金を用意し、開始したばかりの抖音支付向けに紅包を配布した。

しかし、バイトダンスの張楠(ジャン・ナン)CEOは、社内メールで「今回の春晩紅包は、抖音支付の利用者数を伸ばすことだけが目的ではなく、バイトダンスが長年挑戦してきたSNSへの道を拓くものだ」と従業員に伝えた。


《中央广播电视总台2021年春节联欢晚会》 1/4 | CCTV春晚

▲中国の大晦日のバラエティー番組「春晩」は、日本でもYouTubeライブやニコニコ生放送で同時中継され、世界で10億人以上が視聴する。この番組の公式紅包スポンサーにバイトダンスが選ばれた。

SNSはバイトダンスにとって大きな目標になっている

張楠CEOは、同じ社内メールの中で、具体例を語っている。今年の春節は帰郷が制限、非推奨となり、実家に帰らず都市で新年を迎える人が多い。そのような人が、新年の挨拶をショートムービーを送り合ったり、ライブ通話で顔を見て話をするいうようなことを促そうとしている。

これにより、従来のショートムービーを不特定多数の人に向けて公開するだけでなく、特定の知人にショートムービーを送るという習慣のきっかけにしたいのだという。つまり、Tik TokをムービーSNSとしても機能するようにするという。

バイトダンス創業者の張一鳴(ジャン・イーミン)は、創業当時から「バイトダンスにはSNSが必要」と言い続け、張楠CEOもTik Tokの日間アクティブユーザー数(DAU)が6億人を突破し、頭打ちになった2000年あたりから、はっきりとさらなる成長のためにはSNSが必要だということを言い始めている。バイトダンスにとって、SNSは悲願とも言える。

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▲Tik Tokに搭載される予定のSNS機能。利用者同士でショートムービーを送り合ったり、ライブ通話で話をすることができる。



スーパーアプリと呼ばれるテンセントのWeChat

Tik TokがSNS化をする上で、明らかにモデルとしているのがテンセントのWeChatだ。WeChatは、日本のLINEとよく似たスタイルのSNSだが、WeChatペイというアリペイに次ぐスマホ決済機能を搭載し、さらにこの数年はミニプログラムで利用時間を大きく伸ばしている。ミニプログラムは、WeChatの中から起動できるアプリ内アプリ(実体はウェブアプリ)で、ECやタクシー配車、フードデリバリーなどの各社がWeChat向けミニプログラムを提供している。

このミニプログラムでは、アカウント登録、ログイン、決済方法の指定などが不要でサービスを利用できる。WeChatのアカウントを流用してログインされ、決済方法はWeChatペイがデフォルト設定されているからだ。

これにより、利用者は、アプリよりも便利にサービスを利用できるようになった。始めて利用するサービスであっても、ユーザー登録などの手順を経ずに利用できる。多くの人が、日常の生活はほとんどすべてWeChatだけで済むようになっており、WeChatは次第に「スーパーアプリ」と呼ばれるようになっている。

TIk Tokもこのスーパーアプリになることを狙っている。そのために必要なのが、独自のスマホ決済とSNS機能だった。

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▲WeChatのミニプログラム。図はテンセントビデオ。使い勝手はアプリと変わらないが、起動が早く、アカウント登録をせずに利用することができる。

 

Tik Tokを遮断し、ムービー機能を追加したWeChat

テンセントも、このバイトダンスの動きを警戒している。以前から、Tik Tokが強力なライバルになると見ていたテンセントは、WeChatからTik Tokへのリンクを遮断する措置に出ている。WeChat内でTik Tokムービーへのリンクを掲載しても、反応しないのだ。また、WeChatは視頻号(チャネルズ)という機能を追加した。これは投稿されたショートムービーが次々と見られ、その他、ライブ配信や特定の人にショートムービーを送ることができる機能だ。早い話が、WeChat内にTik Tokと同じ機能が出現した。

この視頻号の機能は歓迎され、2020年末の段階でDAUは2.8億人に達している。Tik Tokのライバルである快手のDAUが3.0億人なので、突然もう一人のライバルが登場したことになる。

