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高速道路を走ってはいけない電気自動車

中国で進んでいる「EVシフト」。実際に街を走る電気自動車も増えてきている。しかし、高速道路では空気抵抗が増して、航続距離が半分程度になってしまうため、EVで高速道路を走ってはいけないと備胎説車が解説した。

 

ネットでは評判が芳しくない電気自動車

中国で電気自動車(EV)などの新エネルギー車への転換「EVシフト」が起きていることになっていて、確かに街中で新エネルギー車専用の緑色のナンバープレートをよく見かけるようになっている。

しかし、「EVがよく売れている、人気」という報道がさっぱり出てこない。EV自動車メーカーは売れ行きは好調だとアナウンスすることが多いが、その多くは法人需要であって、個人需要はまだまだ掘り起こせていないと指摘する報道もある。

一方で、車好きが集まるネットコミュニティーでのEVの評判は芳しくない。中には、「ゴミ」と断言する人までいるほどだ。その中で、自動車専門メディア「備胎説車」(スペアタイアが自動車を語るの意味)が、EVで高速道路を走ってはいけないと警告し、自動車愛好家の間で話題になっている。

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▲増えてきた新エネルギー車専用の緑ナンバー。さまざまな優遇が用意されている。優先的に駐車できる、料金が割引になるなどの特典が都市ごとに用意されている。

 

空気抵抗によりカタログ値の半分になる航続距離

問題は、高速走行をすると、空気抵抗も車速の2乗に比例をして増していくということだ。特にEVの多くは、短距離の街乗りを想定したものが多く、高速走行では空気抵抗が増し、効率が悪くなる。

例えば、上海蔚来汽車の蔚来ES8は、補助金適用価格で40.3万元から41.1万元(約660万円)。自動車評価サイト「汽車の家」でのオーナー評価は5点満点で4.73点と高評価を受けているEVだ。

カタログでは、満充電で512km走行できると書かれている。しかし、高速道路を時速120kmで走行すると、実際は242kmしか走行できなかった。空気抵抗の負荷がかかるためだ。

備胎説車は、多くのEVが、高速走行ではカタログデータの半分程度しか走れないと警告をしている。

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▲上海蔚来汽車の蔚来ES8。日本円で600万円以上するかなりの高級車で、オーナーからの満足度も高い。それでも高速道路を走行すると、バッテリー切れで立ち往生する危険性がある。

 

次の充電ステーションまでたどり着けない

しかも問題は、充電ステーションだ。高速道路のサービスエリアの4カ所に1カ所は充電ステーションを用意しなければならない規定になっていて、その設置が急がれている。

しかし、これは計算すると平均200kmに1つの充電ステーションということになり、蔚来ES8であってもギリギリだ。

中華H230EV(16.98万元から)や長安奔奔mini-e(8.28万元から)では、カタログデータでも、満充電での走行距離は150km程度。カタログ通り走れても充電ステーションに到達できないことになる。ましてや、実際の走行距離は半分程度になってしまうので、高速道路を絶対に使ってはいけないと警告している。

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▲中華H230EV。280万円ほどの大衆車EV。しかし、それでも満充電の航続距離は150kmで、休日に高速道路を使って遠出することはできない。EVはまだまだ個人所有するには難しい面が多すぎる。

 

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長安奔奔mini-e。130万円程度の低価格EV。満充電の航続距離は150km。街乗り専用車だ。

 

充電設備の不足、故障が問題になっている

さらに、高速道路の充電ステーションを拡充しているといっても、簡易型充電ステーションも数に入れられている。これは充電設備が1台分あるいは2台分しかないものだ。これを利用しようと思ったら、すでに別の人が使っていて、充電が終わるのを待たなければならないということもあり得る。

消費者問題を取り上げるテレビ番組「315晩会」では、充電ステーションの問題を取り上げ、故障していることが多く、修理もすぐには行われていないという問題を取り上げていた。高速道路の充電ステーションが故障をしていたら、立ち往生してしまう可能性がある。

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▲高速道路のサービスエリアの4カ所に1カ所は、EV用の充電施設を設けなければならないことになっている。これは平均すると200kmに1カ所になり、航続距離が短いEVでは200kmを走りきることができない。

 

バッテリー寿命の詳細データが公開されていない

さらに、備胎説車は生命の危険をも指摘する。EVが交通事故を起こした場合、バッテリーが発火し、爆発をする危険性まである。2018年の前半で、すでに高速道路乗で追突事故を起こし、発火爆発まで至ったケースが2件起きている。

また、バッテリー寿命に関してもメーカーは正確な情報を消費者に公開していない。長寿命バッテリーだといっても、バッテリーの劣化によって航続距離が短くなっていくので、5年ほどで交換しなければならないのであれば、ガソリン車よりもかなり高くついてしまうことになる。

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▲EVが事故を起こすと、発火、爆発をするというニュースが大きく報道されている。しかし、構造としてEVだから危険度が高いということはなく、単なるバッテリーの安全対策がまだレベルに達していないだけ。

 

EVはあくまでも短距離の街乗り専用

備胎説車は、EVにも数多くの利点があって、都市内の移動には適しているが、このようなリスクを知り、高速道路には乗ってはいけないと警告している。

読者コメントを読むと、備胎説車の主張に賛同して、「EVは詐欺」と発言する人もいるが、一方で、「高速道路の充電ステーションはよく整備されていて故障率は低い」「発火事故は起きているのものの稀な現象」というコメントもある。また、多くの人が「新エネルギー車に関してはトヨタかホンダを買うのが安心」ともコメントしている。

中国のEVシフトはまだ始まったばかり。国内メーカーの品質がまだ一定レベルに達していないEVも市場に出回っている。

いつもながら、中国はこうした騒動を経て、前に進んでいくことになる。