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60歳以上の優待乗車を顔認証乗車にした深圳地下鉄

深圳地下鉄では、60歳以上などの優待乗車に顔認証改札を導入した。従来は、有人改札を使い、身分証を見せ、自分が優待乗車の対象であることを証明しなければならなかった。顔認証改札にしたことで、利用者は身分証がなくても地下鉄に乗ることができ、深圳地下鉄では優待乗車改札を無人化することができると北京青年報が報じた。

 

利便性は高いものの、処理時間はSuicaの10倍

地下鉄の改札に顔認証が各都市で導入されている。乗客にとっては、切符や交通カード、スマートフォンが不要になるという利便性が得られる。運営側にとっては、交通カードの発行コストやQR/NFC乗車アプリの開発コストが軽減でき、切符の自動販売機やチャージ機の台数を減らすことができるというメリットが得られる。

しかし、問題は、顔認証は処理時間がかかるということだ。カメラと顔の距離が一定範囲に収まることが必要なためと、もうひとつは、1:N認証(多数登録されている顔データから、該当顔データを探して認証をする)であるためだ。一般には、2秒程度かかるようだ。

日本のSuicaは処理時間が0.2秒とずば抜けて早く、それと比べると10倍もの処理時間が必要になる。

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▲顔認証だけでなく、静脈認証、従来の交通カードにも対応している。以前は、身分証を提示して、優待乗車の対象であることを確認する必要があったため、有人改札しか利用できなかった。事前登録制の生体認証を導入することで、優待乗車の改札を無人化することができる。

 

処理時間を感じさせない工夫が必要になる

そのため、顔認証をうまく運用するためには、利用者に処理時間を感じさせない工夫が必要になる。スーパーやコンビニなどのレジではうまく運用ができる。利用客がレジにくると、スタッフが商品のバーコードをスキャンしたり、袋に詰めるなどの作業が必要になる。この間に、顔認証を行えば、利用客にとっては、処理時間は限りなく0秒に近く感じられるようになる。

山東省済南市地下鉄では、顔認証改札へのガイドラインを路面にペイントし、数m手前からスポット光を照射し始め、顔認証を始める。このため、乗客が改札に到達する頃には処理が終わっていて、ほぼ0秒で、立ち止まることなく、改札を歩いて通過できるように工夫されている。

広東省広州市地下鉄では、荷物の安全検査と改札を同時に行うことで、乗客に処理時間の長さを感じさせない工夫をしている。また、乗客の改札までの歩き方の癖を使った動態認証を補助的に用い、あらかじめ検索範囲を絞りこむことで、顔認証処理時間を短縮させるアイディアもある。

顔認証というのは未来的ではあるが、改札のように認証のみ行うようなシチュエーションで運用をするには工夫が必要になる。レジやカウンターなど、認証以外の作業も同時並行で行われるような場での運用に向いている。

 

優待乗車を顔認証にした深圳地下鉄

広東省深圳市では、老人、障害者、退役軍人などの優待乗車に顔認証の利用を始めた。1:N認証であることは変わりないが、Nの母数が限定されるため、処理時間は0.3秒程度で済むという。テンセントと深圳地下鉄が共同開発をした。

従来から、60歳以上の老人、障害者、退役軍人は、地下鉄に無料または優待乗車ができたが、その場合は、改札端の詰所のある通路を使い、職員に身分証を見せる必要があった。身分証は、原則、常に携帯するように定められているが、実際は家に忘れてきたり、あるいは携帯をしていても、バッグのどこに入れたのか分からなくなり、なかなか出てこないこともある。また、外で出し入れをすれば、紛失のリスクも増える。

このようなことから、顔認証で無料乗車ができるようにした。身分証などは不要だ。

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▲顔認証の優待乗車を利用したい人は、事前に登録機で、自分の身分証、顔、指の静脈を登録しておく必要がある。

 

車椅子の人のために静脈認証にも対応

ただし、顔認証による無料乗車の優待を受けるには、事前に駅構内に置かれている自動登録機に、身分証をかざし、自分の顔と指の静脈を登録しておく必要がある。この登録を済ませば、顔認証または指先の静脈認証で専用改札を通過できるようになる。指先の静脈認証を併用するのは、車椅子を利用する人を考慮したためだ。車椅子利用者は、顔の位置が低くなるために、顔認証装置の撮影範囲から外れてしまうことがある。車椅子利用者だけでなく、誰でも顔認証と指静脈認証のいずれでも利用できるようになっている。

また、駅構内に自動登録機を設置したのは、60歳以上の人のスマホ利用率が高くないことを考慮したものだ。当初は、スマホで顔を登録する方向で開発が進んでいたが、老人と障害者のことを考慮し、自動登録機による登録方式を採用した。

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▲指の静脈認証にも対応したのは、車椅子の人が、顔の高さの関係で顔認証を使いづらいため。

 

まずは優待乗車から顔認証を導入

この顔認証改札と自動登録機は、深圳地下鉄11号線各駅に設置されている。11号線から乗り換えて、他駅で降りた場合は、従来と同じように身分証を見せて改札を通過する必要がある。しかし、深圳市地下鉄では、この優待乗車用の顔認証改札を全線全駅に拡大していく予定だ。