中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

若者たちは会社ではなく店舗を目指す。スタートアップ店舗のインキュベーター、北京市の郎園station

コロナ禍で大学生活に大きな制限を受けた00后が卒業の時期を迎え、社会に出始めている。00后は大手企業や起業よりも、自分の店舗を持つことを目指す傾向が強くなっていると言われる。倉庫街の跡地である郎園stationには、このような店舗が集まり、店舗のインキュベーターとして機能するようになっていると北京日報が報じた。

 

店舗運営を目指す若者たち

00后(2000年以降生まれ)が大学を卒業し、社会に出る時期になってきている。Z世代は95年以降生まれなので、00后はニューZ世代のような位置付けだ。しかし、Z世代と大きく違うのは、大学生活の多くの時間がコロナ禍であったことだ。授業の多くはオンラインになり、企業インターンなどの機会も大きく減り、大学で友人をつくる機会も大きく減った。多くの学生が孤独感と戦いながら、大学を卒業した。

その中で、起業の指向性が大きく変わったと言われる。従来の起業は、今までになかったテック開発やビジネス開発を行い、会社を興すというものだった。経営、開発、経理(資金調達)という3人が最低でも必要になる。

それが00后では、店舗経営を目指す人が増えている。1人でも起業が可能で、何よりも自分の好きなものを扱える。カフェを目指す人もいれば、大人玩具店を目指す人もいれば、自分でつくる工芸品を売ることを目指す人もいる。株式公開をするというような大きな経済的な成功はなかなか難しいが、一生、自分の好きなものに囲まれて生きる人生的な成功を目指す人が増えている。


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▲郎園stationにあるユニークな店舗を取材したウェブメディア

▲レンガ倉庫を利用したカフェ。このようなSNS映えする店舗が並んでいる。

店舗+SNS=網紅店のインキュベーター「郎園station」

と言っても、ただ店を開いただけではうまくいくはずもない。SNSの活用はもはや常識だ。店舗を開き、商品などをSNSで発信し、店舗販売とECの販売の両立を目指す「網紅店」(ワンホン店=ネットで話題の店舗)をつくろうとしている。

このような網紅店のインキュベーターが、北京東北五環にある郎園(ランユエン)stationだ。ここは古いレンガ倉庫街で、地下鉄の駅も遠く、近くに住宅地はほとんどない。ネット民たちからは、雰囲気がいいと、撮影場所やライブ配信の場所として好まれていた。ここに店舗系起業を目指す若者を育てるインキュベーターがある。

▲郎園stationにはユニークな店舗が集まるようになり、店舗のインキュベーターとして機能をしている。

 

旧倉庫街にカフェや生花店

郎園stationは、元は国営の北京紡績倉庫だった。30棟のレンガ倉庫が並び、荷物を運ぶ2.23kmの鉄道のレールも残っている。現在は、倉庫を利用してカフェ、レストラン、生花店などが入り、週末になると観光客もやってくるようになった。

しかし、交通が不便であるために、観光客は多くなく、開発のためを投資をしようという企業もなかなか現れなかった。ところが、北京市朝陽区政府が、三里屯(サンリードゥン)の再開発に成功をし、その次のCBD(中央商業区、Central Business District)として開発を始めるようになってから、にわかに注目をされるようになった。

特に、2019年にここで「一帯一路国際グルメ文化祭」が開催され、3日で2万人が訪れるという成功をして、知名度があがった。それ以来、毎年300件程度のイベントが開催されるようになっている。

▲ガソリンスタンドを模したハンバーガー店「Station Grill」。

▲女性向けの服飾品店「Power Girl Style」。

▲キャンプ用品の店「Yep!」。カフェも併設されていて、テントの中でコーヒーを楽しむこともできる。

▲倉庫時代の引き込み線線路も残されていて、散策を楽しむことができる。

 

SNS映えする店舗が並ぶ倉庫街

それ以来、不思議な店舗が集まるようになっている。まるでガソリンスタンドのようにしか見えないハンバーガー店、城壁をピンクに塗ったセレクトショップ、モロッコ風のカフェなど、外観がそもそも写真を撮ってSNSにあげたくなる「映える」ものになっている。

