中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

iPhone Xは爆売れなのに、製造工場周辺では閑古鳥が鳴く不思議

iPhone Xの売行きが好調で、世界中で在庫不足になり、生産が追いつかない。製造をしているフォクスコン工場周辺はさぞかしiPhone X景気に湧いているかと思いきや、周辺の商店では閑古鳥が鳴いていると今日頭条が報じた。

 

全国から人が続々集まるiPhone

フォクスコンのiPhone製造工場がある河南省鄭州市の鄭州空港地区は、俗に「iPhone城」と呼ばれている。この「城」に続々と人が集まっている。なぜなら、あまりの人手不足のために、1人あたり1000元(約1万七千円)の奨励金がフォクスコンから支払われるからだ。人材斡旋業者には、あっせんした従業員が45日間以上働くと、4500元(約7万6000円)のインセンティブが支払われる。こうしたことから、iPhone城はiPhone X景気に湧いている。

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iPhone城には中国全土から次々と人が集まってくる。フォクスコンは今年、1人1000元の奨励金を出しているという。

 

周辺ホテルは閑古鳥が鳴く

ところが、周辺の商店では、iPhone X景気どころか、iPhone X不況に頭を悩ませているという。フォクスコン工場近くで、ホテルを経営する張雷氏は、こう語った。「ウチのホテルのお客さんは、ほとんどがフォクスコン関係者です。この2年は宿泊客が多く、経営も安定していました。今年は、これだけ多くの工員がフォクスコンに集まってきているので、思い切ってリフォームをしましたが、宿泊客の数はむしろ減少しています。経営は一気に苦しくなってしまいました」。

フォクスコンが、社員寮を大幅拡張したため、周辺のホテルを利用する人が激減しているのだという。

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▲周辺のホテル、カラオケ店は閑散としている。フォクスコンが宿舎を拡充したことと、残業が多すぎて誰も街に遊びに出ないからだ。

 

飲食街も人がまばら

周辺の飲食店も売上の低下に悩んでいる。昨年までは仕事が終わる夜になると、飲食店が賑わい、週末の夜は朝まで客がいたが、現在では閑散としている。あるフォクスコン従業員は言う。「毎日生産ノルマが設定されていて、それをこなすには長時間の残業をせざるを得ません。深夜に仕事が終わると、ヘトヘトに疲れていて、外に遊びにいく元気が残っていないのです」。

また、別の従業員は言う。「昨年までは残業の賃金が安かったのです。だから、バカバカしいと思って、残業をせずに遊びにいってしまう従業員も大勢いました。しかし、今年から残業代が相当額引き上げられました。だから、みんな喜んで残業をしています」。

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▲飲食街も人がまばら。工員は仕事が終わるとすぐに寝てしまうほど、仕事がきつくなっている。

学生まで働かされる非常事体制

毎日、数時間の残業をするのが日常になっているという。フォクスコンの人出不足は深刻なようで、学生の手まで借りる状態になっている。鄭州城軌交通中等専門学校の17歳から19歳の学生3000名が、フォクスコンに実習生として送り込まれた。3ヶ月間の実習研修をするためだ。

しかし、そのうちの6人が、「金融時報」に内部告発をした。1日1200個のiPhone X用カメラパーツを組み立てるノルマが課せられ、毎日11時間働かされている。研修とは関係のない仕事であるし、8時間以上の労働は法律に違反しているという内容だ。

この事実を「金融時報」が報道すると、アップルは「研修とは異なる作業を強制しているのであれば問題だが、この場合は学生たちが自ら希望して作業をしている」と回答した。フォクスコンも「作業内容は、すべて学生たちが自ら希望したもので問題はない。ただし、内規では週40時間以上の労働を禁じているので、労働時間に関しては至急対策をしたい」と回答した。

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▲組み立てラインで働かされる女子学生。本来は実習生なのだが、iPhone X景気によりラインに組み込まれた。

 

毎年繰り返されるフォクスコンの人出不足問題

フォクスコンの繁忙期は、8月から12月で、この期間、工員の数は平常時10万人であるものが30万人に増える。毎日、2万台のiPhoneを製造しなければならないという。今年は、iPhone Xの生産が追いつかないため、人出不足が課題になっている。

 

銀聯のQRコードスマホ決済が急追。スマホ決済は三国時代に

中国のスマホ決済と言えば、アリババとテンセントが強く、以前電子決済の主役だった銀聯の影がほとんど見えなくなってしまった。しかし、銀聯QRコード方式のスマホ決済に参入したことで、スマホ決済は三国鼎立の時代を迎えるかもしれないと今日頭条が報じた。

