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ジャック・マー引退後のアリババは、安定経営企業になっていくのか

アリババの創業者、ジャック・マーが引退をして、ダニエル・チャンCEOが、名実ともに「アリババの顔」になった。ダニエル・チャンは、財務畑出身であり、その実直そうな風貌から、アリババを安定経営することが使命だと言う人が多い。しかし、実際のダニエル・チャンCEOは、攻めの人であり、それにふさわしい実績をアリババの中で残してきていると梁朝文化が報じた。

 

2代目CEOは実直で、安定経営が使命?

2011年、アップルのスティーブ・ジョブズが引退をして、オペレーション担当出身のティム・クックがCEOに就任をしたとき、多くの人がアップルはカリスマを失ったと感じた。ティム・クックの実直そうな外見、手堅い手腕から、アップルの成長の時期は終わり、安定の時期に入ると感じた。

アリババでも同じことが起きている。カリスマだったジャック・マーが引退をして、財務出身の張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)CEOが名実ともにアリババの顔になった。張勇CEOも、ティム・クックと同じように実直そうな風貌をしている。アリババも成長の時期を終え、安定経営の時代に入ると見ている人は多い。しかし、本当にそうなのだろうか。

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▲アリババの創業者、ジャック・マー。2019年9月に引退をし、アリババの挑戦の時代は終わり、安定経営の時代に入ると見ている人も多い。

 

子どもの頃から優秀だったエリート会計士

張勇は、1972年1月11日に上海で生まれ、子どもの頃から頭がよく、順調に上海財経大学に入学し、金融学を専攻した。1995年に卒業すると、アーサー・アンダーセン会計事務所に就職をした。わずか数年で、上海事務所の所長になるほど優秀だった。しかし、アーサー・アンダーセンが中国から撤退することになり、会計士の社員の多くが、プライスウォーターハウスクーパース会計事務所に移籍をし、張勇もそれに従い、同社の上海事務所の高級スタッフとなった。

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▲ジャック・マーの跡を継いだ張勇(ダニエル・チャン)CEO。その実直そうな風貌から、安定経営の手堅い人と見られがちだが、Tmall、独身の日セールなど、攻めのビジネスが大好きで、実績も残してきている。

 

ダニエル・チャンは外見に似合わず、攻撃的な人物

張勇は、外見に似合わず、攻撃的な人で、「挑戦的な仕事が好きだ」と公言をしている。

2005年になると、顧客企業にテック企業が増えてきた。特にネットゲームを開発し、運営する企業は成長速度が凄まじい。張勇は、この頃から、会計事務所としてではなく、もっと近い形でテック企業と仕事をしたいと考えるようになる。

2007年、張勇は、ヘッドハンターの紹介で、香港で、アリババの蔡崇信(ツァイ・チョンシン、ジョセフ・ツァイ)と会い、同じ財務畑であったことから、個人的な付き合いが始まる。

蔡崇信はアリババの黎明期から、財務面を支えた人物だ。まだただの英語教師だったジャック・マーと知り合い、惚れ込み、投資会社インベスターABのアジア太平洋地区の責任者という高収入の仕事を捨てて、月給500元でアリババに入社したという人だ。起業したばかりのジャック・マーに、日本のソフトバンク孫正義をはじめとする人たちを紹介し、投資資金を引き出すという大きな貢献をしている。アリババは、ジャック・マーの夢と蔡崇信の資金収集能力から始まった。挑戦的な仕事をしたい張勇と話が合うのは不思議ではない。

 

アリババに転職したのは「300億ドル企業のCFOになりたい」から

2007年12月11日、張勇は会計事務所を辞めて、アリババのタオバオCFOとして入社する。翌2008年には、タオバオの首席運営官、タオバオ商城の責任者などを兼ねる。張勇は、ジャック・マーに「なぜアリババのような小さな企業に移籍しようと考えたのか?」と聞かれて、こう答えたという。「私は30億ドル企業のCFOを務めたことがあります。次は300億ドル企業のCFOになりたいのです」。