大量生産品であれば、もはや店舗に買いに行く人はいない。ECで購入をしてしまう。これにより、実店舗は大きな打撃を受けることになった。しかし、商品に個性があり、店舗にも個性があれば、人は足を運んでくれる。

郎園stationでは、店舗向け賃貸契約をすでに100人程度と契約をし、50店舗以上が既に開店をしている。店主の多くが、90后か00后だ。また、デザイナーの入居も多く、建築、家具、インテリアなどのデザイナーのアトリエが20ほどあり、デザイン基地としての顔を持つようになっている。

このような感度の高い場所で、店舗として成功できれば、支店を出してもやっていくことができる。郎園stationに店舗を出したいと考える若者が増え、ここが店舗起業のインキュベーターとして機能するようになっている。

 

 

勢いのある種草ECに対抗するタオバオ。電子透かしを活用したユニークな独自手法を確立

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今回は、淘宝網タオバオ)の種草対抗策についてご紹介します。

 

タオバオは、アリババが運営するオーソドックスな検索型ECで、欲しい商品名を入力して、商品を検索し、価格や性能などを比較して、商品購入ページから購入をするというECです。

しかし、2010年頃から中国ではニュータイプのECが続々と登場しています。ひとつはピンドードーです。同じ商品を購入する人をSNSで探して、たくさんの人が同じ商品を買うようにすると、価格がどんどん割引されていくという仕組みで、ソーシャルECなどとも呼ばれます。

さらに2019年あたりから大きな存在になってきたのが、種草系ECです。種草(ジョンツァオ)については「vol.129:SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か」でご紹介しましたが、これがうまく消費者の心をつかみ、SNS「小紅書」(シャオホンシュー、RED)はECとしても大きな存在になってきました。さらに、ショートムービー「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)も種草の仕組みを導入することで、大きな売上をあげるようになりました。

 

このような新興ECにタオバオや京東(ジンドン)のような伝統的なECが押されて、苦しい立場に追い込まれています。この辺りの事情は、「vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網」でご紹介しています。

しかし、さすがとしか言いようがありませんが、タオバオの逆襲が始まっています。このアリババ包囲網をひっくり返すほどのポテンシャルはありませんが、しぶとく抵抗をしているのです。その抵抗ぶりが、日本のECでも参考になる部分が多いため、今回は、このタオバオがどんな抵抗をしているのかをご紹介します。

 

その前に、まず「種草」とは何かを簡単に復習しておきましょう。

今、日本でも、YouTubeやインスタグラムで、さまざまな商品が紹介されています。見ていて、その商品が欲しいなと思うことも多いでしょう。その場合、商品名などを記憶して、アマゾンや楽天というECで検索をして探してみるというのが一般的だと思います。

しかし、服などの商品名や型番がはっきりしないものは探すのもたいへんで、似たものは見つかるかもしれませんが、紹介された商品そのものずばりは見つからないかもしれません。そこで、YouTubeの場合は、アマゾンや楽天のリンクを動画の説明欄に記載しているものもあります。また、インスタグラムの場合は、ECの商品ページへのリンクを記事につけることができます。

このようなリンクはアフィリエイトリンクになっていて、EC側ではどの投稿主からの流入であるかがわかる仕組みになっているため、投稿主には規定のアフィリエイト手数料が支払われます。

しかし、このリンク方式の問題点は、リンクをクリックすると、SNSとは異なる外部サイトが表示されるという点です。ランディングページがブログなどへの誘導であれば問題が起きることはありませんが、ECの購入ページなどでは問題が生じることがあり得ます。一定の割合で、返品、返金などの問い合わせ、商品へのクレームなどが発生しますが、多くの消費者がそのSNSに責任があると考えてしまいます。

仕組みがわかっていないと言えば確かにそうなのですが、消費者から見れば、SNSの中にいるつもりで購入をしてしまうことも多いのですから、SNSが知らんぷりというわけにはいきません。