 

スマホ決済で独走をする中国

中国で、アリペイ(アリババ)、WeChatペイ(テンセント)などのQRコードを利用したスマートフォン決済が、消費者の決済手段の主役に躍り出て数年が経った。昨年2016年のスマホ決済回数は257.1億回、決済金額は157.55兆元(約2600兆円)となった。

国際的なスマホ決済の普及率は、中国が77%で世界一、米国は48%、日本は27%となっている(加入者数。実際に決済をしているかどうかは別)。

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銀行業界をバックにした銀聯がいよいよスマホ決済に参入

このスマホ決済は、ECサイトタオバオ」「T-mall」を起点にしたアリババのアリペイ、SNSサービス「WeChat」を起点にしたWeChatペイが2強となり、5年前まで、中国人が海外で買い物をするときの決済手段として有名だった銀聯は大きく後退をした。

しかし、今年5月、銀聯も正式にQRコード方式のスマホ決済に参入することを表明、アリペイ、WeChatペイ、銀聯が三つ巴となる三国時代が到来した。

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▲出揃った銀聯(UnionPay)、WeChatペイ(微信支付)、アリペイ(支付宝)の3プレイヤー。今後は日本でもこの3つのロゴが並んでいる姿を見かけることが多くなりそうだ。

 

ECサイトのポイントだったアリペイ

この3つのサービスは、いずれもQRコードを利用するスマホ決済だが、そのサービスの出自から、それぞれに性格がある。

アリペイは、元々はECサイトタオバオ」のサイト内通貨=ポイントであり、これがサイト外のサービス、リアル店舗でも使えるようになっていったもの。日本で言えば、楽天ポイントやアマゾンポイントで、リアル店舗での決済ができるようになった感覚だ。

アリペイのメリットは、簡単に加入することができ、手数料などが実際ゼロであることだ。クレジットカードのような立替払いではなく、リアルタイム決済なので、信用審査は不要。アリペイサイトにアドレスと携帯番号を登録すればすぐに使えるようになる。加盟店になるのも、POSレジなどを購入する必要はなく、スマホ1台あればいい。

また、手数料は0円で、受取金額が月2万元(約33万円)を超えると、0.1%の手数料がかかる。また、銀行口座への振込(つまり現金化)をすると、手数料が数%かかる。

つまり、チャージをして消費をすることが多い個人、商売の規模がさほど大きくない露天商などは、手数料が一切かからないことになる。一方で、大規模チェーン店、大企業は受取金額が大きく手数料を支払うことになり、また仕入れなどの企業間取引を決済するため、従業員に給与を支払うために現金化をする必要があり、ここでも手数料を支払う必要がある。

アリペイは、小規模小売には手数料をゼロにし、ほぼ100%普及させることで、利用者の利便性を高め、一方で、売上規模の大きなチェーンから手数料を取ることで運営をしている。

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SNSでのお金の清算ツールだったWeChatペイ

テンセントのWeChatペイは、中国人の多くが利用しているSNS「WeChat」上でやり取りをするポイントから始まったもの。日本で言えば、LINE Payに性格が似ている。このため、個人間でお金をやり取りする機能が充実していて、数人で食事をして、1人が料金を支払い、残りがその支払い者にお金を送るという割り勘などが簡単にできる。

ただし、受取額が1000元(約1万7000円)を超えると手数料がかかるなど、個人でも手数料がかかることがあり、多くは少額のやり取りに使われている。そのため、全体の決済金額では、アリペイに大きく水を開けられ、2位に甘んじている。

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誰もが予測してなかったQRコード方式の普及

銀聯は、プラスティックカードのデビットカードを中心に展開していたため、スマホ決済への参入が大きく遅れた。しかし、中国人の海外旅行熱とともに海外に進出し、すでに世界160カ国以上で利用できるのが大きな強みになっている。

その銀聯が今年の5月に、スマホ決済に参入することを表明した。しかし、多くのメディアは否定的で「遅すぎた。もう銀聯の席は用意されていない」という論調が支配的だった。

しかし、銀聯は死んでいなかった。そもそもQRコードによるスマホ決済技術の開発を行ったのは銀聯だった。しかし、世界の決済方式の潮流が、NFC(近距離無線通信)方式に進むのを見て、NFCを採用し、Apple Payと提携する道を選んだ。

