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車に乗った若者が集まる夜市「カーブートセール」。自然発生的に生まれた新たな流行が各都市に飛び火

今年2022年の夏頃から、各都市に不思議な夜市が現れ始めている。ショッピングモールなどの駐車場を借りて、車のトランクに商品を乗せ、そのまま車を店舗にしてしまうトランク市だ。若者の新しい遊び場として、SNSを通じて各都市に広がっていると思客が報じた。

 

車を店にするカーブートセール

この夏、大都市の駐車場に、車でやってくる夜市が突如として出現した。マイカーのトランクに商品を乗せ、それを駐車場で、簡単な店舗にし、夜店のように販売をする。SNSで紹介されると、各都市に飛び火をし、今では、毎日どこかの大型駐車場でこのような夜市が開かれるようになり、「トランク経済」と呼ばれるようになっている。

元は英国などで習慣となっているカーブートセールだ。引っ越しなどの時に不用品を車のトランクを開けた状態で並べ、通りかかる人が好きなものを買っていく。ガレージセールと同じ感覚だ。

▲販売されるものは、コーヒー、お茶、酒などの飲料が多い。

▲トランク市は、販売する商品を車のトランクに積んで、そのまま店舗にしてしまう夜市。

 

DJ、コスプレ、高級車。イベント感覚の夜市

中国のこの現象は「自動車トランク市」「網紅夜市」などと呼ばれる。販売されているものはコーヒー、ミルクティー、酒などの飲料が多く、その他玩具、衣類、テーマパークのチケットなどもある。フリーマーケットそのものだが、すぐにファッション化をし、DJが登場し音楽を流し、コスプレをする人も現れ、マーケットというよりもイベントに近い状況になっている。

また、一般にはバンやマイカーが使われるが、ランボルギーニなどの高級車や話題になっている五菱の宏光MINI EVで店を出す人もいる。場所によって、それぞれの特色が出始めていて、若者は夜になると、あちこちの夜市に行って夜を楽しむようになっている。

▲DJ機器を持ち込む人も現れ、夜市というより、イベント会場のようになりつつある。

▲トランク市からライブ配信をする人もたくさん登場している。

 

コロナ禍による失業状況から生まれたトランク市

このような夜市で、最も大きな組織は「INSO自動車トランク市」だ。北京市朝陽区にあるサプライズアウトレットの広場で、土曜の夜6時から深夜まで開いたのが始まりだ。

INSOとは「国際破産者従業員協会」(International No money Staff Organization)の略。半ば冗談で、半ば本気の命名だ。コロナ禍が長引き、飲食店の従業員を始めとして、多くの若者が職を失い、職を得たとしても不安定な状況に置かれている。このような人たちに少しでも経済的な足しになればと、夜市を始めたのがINSOという組織だ。

適当な場所を見つけ、管理者と交渉。200元から300元の出店料を取り、車で出店し、稼いでもらおうというものだ。もちろん、市政府の営業許可証を取得し、出店時には新型コロナの陰性証明が必要になる。それでも、近年、規制が厳しくなっている路上の露店よりも出店しやすいということから多くの若者が集まり始めた。

▲始まりは、北京で開催された「INSO自動車トランク市」。コロナ禍で失業した若者を支援するということが目的だった。

SNS「小紅書」などでは、トランク市の写真や映像が人気となり、これを見て、トランク市はさまざまな都市に広がっている。

 

新型コロナが生んだ都市の新しい風景

と言っても、販売しているものが単価の安いものが多いため、儲かるのかというと現実は厳しい。当初は週末だけの出店で月収1万元超えということが話題になったが、なかなか難しく、現実には1日の売り上げが大半の店では200元から300元で、500元を越す店舗はごくわずかだという。出店料を払い、原価を考えると、黒字にすることすら簡単ではない。

それでも、多くの若者が出店をし、多くの若者が集まってくる。もはや商売というより、交流の場になっている。同じ環境に置かれた若者が集まり、音楽を楽しみ、コーヒーや酒を飲みながら夜をゆっくりとすごす。それが楽しみで、週末の夜には市内のあちこちに車と人が集まってくる。その様子がSNSで拡散をし、他都市にも広がっている。コロナ禍の都市に新しい風景が生まれた。