そのため、例えば動画や記事をタップしたらすぐにランディングページが表示された方が便利でスムースなのですが、SNSとしては「リンクをしたら外部ページに飛ぶ」ということを明確にしておく必要があります。また、飛んだ先がECの商品ページであった場合は、そのECにログインをしなければ購入などはできません。

 

つまり、リンクで商品詳細ページに誘導をするといっても、ハードルをつくらざるを得ず、そのハードルにあたるたびに購入をあきらめてしまう離脱する人が生まれることになり、購入意欲のある人を効率よく購入に結びつけることが難しくなっています。

種草はこれを解決する仕組みで、SNS「小紅書」が始め、抖音、快手などのショートムービーが取り入れました。種草とは「作物を植える」という意味です。

写真、動画などの記事に小さなアイコンのような商品タグが表示されます。その記事で紹介されている商品に興味がある人は、商品タグをタップすると、商品詳細ページがポップアップ表示されて、そのまま購入までできるというものです。

現在、小紅書、抖音、快手ともに販売されている商品は、それぞれがEC機能を持ち、その商品を販売しているため、外部サイトに飛ぶということはありません。記事から商品タグ、商品詳細ページと滑らかに接続することで、商品に興味を持った消費者を効率よく購入に結びつけることができます。

 

小紅書で販売されている商品には3種類ありました(過去形を使うのは、現在は2種類に絞られているからです)。

1つは、自社仕入れ、自社販売の商品です。小紅書では主に海外製品を輸入して、中国国内の倉庫に保管をし、これを販売しています。小紅書の利用者で、種草収入を得たい利用者は、このような商品の中から自分で販売できそうな商品を選び、それに見合った記事を作成し、商品タグを入れて投稿します。この記事を読んで商品を買う人が出るたびに、一定割合の紹介料がもらえるというものです。

2つ目は、メーカー、ブランドが小紅書のアカウントをつくり、自社製品を販売するというものです。規模により1万元から50万元の出店料を支払う必要があり、なおかつ、月商1万元を超えた部分について5%の手数料が徴収されます。メーカー、ブランドは自社で記事を作成する、あるいは小紅書の投稿主に種草を依頼する形で記事を作成し、種草の場合は、その投稿主に規程の手数料を支払います。

3つ目が、タオバオなどの外部ECの商品です。販売業者が直接、あるいは投稿主に依頼をして、外部ECの商品のタグを埋め込み、先の2つの商品と同じようにポップアップされる商品詳細ページから購入することができます。

 

ところが、小紅書としては、外部のタオバオの商品を購入してもらうより、小紅書の内部の商品を買ってもらった方がいいわけです。そこで、小紅書だけでなく、抖音、快手も当初は外部ECの商品を購入できる仕組みにしていたのに、手のひらを返すように外部ECからの商品リンクを遮断するようになってきています。

これはタオバオの販売業者にとっては、販売チャンネルが減るという困った事態になります。そこで、タオバオはこのような販売業者を救うために、さまざまな対策を打ち出しています。

今回は、タオバオがリンク遮断に対して、どのような対策をしているのかをご紹介します。

 

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特集・鉄道改札のテクノロジー

 

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奇妙な流行ーークラウド自習室。自分を中継する理由は「孤独に押し潰れそうになる」

大学生の間で奇妙な習慣が流行している。クラウド自習室だ。ただ自分が自習する姿を共有し合うだけで話をするわけではない。コロナ禍で孤独を強いられた大学生たちが、自分の精神を守るためにしている。この他にも、誰かとつながりたいという理由で、自分の生活を中継する人が増えていると銭江晩報・小時新聞が報じた。

 

奇妙な流行「クラウド自習室」

中国の大学生の間で不思議な習慣が静かに広がっている。クラウド自習室だ。アリババの釘釘(ディンディン)やテンセントミーティングなどのビデオ会議システムは、学生の間でも身近なツールになっている。これを利用して、場合によっては数万人規模の学生がひとつの会議室に入り、自習をするというものだ。