国際的な戦略としては決して間違っていないのだが、国内ではNFCがあまり普及をせず、QRコード方式が急速に普及をするという“異常事態”が起きてしまった。

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国際標準化することで、海外から取りにいく

そこで、銀聯は、遅れてQRコードスマホ決済に参入するだけでなく、元々自分たちが開発したという技術的優位性を活かして、決済関連の国際標準化団体であるEMV CoにQRコード決済方式の標準化を認めさせた。つまり、銀聯方式のQRコードスマホ決済が国際標準となり、アリペイ、WeChatペイは独自規格ということになったのだ。

もちろん、独自規格であっても、標準規格と大きな違いはなく、少しの修正で準拠することは十分可能だし、準拠しなくても国内で使う分にはなにも問題はない。しかし、アリペイ、WeChatペイも、すでに国内市場に飽和の兆候が出ており、海外進出に力点を置き始めている。当面は、海外旅行をする中国人が、旅先で決済する使い方になる。

この時、海外の企業は、アリペイ、WeChatペイ、銀聯のいずれを選択するだろうか。すでに世界160カ国で馴染みがあり、国際標準にもなっている銀聯方式を選択する可能性がきわめて高い。

つまり、銀聯は、数年で「海外旅行なら銀聯QRコードスマホ決済」というイメージを定着させ、さらに数年で「海外でも国内でもどこでも使える」という態勢を作っていきたいのではないかと推測できる。

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銀聯(UnionPay)は、デビットカード時代、中国人が海外で使う決済手段として、爆買いの象徴にもなった。しかし、スマホ決済に乗り遅れ、シェアを大きく落としている。国際標準化を武器に、銀聯の巻き返しが始まろうとしている。

 

スマホ決済の三国志が始まるか?

もし、この銀聯の戦略が図に当たれば、再び決済の主役プレイヤーの座に返り咲くこともあり得る。スマホ決済が普及をしてから、多くのメディアが「銀聯は遅すぎた。銀聯の座る席はもうない」と論評してきた。しかし、現在は明らかに論調が変わって、「三国時代が到来。最後に笑うのは誰か」になっている。

中国の決済プレイヤーの地図は、まだまだ大きく書き換えられることがあるかもしれない。

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上海で、コンボイ輸送トラックの無人運転始まる

中国では、百度以外にも無人運転技術の開発を行っている企業が複数ある。しかし、その多くは乗用車ではなく、バスやトラックなどの商用車での無人運転を目指している。その方が実用化が早いと考えられるからだ。北京図森未来は、上海で無人トラックのコンボイ走行に成功したと今日頭条が報じた。

 

無人運転は貨物輸送に向いている

自動車の自動車運転技術をリードしているのは、グーグル(ウェイモー)と百度(アポロ)の2チームだが、いずれも乗用車の自動運転、ドライバーレスを目指している。しかし、自動運転を応用しやすいのは、個人向け乗用車ではなく、商用車だ。

個人の乗用車は、移動の途中でさまざまなイベントが発生をする。例えば、突然、ファストフードに入る、トイレに寄りたくなるなど、突発イベントが多い。しかし、商用車では純粋に移動をすればよく、特に貨物運送では、移動以外のことはほとんど要求をされない。


Mercedes Future Truck 2025 autonomously driving truck premiere - Autogefühl

メルセデスベンツのフューチャートラック2025のプロモーション映像。北京図森未来の強力なライバル。北京図森未来では、2018年に最初の製品を発売したいとしている。

 

CEOが助手席に。運転席には誰も座らない

このような発想で、トラックの無人運転を実現する目的で2015年9月に設立されたのが、北京図森未来だ。今年6月には、米国カリフォルニア州での無人運転許可を取得し、7月からはカリフォルニア州で試験運転を開始。11月5日は、上海市の公道上で、3台のトラックがコンボイ走行する無人運転試験を行った。

北京図森未来の無人運転技術は、全長17mのトラックに、8台のカメラ、3組のミリ波レーダーを取り付け、200m以内の状況を捕捉しながら、リアルタイムに運転判断をしていくというもの。今回の実験は、陳黙(ちん・もく)CEOが自ら助手席に乗り、運転席には誰も座らないというものだった。

これで、2回のUターン、2回のトンネル通過、1回の障害物回避、数回の右左折を行いながら、予定されたコースを最高時速40kmで問題なく無人運転をした。

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▲北京図森未来の陳黙(ちん・もく)CEO。公道試験のトラックの助手席に座り、自ら試験を監督した。

 

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▲北京図森未来創立者の侯暁迪(こう・きょうてき)CTO。上海交通大学卒業で、画像解析の研究をしてきた。技術、経営の中心人物。


