外売企業「ウーラマ」が、上海で一人分の食事の注文率が高い「孤食地域」のデータを公開した。孤食地域の多くが、IT企業が多く集まる地域と重なっている。同じIT企業拠点でも、それぞれに特色があるとPython愛好者社区王大偉が報じた。
上海で孤食が多いのはIT企業が集中する地域
外売(フードデリバリー)「餓了麼」(ウーラマ)は、さまざまなデータを公開している。その中で話題になったのが、「上海で最も孤食が多い15の地域」だ。この統計は、2019年1月から5月までの、夕方5時半以降、朝5時半までの12時間と週末に一人用の食事の配達を注文した数が多い地域を15選んだものだ。つまり、会社で残業しながら、あるいは自宅で、夕食、夜食を一人でとる人の割合が多い地域。
上海にはIT企業が集まる地域がある。特に有名なのが張江(ジャンジャン)と漕河涇(ツァオフジン)の2つだ。この2つの地域は、当然ながら、孤食地域トップ15に含まれている。
▲外売企業「ウーラマ」が公開した孤食の多い地域。ウェブ系企業の集まる張江では、家賃が高いためか、最も食事の単価が安い。2019年1月から5月までの夕方5時半から朝5時半及び週末に、1人分の食事を注文したデータを集計したもの。
同じIT企業地域でも雰囲気が違う2地域
王大偉によると、張江と漕河涇は上海のIT企業が集中する地域として有名だが、それぞれの雰囲気は違っているという。その違いを紹介している。
張江は、上海市の東側の郊外に開発されたIT地区。上海市内と浦東国際空港の中間に位置し、海外出張の多い企業には便利な地域だ。張江に勤める人たちは「張江男」「張江女」と呼ばれる。
▲張江の全景。川の中洲が人工知能島となっていて、人工知能のスタートアップのオフィスがある他、自動運転などの検証実験が行えるようになっている。上海は人工知能産業を地場産業にしようと、莫大な投資を行っている。
賃貸に住み、歩いて通勤する張江
張江男、張江女たちは、高収入だが、張江付近のマンションは高騰しており、平米あたり7万元から8万元(約124万円)になっているため、稼いでいるのに自由なお金が少ないという人も多い。そのため、賃貸住宅を選ぶ人も増えている。いずれにしても、張江男、張江女は会社の近くに住み、数分歩いてオフィスに行くというライフスタイルを理想としている。
▲張江は、上海市の東側郊外に開発されたITパークで、マンションも豪奢なものが多い。そのため、マンション価格や賃貸家賃が高いため、張江のエンジニアたちが注文する食事は、平均単価が他の地域よりも低い。
テンセントビルがランドマークになっている漕河涇
漕河涇は上海市西側郊外に最近開発されたIT地域で、虹橋国際空港に近い。虹橋空港は国際便も出ているが、国内便を主にしているため、国内出張が多い企業にとっては便利な地域だ。
郊外といっても、ほとんど上海の市街地であるため、多くの人が地下鉄で数駅のところに住み、出勤は地下鉄を使う。漕河涇開発区駅を降りると、いったんこの地域で最も大きなテンセントビルの中に入り、そこから外に出ていく構造になっている。そのため、漕河涇開発区駅で降りた人はほぼ全員がテンセントビルの中に吸い込まれていく。
▲漕河涇では、テンセントのビルがランドマークになっている。地下鉄駅と直結しているため、ほとんどの人がこのビルから出入りをする。
通勤地下鉄の中では、技術書の朗読を聞いて勉強
地下鉄9号線はそもそもが混雑する路線で、しかも多くの人が漕河涇開発区駅で降りる。雰囲気は他の地下鉄と違っている。若い人が多く、話をする人はなく、車内はシンとしている。ほぼ全員がスマートフォンを見ている。また、イヤフォンを使いシマラヤFMを聞いている人が多い。シマラヤFMは、ネットラジオ局だが、本の朗読チャンネルがあるのが特徴だ。これを利用して、技術書などを「聞いて」勉強している人が多い。静かだが、なんとなくピリピリとした雰囲気があるという。