誰もおしゃべりをしたり、発言をしたりする人はいない。ただ静かにそれぞれが自習をしている。画面では膨大な数の学生が自習をしている姿が映し出されるだけだ。その奇妙なクラウド自習室が広がっている。

クラウド自習室は、テンセントミーティングを使って行い、その画面はビリビリでライブ配信される。話をする人はいない。みな静かに勉強している。

 

ある大学生が始めたクラウド自習室

このクラウド自習室を2019年に始めた星伊さんは、当初、自宅などで、学習系のライブ配信を聴きながら自習をしていた。しかし、ライブ配信の内容と自分の自習の内容が異なるため、集中ができない。しかし、ライブ配信を切ってしまうと、孤独に自習をしていることに心が潰されそうになる。

だったら、同じように自習をしている人を集めて、ビデオ会議システムを使って、みんなで一緒に自習をすればいいのではないかと思いついた。そこで、ビリビリを使って参加者を募集し、テンセントミーティングを使ってみんなで自習をし、その様子をビリビリのライブ配信で流すようにした。

一応のルールはある。話してはいけないなど自習室と同じルールを設定した。さらに、時間割をつくり、自習時間と休み時間を設けるようにした。これが受け、現在、星伊さんのビリビリのファンは10万人を超えている。自習は一人でやるものだけど、寂しくならないからだ。

▲星伊さんが始めたクラウド自習室。話をするわけではなく、黙々と自習するだけだが、誰かと一緒に自習することが安心できるという。

 

誰かとつながりたい。自分を中継する人々

星伊さんは、このクラウド自習室から収入を得ていない。利用料を取ることもしないし、投げ銭をしてもらうこともしない。自分が寂しいからクラウド自習室をつくり、それが大規模になってきてしまった。

近年、このような不思議なライブ配信が増えている。映画やテレビドラマなどで、権利者がライブ配信で流すことを許可しているコンテンツがある。これをただ放映して、フレームウィンドウの中に配信者の顔が写っているが、放送実況のように何かを解説するわけではない。ただ、黙って見ている。

もっと極端なのは、一人で食事をしているライブ配信だ。ただ、黙って食事をしているだけで、視聴者に何かを語りかけるわけではない。自分の生活の一部をライブ配信しているのだ。それでも数百名の視聴者がついているが、視聴者側も一緒に食事をしている(と思われる)。投げ銭などが目的ではなく、一人で映画を見たり、一人で食事をするのは寂しいから、誰かと一緒に感覚を得たい。そういう理由から、このようなライブ配信が行われている。

このようなライブ配信では、音声やチャットを使ったコミュニケーションもきわめてまれだ。それでも顔を見合わせることで、安心感を得ている。それだけ孤独感が強くなっているということだ。

 

 

車に乗った若者が集まる夜市「カーブートセール」。自然発生的に生まれた新たな流行が各都市に飛び火

今年2022年の夏頃から、各都市に不思議な夜市が現れ始めている。ショッピングモールなどの駐車場を借りて、車のトランクに商品を乗せ、そのまま車を店舗にしてしまうトランク市だ。若者の新しい遊び場として、SNSを通じて各都市に広がっていると思客が報じた。

 

車を店にするカーブートセール

この夏、大都市の駐車場に、車でやってくる夜市が突如として出現した。マイカーのトランクに商品を乗せ、それを駐車場で、簡単な店舗にし、夜店のように販売をする。SNSで紹介されると、各都市に飛び火をし、今では、毎日どこかの大型駐車場でこのような夜市が開かれるようになり、「トランク経済」と呼ばれるようになっている。

元は英国などで習慣となっているカーブートセールだ。引っ越しなどの時に不用品を車のトランクを開けた状態で並べ、通りかかる人が好きなものを買っていく。ガレージセールと同じ感覚だ。

▲販売されるものは、コーヒー、お茶、酒などの飲料が多い。

▲トランク市は、販売する商品を車のトランクに積んで、そのまま店舗にしてしまう夜市。

 