バイトダンスは、WeChatからの遮断は、独占的地位の乱用だとして独禁法に触れると、訴訟を起こして一矢を報いようとしている。

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▲WeChatに搭載された新しい機能「ムービーアカウント」。使い勝手や内容などは、Tik Tokほぼそのままだ。

 

Tik Tokからホットスタートする戦術に転換

バイトダンスは、このショートムービーSNSのプロダクトをすでにリリースしている。2018年から、友人同士でショートムービーを送り合える「多閃」(ドゥオシャン)、ショートムービーを知り合いと共有できる「飛聊」(フェイリャオ)のサービスを提供している。しかし、一定範囲で根強いファンを獲得しているものの、Tik Tokクラスの大きな影響力を持つには至っていない。

それでも創業者の張一鳴は、SNSの挑戦をやめなかった。2019年のバイトダンス創業7周年の席上で、従業員に対して、SNSへの挑戦はやめないと宣言をした。そこからTik TokのSNS化が始まり出した。

Tik Tokはすでに日間アクティブユーザー数(DAU)が6億人に達し、Tik Tokを開けば、必ず知人の誰かもTik Tokを開いているという状態に達している。あとは、その知人とコミュニケーションができるようにすれば、Tik TokをSNS化していくことができる。多閃や飛聊のようにコールドスタートをするのではなく、Tik Tokの膨大な流量を活かしてホットスタートする方が成功する確率が高いと判断された。

さらに、以前は、WeChatに自分が投稿したショートムービーのリンクを貼り、友人などに送っていたが、テンセントによる遮断措置によってそれができなくなった。Tik Tokのユーザーにとっても、友人にショートムービーを送れるという機能が求められるようになった。

 

友人のタイムライン閲覧、同じ都市内の投稿が見られる機能を追加

2020年3月頃から、TIk TokのSNS機能のテストが活発になってきている。一部の了解を得たユーザーに対して、ベータ版を配布し、ビデオ通話や同じ都市の中のユーザーと知り合える機能などを試している。2020年夏には、正式版Tik Tokに「同じ都市」というタブが新設され、自分の住んでいる都市で投稿されたショートムービーが一覧でき、その投稿者と繋がれる機能が搭載されている。また、9月には「日記スタイル」という名称で、友人の投稿タイムラインが見られるようになった。また、「私の親戚を紹介します」「私の友達を紹介します」というテーマのムービー投稿を奨励するキャンペーンなども実施している。SNS化が着々と進み、ユーザーにSNS的な利用の習慣づけにも力を入れている。

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▲中国版Tik Tokには、すでに上部のタブに「同城」(同じ都市内での投稿)、下のタブに「朋友」(友人のタイムライン)の機能が追加されている。


新年紅包は利用者拡大よりもSNS機能の普及

このようなSNS化を進めるにあたって、今年の春節は大きなチャンスとなった。コロナ禍の影響により、都市に残り、帰郷しない人が多いため、家族、親戚、友人にショートムービーを送って、今の状態を知らせたいというニーズが生まれる。そこに公式紅包スポンサーになることで、実家の両親や親戚もTik Tokを利用してくれるかもしれない。

張楠CEOによると、抖音支付の利用者を伸ばすことよりも、こちらのSNS機能利用を促す目的の方がはるかに重要だと社内メールで語っている。そのため、Tik Tokでは「ショートムービーで新年の挨拶」キャンペーンを行い、50以上の新年向けの特殊エフェクトも公開した。春節の間に、特定の人にショートムービーを送るというSNS的な使い方を体験してもらうというのが、最大の目的だとしている。

Tik Tokのキャッチコピーは「美しい生活を記録しよう」というもので、すでに若い女性がダンス映像を投稿するサービスではなくなっている。利用者も、もはや若者だけではなく、全世代に広がり、国民的なインフラになり始めている。

バイトダンスは、Tik TokをさらにSNS化することで、テンセントのWeChatに対抗できるサービスにすることをねらっている。今年は、WeChatとTik Tokの競争が激化していくことが予想される。