つまり、30億ドル企業を10倍に成長させることはとても難しいが、アリババのような企業価値が0に等しいテック企業であれば、300億ドル企業になる可能性があるという意味だ。実際、張勇がCEOに就任したとき、アリババの企業価値は4600億ドルになっていた。

 

カオス状態だったタオバオの内情

当時、タオバオ内部は混乱をしていた。タオバオは、3つに分社化する計画を進めていた。ひとつはCtoC型の「タオバオ」。もうひとつは、大手販売業者を集めたBtoC型の「タオバオ商城」。もうひとつはシステム開発だ。

CtoC型のタオバオは、誰でも自由に商品を出品できるフリーマケット型のECだ。しかし、タオバオではマネタイズができないので、有力な販売業者を集めて、BtoC型の「タオバオ商城」を開設していた。これが現在のTmallになる。タオバオ商城に出店をするには、保証金や出店料、管理費などを支払う必要がある。アリババはこの資金を元に、優待やキャンペーンなどを行い、タオバオ商城の売上を成長させていこうと考えていた。

 

タオバオvsタオバオ商城の内乱が始まる

保証金を支払いたくない零細業者は、タオバオにとどまった。しかし、大型キャンペーンを打っていくタオバオ商城の売上があがっていくにつれ、タオバオの売上は圧迫されていく。困った零細業者たちは、タオバオ商城で販売されている製品を狙い撃ちにして、ダンピング価格でタオバオでの販売を始めた。つまり、タオバオ商城をつぶそうというのだ。

このとき、張勇は、徹底した対策をとった。タオバオ商城つぶしのダンピング販売をする業者を徹底的に調べ上げて、悪意のある販売をやめるか、タオバオをやめるかを迫ったのだ。一歩も譲らない張勇の姿勢に、このようなタオバオ商城つぶしも鎮静化をしていった。

 

独身の日セールの仕掛け人、張勇

その後、張勇は、タオバオ商城のプロモーション策として、11月11日を独身の日と定め、一大セールを展開した。2019年には、1日で2684億元(約4.1兆円)を売上るビッグセールに成長している。

2012年、張勇はタオバオ商城を「天猫」(ティエンマオ、Tmall)と改名をした。中国で最大のECに成長をし、アリババの第二創業だと言われる。張勇は、Tmallの確立と、独身の日セールによる成長に貢献をした人であり、誰もが創業者ジャック・マーの跡を継ぐのにふさわしい第二創業者だと感じているのだ。

 

ジャック・マーの提唱する「5つの新」。挑戦はまだ続く

ジャック・マーは2016年頃から「5つの新」という言葉を使い始めている。10年以内に、私たちの生活、経済活動に5つの革命が起こるというものだ。

1)新小売:ECと実体小売の垣根がなくなり、オンライン小売とオフライン小売は融合をしていく。

2)新製造:大量生産ではなく、個人のニーズを反映した少量生産になっていく。

3)新金融:従来の金融は大企業を中心に顧客にしているが、それは全体の2割でしかない。残りの8割の消費者、零細企業を顧客にする金融業が成長をしていく。

4)新技術:従来のホストコンピューター、PCを中心にした仕組みは終わり、クラウド人工知能とモバイルインターネットを中心にした仕組みになっていく。

5)新エネルギー:化石エネルギーの時代が終わり、新エネルギー中心の時代になっていく。

このジャック・マーの予言は、そのままアリババの方向性を示すものでもある。新技術=アリクラウド、新金融=アリペイ、浙江網商銀行など具体的な成果が生まれている分野もある。

その中でも大きいのが、新小売=盒馬鮮生(フーマフレッシュ)だ。ECと実体店舗を融合したこの新小売スーパーは、張勇と侯毅(ホウ・イ)フーマフレッシュ総裁が立ち上げたもので、アリババの第三創業と後に呼ばれる可能性も秘めている。

人を見た目で判断する人は、張勇の風貌からアリババの挑戦は終わり、安定運営に入ると言うが、人を行動で判断する人は、張勇の行動から、アリババの挑戦はまだまだ続くと見ている。