DJ、コスプレ、高級車。イベント感覚の夜市

中国のこの現象は「自動車トランク市」「網紅夜市」などと呼ばれる。販売されているものはコーヒー、ミルクティー、酒などの飲料が多く、その他玩具、衣類、テーマパークのチケットなどもある。フリーマーケットそのものだが、すぐにファッション化をし、DJが登場し音楽を流し、コスプレをする人も現れ、マーケットというよりもイベントに近い状況になっている。

また、一般にはバンやマイカーが使われるが、ランボルギーニなどの高級車や話題になっている五菱の宏光MINI EVで店を出す人もいる。場所によって、それぞれの特色が出始めていて、若者は夜になると、あちこちの夜市に行って夜を楽しむようになっている。

▲DJ機器を持ち込む人も現れ、夜市というより、イベント会場のようになりつつある。

▲トランク市からライブ配信をする人もたくさん登場している。

 

コロナ禍による失業状況から生まれたトランク市

このような夜市で、最も大きな組織は「INSO自動車トランク市」だ。北京市朝陽区にあるサプライズアウトレットの広場で、土曜の夜6時から深夜まで開いたのが始まりだ。

INSOとは「国際破産者従業員協会」(International No money Staff Organization)の略。半ば冗談で、半ば本気の命名だ。コロナ禍が長引き、飲食店の従業員を始めとして、多くの若者が職を失い、職を得たとしても不安定な状況に置かれている。このような人たちに少しでも経済的な足しになればと、夜市を始めたのがINSOという組織だ。

適当な場所を見つけ、管理者と交渉。200元から300元の出店料を取り、車で出店し、稼いでもらおうというものだ。もちろん、市政府の営業許可証を取得し、出店時には新型コロナの陰性証明が必要になる。それでも、近年、規制が厳しくなっている路上の露店よりも出店しやすいということから多くの若者が集まり始めた。

▲始まりは、北京で開催された「INSO自動車トランク市」。コロナ禍で失業した若者を支援するということが目的だった。

SNS「小紅書」などでは、トランク市の写真や映像が人気となり、これを見て、トランク市はさまざまな都市に広がっている。

 

新型コロナが生んだ都市の新しい風景

と言っても、販売しているものが単価の安いものが多いため、儲かるのかというと現実は厳しい。当初は週末だけの出店で月収1万元超えということが話題になったが、なかなか難しく、現実には1日の売り上げが大半の店では200元から300元で、500元を越す店舗はごくわずかだという。出店料を払い、原価を考えると、黒字にすることすら簡単ではない。

それでも、多くの若者が出店をし、多くの若者が集まってくる。もはや商売というより、交流の場になっている。同じ環境に置かれた若者が集まり、音楽を楽しみ、コーヒーや酒を飲みながら夜をゆっくりとすごす。それが楽しみで、週末の夜には市内のあちこちに車と人が集まってくる。その様子がSNSで拡散をし、他都市にも広がっている。コロナ禍の都市に新しい風景が生まれた。

 

 

若年層失業率が過去最高の19.3%。これは摩擦的失業なのか構造的失業なのか、意見が分かれる専門家の見方

16歳から24歳の失業率が19.3%と過去最高になった。国家統計局は、これは摩擦的失業によるもので時間とともに解消されるとした。しかし、専門家の中には構造的失業であり長期化をするのではないかと見る人もいると中国網が報じた。

 

話題になった摩擦的失業という言葉

「摩擦的失業」という言葉が新語として広まっている。経済学では古くから使われる専門用語だが、国家統計局のスポークスマンが「摩擦的失業」という言葉を使ったため、広く一般にも知られることになった。

失業は、その要因から3つに分類される。

1)需要不足失業

経済の先行き不安から、生産が落ち、労働への需要が減少した時に起こる失業で、いわゆる不景気によるもの。企業は賃金を下げようとし、労働者は賃金が低いのであれば働くのをやめようと考え、失業率が上昇をしていく。

2)構造的失業

企業が労働者に求める技能や学歴、年齢、勤務地などの特性が、労働者の特性とミスマッチが起きることによる失業。製造業では失業が起きているのに、介護では人手不足が起きているような状態。

