ソーシャルEC「拼多多」には、ショッピングカートの機能がない。商品ページの購入ボタンをタップすることですぐに購入ができる。このカートがないということが拼多多の成長を支えるひとつの要因になっていると首席創業智庫が報じた。
ソーシャルEC「拼多多」にはカート機能がない
ECサイトではお馴染みの「カート」機能。買いたい商品はカートの中に入れ、後でまとめて注文と精算をするのが一般的な買い物の方法だ。淘宝網(タオバオ)、京東(ジンドン)のいずれにもカート機能がある。
しかし、この2つのECに並ぶほど成長した拼多多(ピンドードー)にはショッピングカートの機能がない。商品のページから直接購入する仕組みで、後でまとめて買うということができない設計になっている。このショッピングカート機能がないということが、拼多多の特長となっている。
▲拼多多にはカート機能がない。商品ページのいちばん下に購入ボタンが用意されているだけだ。
商品ではなく、購入者をまとめたい拼多多
そもそもカート機能はなぜ存在するのか。それは主に運営側の都合による。複数の商品をまとめ買いしてもらうことで、決済処理は1回で済み、発送もまとめて行える。業務負担を減らすことができる。
しかし、これは配送センターを持っているECの場合で、ソーシャルECである拼多多では業務負担を減らすことにならない。
拼多多の基本は、複数の人がまとまることで購入する団体購入だ。ある人がある商品を買いたい場合、その商品が「24時間以内に10名」などの成立条件があり、あと9名を集めなければならない。そのため、SNS「WeChat」を使って、商品のリンクを友人などに送り、あと9名を集めようとする。これが、その商品の宣伝となっている。SNSを使って、消費者が商品情報を拡散してくれる。これが拼多多の爆発力を生んでいる。
販売業者からすると、設定した10名ごとに注文が入り、発送を行うことができ、業務負担が小さくなる。一般のECでは、配送センターがあり商品を一括管理しているが、拼多多の場合は無数の販売業者がそれぞれに発送業務を行う。そのため、カートよりも人がまとまってくれた方が効率的なのだ。
もちろん、「24時間以内に10名」などの条件を満たさない場合、購入は不成立となるが、現実には不成立になることがないように、各業者は条件設定を工夫している。
▲拼多多では、日用品が驚きの安さで販売されている。当初は地方都市、農村の利用者が多かったが、現在では都市部にも広がり、拼多多の成長を支えている。
カートは離脱率をあげてしまう
しかし、拼多多がカート機能を採用しない最大の理由は、離脱率を抑えるためだ。カート方式のECでは、買いたい商品があったらまずカートに入れる。そして、カートを開き決済をする。しかし、この時に、購入を思いとどまり、カートから削除してしまうことが結構ある。
このようなカゴ落ち率は、各ECとも公開はしていないが、50%を超えているのが一般的で、70%を超えるECもあると言われる。つまり、カートに入れられた商品の70%は実際には買われないのだ。
このようなカゴ落ちを避けるには、冷静になって買い物を再考する時間を与えない方がいい。購入ボタンを押してから、決済までのプロセスを最短にする必要がある。拼多多は、購入ボタンを押したら、すぐに決済なので、このプロセスが最小化されている。つまり、カートという機能はない方が優れているのだ。アマゾンも「カートに入れる」他に「今すぐ買う」ボタンを設置し、カートを介さない購入方法を提供している。
▲淘宝網(タオバオ)にはショッピングカート機能がある。しかし、このカートを開いた段階で、思い直して、購入をやめてしまう商品が出てくることになる。
拼多多の顧客はカートのアナロジーになじみがない
また、カートを採用しないのは、ユーザー体験を最適化するという目的もあった。拼多多は2015年に、都市部ではなく、地方都市や農村の中高年向けに激安をウリにして成長が始まったECだった。当時、地方ではECを使う人が少なかった。スマートフォンやPCの普及率も低く、都市部で買われているような商品は高くて手が出ない。そこに激安商品を投入し、地方在住者にもECの楽しみを提供した。これが受けた。そのため、都市住民からは「貧乏人のEC」という悪口を言われることもあった。
地方の中高年は、スマホリテラシーが高くない。そういう人にとっては「いったんカートに入れて、それから決済」という2段構えのやり方は、わかりづらく、離脱率を高くしてしまう。買いたいと思ったら、商品ページからワンタップで買える。このダイレクトな操作感が必要とされた。
また、都市住人は、大型スーパーで買い物をすることが多く、ショッピングカートがどういうものであるかがわかっている。ECのカートを見れば、それが何のメタファーであるかがすぐに理解できる。
しかし、地方都市住人は、大型スーパーでの買い物経験が少なく、公設市場で対面で購入することが多く、ショッピングカートを使った経験も少ない。そういう人にとって、カートというのは理解しづらいメタファーになる。
農村から都市へ逆伝播した拼多多
地方から始まった拼多多だが、現在は都市部でも使われるようになり、それが拼多多の成長を支えている。以前は「安かろう、悪かろう」の商品が多く、偽物、偽ブランド商品も多数出品されていたが、運営の努力により品質面は安定をしてきている。一方で、激安価格はそのままだ。
さらに、9.9元(約160円)でiPhone 12やドローン、五菱の自動車「宏光」を抽選販売するなど、都市住人の若者をターゲットにしたキャンペーンを連続して行っている。
さらに、都市の若い世代では、買い物の断片化が進んでいる。これは必要なものはその時に買ってしまうというもので、以前のように「週末に大型スーパーに行き、まとめて買う」ということをしなくなっている。そのため、若い世代の間では、買い物の断片化に対応したECやコンビニの需要が高まり、百貨店やショッピンモールの需要が頭打ちになっている。すでに百貨店やモールも、ライブコマースや新小売など、断片化に対応する施策を打てないところは沈み始めている。
▲大きな話題になっている9.9元販売キャンペーン。iPhoneやドローン、自動車などが抽選で9.9元(約160円)で買えるというもの。
ECにカートは不要の時代になっている
拼多多で、商品を見つけたけど、買おうかどうか考えたいという場合、どうしたらいいのだろうか。それには商品のブックマークの機能がある。一般的なECでは、カートがこのブックマークとして使われている。一方で、ブックマークの機能も搭載しているため、ユーザーは買いたい商品の候補を、ブックマークに入れるべきか、カートに入れるべきか迷うことになる。これは「なんか使いづらい」という悪いユーザー体験となる。
カートというECの伝統的な機能は、もはや時代の役割を終えたのかもしれない。少なくとも、中国の若い世代は、ダイレクトに商品が購入できるカートレスの拼多多のようなユーザー体験を好むようになっているようだ。