関係法規の緩い中国は、試験走行に有利

商用トラックの無人運転技術を開発しているのは、北京図森未来だけではない。有名なものでは、メルセデスベンツが開発中のフューチャートラック2025がある。文字通り、2025年の実用化を目指しているが、北京図森未来では、人と無人運転を組み合わせるタイプのものを2018年には発売にこぎつけたいとしている。ドライバーが乗車し、市内地など交通環境が複雑な部分は手動運転で、都市間高速などでは無人運転で、しかも数台のコンボイ走行をすることを目指している。

北京図森未来は、米国と中国の両国で試験走行を進めていくが、中国の方が関係規制が緩く試験走行を実行しやすいため、今後も中国での公道試験を進めていきたいとしている。

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コンボイ走行する無人トラック。理論上は何台でもコンボイ走行させることができるので、この技術が実用化すると、陸上輸送の効率は格段に進歩する。

 

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▲北京図森未来のトラック。すでに走行試験は何度も行い、今回初めて、公道上のコンボイ走行の試験を行った。

 

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▲北京図森未来の無人運転トラックは、一般のトラックに、8台のカメラ、3組のミリ波レーダーを取り付け、200m以内の状況を把握しながら運転判断をする。

 

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トミカ おかたづけコンボイ

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エンジニアが最も働きやすく、起業しやすいのは北京市中関村

エンジニアが働くのに最も環境のいい都市は?少し前であれば、そして今でも、シリコンバレーだと答える人は多いはず。しかし、ロンドンを拠点とするコンサルティング企業「エキスパートマーケット」が包括的な調査分析をしたところ、1位は中国北京市の中関村、2位はドイツベルリン市のシリコンアレーとなり、米シリコンバレーは3位であるという結果になった。

 

エンジニアが働きやすい都市は北京

エキスパートマーケットの調査方法は、3つの観点でポイントをつけ、総合順位を決定するというもの。3つの観点とは、1)ソフトウェアエンジニアの平均給与、2)生活必需品の物価、3)スタートアップへの投資額だ。つまり、給与が高く、物価が安くて暮らしやすく、なおかつ起業もしやすい都市が、エンジニアにとっていい街ということになる。

その中で、目立ったのが米シリコンバレーが順位を下げたことと、北京、上海、バンガロール(インド)などのアジア都市が躍進をしたことだ。エンジニアの平均給与は米シリコンバレーが未だに世界一で、流れ込むスタートアップの投資資金も世界一であることには変わりない。しかし、同時に物価が高騰していることが、エンジニアにとってネガティブに作用している。

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▲エキスパートマーケットが公表した世界テックハブ都市のランキング。物価なども考慮され、エンジニアにとって働きやすい街のランキング。ベルリンが2位にランキングされていることにも注目をしたい。

 

シリコンバレーは生活費が高すぎる

シリコンバレーで働くエンジニアに聞くと、日本円で年収1000万円程度だと、貧しいとまではいかないものの、かなり節約をしなければならない不自由な生活を強いられるという。夫婦それぞれが年収1000万円を確保して、ようやくゆとりのある生活ができるようになる感覚だという。とにかく、家賃と食費にお金がかかるそうだ。

また、近年ではあえてシリコンバレーでの起業を避ける起業家も現れ始めている。外国人起業家がほとんどだが、シリコンバレーで活動をして、投資家とのつながりを持つと、母国に帰ってから起業する。シリコンバレーではエンジニアの給与が高すぎて、スタートアップ企業にはつらいのだという。また、東京、北京、ベルリンなどであれば、シリコンバレーと同程度のスキルのエンジニアが低コストで調達できることが魅力になっているという。

中国、インドなどは、都市開発が進んでいると言っても、まだまだ生活コストは抑えられる。そのため、さほど高くない給与でも、エンジニアが集まるのだ。

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▲現在の中関村。電子製品の小売店が集まってきただけでなく、百度、シャオミーなどのIT企業がオフィスを構えるようになり、中国のシリコンバレーとなっていった。

 

シリコンバレーと中間村の2つがテックの中心に

このランキングは、あくまでもエンジニアにとって働きやすい都市であって、新しいテックが生まれる、世界のゆりかごとなっているのがシリコンバレーであることには変わりない。しかし、エキスパートマーケットでは、北京中関村が、シリコンバレーの強力なライバルになっているという。なぜなら、中国は市場の規模が巨大で、なおかつ消費者の反応が早いため、スタートアップの成長速度が圧倒的に速いからだ。