3)摩擦的失業

労働者が就職や転職をするための職探しをする期間による失業。

▲国家統計局は「摩擦的失業」という言葉を使って、若年層の高い失業率は一時的なものだと解説したが、専門家からは異論も出ている。

 

若年層の失業率は19.3%

2022年上半期の16歳から24歳までの若年層の失業率が19.3%にも達した。記者からその要因を尋ねられた国家統計局の広報の付凌暉氏が、「摩擦的失業」という言葉を使って、若年層の就職意欲は高く、労働市場に初めて参入する若年層には普遍的に見られる現象だと説明した。

現在は、新型コロナの感染再拡大により、企業の採用能力が低下をしており、同時に大学卒業生が過去最高を更新するほど多かったことにより、摩擦的失業が起きていると説明した。

つまり、あくまでも一時的な現象であり、コロナ禍の状況が正常化されれば、いずれ解消する問題だと説明したかったようだ。

 

摩擦的失業暦10ヶ月の崔静さん

崔静さんは、「摩擦的失業」状態がすでに10ヶ月続いている。2021年に前職を辞めた時、崔静さんは生きるペースをゆっくりにすることを決断した。

崔静さんはある雑誌社で働いていた。仕事のペースは早く、ストレスも大きい。頭の中は常に張り詰めていたが、糸が切れてしまうことすら許されない。それに疲れて、衝動的に退職してしまった。

辞職をしてから、2つのことを始めた。ひとつは就職活動で、もうひとつは英語の学習だ。銀行口座の残高を見て、出費を抑えることもした。服を買う回数を減らし、タクシーには乗らずバスや地下鉄を使う。さらに、フリーライターとして仕事をし、カフェやコンビニでも働いて生活費を稼ぐようにした。

 

履歴書に空白期間が生まれることが不安

経済問題はなんとかなりそうだが、心配をしているのは、労働市場に復帰をするとき、履歴書上はこの今の期間が空白になってしまうことだ。自分としては、自分の将来を考え直す期間を持つことはいいことだと思っているが、企業はなかなか理解をしてくれない。

同様の摩擦的失業状態の人は多いが、多くの人が、キャリアを考えて、納得のいかない職でも就いてしまい、再びストレスにさらされるということを繰り返してしまう。

崔静さんでさえ、この摩擦的失業期間に20通以上の履歴書を企業に送っている。しかし、それは同様の状態の人からすれば、とても少ない。

辞職をして3ヶ月が経つと、「今後、職を見つけることができなくなってしまうのではないか」という不安に襲われて、積極的に就職活動を始めたが、そこに新型コロナの感染再拡大が起きた。就職をしてもいいと思える企業が見つかり、面接も順調に進んだが、最終的には、新型コロナの感染再拡大により、採用を見合わせるということになってしまった。

▲求職者の合同説明会は、どこも多くの人が殺到する。一部の職業に殺到をするため、高い競争率の職業と人手不足の職業に二極化をしている。

 

辞職後は就職活動が仕事になる

3ヶ月間、摩擦的失業期間を過ごした趙晗さんは、新しい仕事を見つけることができ、ほっとしている。

前職は教育産業だが、1年勤めて辞職をした。入社して半年ほど経った時、機械のように毎日同じことを繰り返すことに疲れてしまった。2021年に双減政策(宿題量の制限と補習ビジネスの禁止)により、教育産業は大きな打撃を受けた。さらに、新型コロナの感染再拡大もあり、会社の前途は暗いものになってしまった。会社もリストラを進めており、それで趙晗さんは辞職をした。

辞職をしてしばらくは気持ちも晴れやかだったが、1ヶ月ともたなかった。すぐに「仕事を探さなければ」という焦る気持ちが支配的になった。それが新たな仕事であるかのように、履歴書を書いて、企業に送る。午前中に10通以上の履歴書を送り、午後は面接に行く。しかし、企業が認めてくれても自分が満足できず、自分が満足できる企業は向こうが採用してくれないということが続いた。

就職サイトを見ると、「納得のいく仕事を見つけるまでに送った履歴書の数は数百通以上」という話があり、自分はまだ努力が足りないと焦り始める。「摩擦性失業」に関連をした報道を見ながら、自分は高望みをしすぎなのだろうかと不安に感じ始めている。

 

摩擦的失業は短期間で解消される?