スーツ姿ではビル内に入れてもらえない張江
この2つの地域はファッションも違っている。張江は、典型的なエンジニアファッションで、ナイキのスニーカー+ジーンズ+チェックのシャツ+黒のジャケットというのが定番になっている。また、張江男の中で流行に敏感な人は、ニューバランスのウォーキングシューズ+スリムジョギングパンツ+パーカーあるいはジャンパーなどという人もいる。
スーツを着ている人は滅多に見かけない。稀に必要があってスーツを着て出社をすると、守衛に止められてしまうのだという。スーツを着ていると、クレジットカードか保険の営業だと思われるからだという。
張江ではチェックシャツ率が高いが、漕河涇では横ストライプのTシャツ率が高い。漕河涇ではストライプTシャツに短パンあるいはジーンズ、それにリュックという姿が圧倒的に多い。
▲エンジニアはなぜかチェック柄のシャツを着る。エンジニア人材紹介サイト「CSDN」のエンジニアに集まってもらったら、チェック率があまりにも高かった。
張江では外売を使って、オフィス内で昼食
昼食時間になっても、張江男、張江女たちは食事に外に出ることはない。オフィスビルの多くが高層ビルなので、外に出るのに時間がかかるからだ。地下鉄駅の向こう側には、伝奇広場という美食街があるが、例外なく混雑している。そのため、ほとんどの人が外売(フードデリバリー)を利用する。そのため、昼時にビルの窓から下を見ると、外売配送員がかぶっている色とりどりのヘルメットが見えてきれいなのだそうだ。ウーラマの青、美団のオレンジ、百度の赤が入り乱れて、張江にきたばかりの人は必ずスマホで写真を撮る。
漕河涇ではオフィスビルの中に無数のレストランがあるので、多くの人がそこで昼食を取る。この地区では、食事専用のプリペイドカードがどこのレストランでも使えるようになっている。しかし、人は多いので、多くの人が平均して20分ぐらいで食事を終えてオフィスに帰っていくという。
▲男性エンジニアは、自分を自虐的に「プログラミング猿」と呼び、孤独を感じている人が多い。ところが、女性エンジニアは孤独にならないとして、ネットで拡散した写真。
ウェブ系の張江、製造系の漕河涇
このような違いが生じる原因は、張江にはウェブ系のIT企業、漕河涇には製造系のIT企業が多いことだ。そのため、張江ではJava使いが多く、漕河涇にはC++使いが多い。面白いことに、漕河涇のエンジニアは顔文字をよく使う。張江のエンジニアはほとんど使わない。そのため、エンジニアとSNSでやりとりをしている時に、顔文字をよく使う人に出会ったら「漕河涇?」と尋ねると、半分ぐらいは当たるのだという。
さらに、面白いことに張江では、プロダクトマネージャーの地位が弱く、漕河涇ではプロダクトマネージャーの地位が強いという。そのため、2つの地域で、誰かが誰かを怒鳴って叱っているのを見かけたら、どの地域かで、どちらがプロダクトマネージャーで、どちらがエンジニアであるかがわかるという。
張江では、叱っている方がエンジニアで、プロダクトマネージャーがなだめている。しかし、漕河涇では逆で、叱っている方がプロダクトマネージャーで、小さくなっている方がエンジニアなのだ。
▲上海で孤食の多い地域を地図上に表したもの。多くが、IT企業の集中している地区と重なっている。
上海に生まれている人工知能の開発拠点
上海は金融都市として、中国で最も発展した都市であるという自負を持っていたが、ITの普及以降、IT産業面では遅れをとっている。そのため、上海市政府はITパークの開発を進め、IT企業の誘致を積極的に行なっている。
特に人工知能系開発企業はさまざまな面で優遇をし、人工知能を上海の地場産業にしようとすらしている。このような事情があるため、上海のIT企業が集中している地域は、環境が整備されていて働きやすいところが多いという。上海にもいくつも特色のあるIT企業エリアが登場してきている。