浙江大学国際連合商学院のデジタル経済・金融イノベーション研究センターの盤和林主任によると、摩擦的失業は構造的失業とは異なり、持続時間は短めで一時的なものだと解説した。

16歳から24歳までの失業率は19.3%と高いもので、前期よりも0.9%ポイント上昇し、2018年からこの統計を取り始めてから過去最高となった。しかし、全体の失業率から13.8%ポイントも高く、この世代特有の失業、つまり摩擦的失業と見做すのに合理性があると解説した。

 

構造的失業なのではないかという批判も

中国政策科学研究会の経済政策委員会の徐洪副主任は、摩擦性失業という言葉に懐疑的で、大卒世代に構造的失業が起きているのではないかと考えている。労働市場が要求するスキルが高すぎ、提供する報酬や条件が低すぎ、大卒生が持っているスキルや希望する条件と合っていない。摩擦的失業と構造的失業が同時に起きていると考えるべきではないかという。

この時代状況では、多くの大卒生が安定した職業を求める。具体的には教師か国営企業の人気が高まっている。多くの大卒生が同様に考えるため、競争は熾烈になっていて、多くの大卒生が希望する職業に就くことができないままにいる。

現在の若年層失業率19.3%が、摩擦的失業なのか構造的失業なのか、あるいは両者の複合型なのかは、時間が経ってみないとはっきりとはしない。しかし、教科書に出ている摩擦的失業よりは長期化する可能性は高いと考えざるを得なくなっている。

 

 

火鍋も回る時代。高級化路線が進みすぎた火鍋の新しいスタイルーー回転火鍋

回転火鍋店が急速に増えている。火鍋が人気になり高級化が進み始め、高級火鍋の客離れが起き始めている。その代わりに登場してきたのが回転火鍋店だ。安くて満足感のある火鍋が戻ってきたと人気になっていると胡華成が報じた。

 

コロナ禍で苦境に立たされる火鍋チェーン「海底撈」

火鍋チェーンで最も有名な「海底撈」(ハイディーラオ)が苦境に立たされている。2022年中期報告によると、2020年上半期の営業収入は167.64億元となり、昨年同時期から16.6%の減少。損失は2.67億元、昨年同時期は利益が0.97億元だった。

この業績は、投資家の予想よりも悪いものだった。昨2021年、海底撈はキツツキ計画を発表した。昨年6月末時点で1597店舗を展開していたが、300店舗規模の出店調整を進め、2022年は黒字を維持するというものだった。

飲食店として火鍋は非常に扱いやすい料理だ。なぜなら、来店客が自分で調理をするため、調理師の技術に頼る部分が少ない。さまざまな食材が利用できるため、新しい具材を提供することで新鮮さを維持することができる。スープとタレの味さえ受け入れられれば、新規出店も楽であるため、急成長をすることができる。

このような理由から、海底撈の成功を見て、さまざまな火鍋チェーンが登場し、成功をしてきた。

▲火鍋は本来庶民的な食べ物で、安くて満足できるというのが長所だった。しかし、チェーン化がされていくと高級化が始まり、コロナ禍の値上げで、客離れが起き始めている。

 

火鍋チェーンの課題は初期コスト

しかし、それがコロナ禍により、火鍋店のデメリットが見えてくるようになった。

最大の問題は、家賃が高いことだ。火鍋店は人流の多い繁華街、ショッピングモールなどに出店をする必要がある。店舗面積も広くする必要があり、少なくても200平米、1000平米近い大型店も珍しくない。年間の家賃は50万元(約1000万円)ほどになる。

2つ目の問題は、インテリアにお金がかかることだ。火鍋は単なる食事ではなく、家族や友人でやってきて食事を楽しむ場所だ。そのため、雰囲気のいい店が選ばれる。豪華にするかモダンにするかは火鍋店の戦略次第だが、差別化をするために、内装インテリアが重要になっている。このような内装に100万元(約2000万円)程度をかけるのは常識になっている。

この他、チェーンへの加盟費用など、火鍋店は意外に初期コストがかかる。

 

差別化が難しい料理

3つ目の問題は差別化が難しいことだ。各火鍋店は、スープやタレの味に特徴を出し、他店にはない具材を提供しようとする。しかし、基本的にはさまざまな具材を辛いタレで食べるというもので、差別化ポイントが消費者の記憶に残りづらい。火鍋と言えば、どこでも味は大差ないという感覚になってしまっている。

この問題を解決するために、海底撈は接客とタレの自由を提供した。異常とも言える親切接客ぶりで来店客の記憶に残り、タレは各種用意し、自分の好きな味にブレンドできる。海底撈は、普通の火鍋チェーンとは違う、普通の飲食店とは違うというイメージにより成功をした。

▲差別化がしづらい火鍋で、海底撈は接客で差別化を図って成功した。店内になぜか無料の靴磨きやネイルサロンがある。

 

安くて満足の火鍋も値上げへ

コロナ禍の打撃を受け、海底撈を始めとする火鍋チェーンは値上げをせざるを得なくなっている。以前は火鍋と言えば、1人70元程度で食べられる気軽な食事で、それでいながら満足感が大きいというのが魅力だった。しかし、値上げが続き、今では100元以内で食べられる火鍋チェーンはほとんどなくなってしまった。

さらに、提供する具材の価格は据え置き、量を少なくしているチェーンも増えている。お腹をいっぱいにしたい人は、2人前を注文することになり、これがさらに火鍋が高いものに感じさせるようになっている。現在は、20代、30代の量を食べたい人にとっては、火鍋は150元から200元程度かかる食べ物になっている。

高級料理の価格帯ではないものの、少し贅沢な食事になる。その少し贅沢な食事では、他にもさまざまな料理があり、火鍋の競合は一気に多くなる。

 

新たな勢力、回転火鍋店

このような火鍋の苦境を解決するために、現在、急速に増えてきているのが「回転火鍋店」だ。日本の回転寿司と同じように、カウンターがあり、回転するレーンが備えられている。カウンターにはIH調理器がついていて、そこで鍋を温め、回転してくる食材から好きなものをとって、自分で煮て食べる。

価格や提供形態は店によって異なるが、串に刺さった食材が2元、3元程度で、会計時に串の本数を数えて精算をする。あるいは40元で基本食材は食べ放題などというコースを用意している店もある。量を食べる人でもだいたい60元ぐらいで収まるような価格帯だ。

店舗側から見ると、カウンター方式であるため、広い店舗は不要になる。回転レーンの初期投資が必要になるが、回転レーン自体が現在では物珍しく目を惹くため、その他の内装インテリアにかける費用は抑えられるため、初期コスト増にはならない。

▲典型的な回転火鍋。カウンター席のみで、好きな食材をとって食べる。会計時に串の本数を数えて精算する。安くて満足感のある火鍋が戻ってきたと人気になっている。

 

火鍋の原点回帰にもなっている回転火鍋

調理師も不要で、店舗スタッフも削減でき、人件費が大きく削れる。さらに、そもそも火鍋に求められていた「安あがりで満足ができる」食事を提供できる。コロナ禍が完全に終息しない現在、4人以上で食事に行き、テーブルを挟んで語り合うという食事の仕方は減り、1人か2人で静かに食事をして早めに帰るというスタイルが定着しようとしている。

本来、火鍋は庶民的な食べ物で、それが普及をするにつれ、高級化をしていった。その高級化がいきすぎて、火鍋本来の魅力が失われようとしている。回転火鍋店は、この火鍋本来の魅力を取り戻してくれる存在であることから、今後、急速に増えていくと見られている。


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▲回転火鍋店は庶民の新しい飲食スタイルとして、若い世代から注目をされている。グルメ系の配信主による取材。19.6元で基本食材食べ放題の店。