以前お伝えしたように、企業価値10億ドルになりながら未上場のスタートアップをユニコーン企業と言うが、シリコンバレーでスタートアップがユニコーン化するまでの平均時間は約7年だが、中国では3年程度。

世界のテック地図が、この数年で大きく塗り替えられることも多いにありそうだ。

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▲2001年の北京市中関村。この頃は、なにも発展していない北京市の郊外にすぎなかった。電気パーツ店などがようやく店を開き始めた頃。

 

中国貴陽市にVRのテーマパークがオープン

中国貴陽市で建設が進められていたVRテーマパーク「東方科幻谷」の第1期工事が完了し、正式開業したと界面が伝えた。

 

開発区の中心となるVRテーマパーク

東方科幻谷は、貴州貴陽市の双龍航空港経済区の敷地3000ムー(約200ヘクタール、東京ドーム48個分)に、50億元(約840億円)の資金をかけて建設されたもの。この地域は、双龍未来城として開発されている地域で、この東方科幻谷を中心に、学校、オフィス、住宅、ショッピングモールなどが建設され、飛行場、新幹線、鉄道なども整備される予定だ。

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▲東方科幻谷の全景。超合金ロボットと熱帯植物のような異様なパビリオンが目を引く。最終的には東京ドーム48個分に拡張される。

 

世界一大きな変形超合金ロボットがシンボル

東方科幻谷では、15のライドがオープンした。いずれもVR、AR、MRなどを駆使したもので、ジェットコースターもVR、MRを駆使したもの。ゴーグルをかけ、コースター席に座ると、コースター席が映像に合わせて傾く。このほか、VR映画館なども用意されている。

テーマパークの中央には、高さ53mの超合金ロボットが立ち、このテーマパークのシンボルとなっている。750トンの鋼材が使われ、1億元(約16億円)以上の工費をかけ、世界一大きな変形する超合金ロボットとして、ギネスブックにも申請中だ。

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▲テーマパークのシンボルである超合金ロボット。可動式になっていて、ポーズは時々変えられる。

 

観光拠点と研究拠点の中心地に

第2期工事は、これから着工することになるが、エンターテイメント施設とともに、VR技術を研究する研究所なども建設される。

貴州は、風光明媚な地域として観光資源が豊富だが、この東方科幻谷によって、家族連れ、学生の研修旅行など、新たな層の観光客を呼び込みたいと、地元は期待をしている。

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▲プレス向けに公開されたライドやパビリオン。ほとんどのライドが、ゴーグルをつけて楽しむというもの。

www.eastscience.com

▲東方科幻谷の公式サイト。現在まだ試験公開中として、チケットなどはネット経由で買えない状況になっている。工事中のページが多い。

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清華大学経済管理学院顧問委員会に孫正義氏

中国北京市清華大学は、理系の学部が国際ランキングの上位に位置し、「アジアのMIT」とも言われる。現在、経営学修士MBA)の人材養成に力を入れ、国際的な企業家を顧問委員に招聘している。そのメンバーに今年から、ソフトバンク孫正義氏が加わったと界面が報じた。

 

「中国のMIT」は、今経営者育成に力を入れている

中国の大学というと、誰もが北京大学をすぐに思い出す。しかし、近年、同じ北京市にある清華大学の躍進が目覚ましい。イギリス、クアクアレリ・シモンズが発表している最新の世界大学ランキングでは、第25位となり、香港大学北京大学を抜いて、中国の最上位にランクされた。アジアでもシンガポールの2大学に次ぐ、第3位となった。

清華大学は、そもそもが米国留学のための予備校「清華学堂」から始まっている。そのため、中国の他の大学と比べて、外に開く校風を持っている。工学系の学科が優秀で、「中国のMIT」と呼ばれることもあるが、近年は経営学修士MBA)の人材教育に力を入れている。明らかに、IT系のスタートアップ人材を養成しようとしている。

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▲中国でも最高の学習環境を整備する清華大学。清華園などの歴史的建造物も多く、キャンパス内を観光する人もいる。理系学部はアジアトップクラスのレベルにある。

 

錚々たるメンバーの清華大学顧問員会

清華大学は、2000年から、清華大学経済管理学院顧問委員会を組織している。中国だけではなく、世界中の起業家、学者などがメンバーになる委員会で、世界各国の経済界との結びつきを強化し、清華大学経営学の分野をさらに強化しようとするものだ。

このメンバーがすごい。世界の企業家オールスターになっている。名誉主席は、朱鎔基(しゅ・ようき)元国務院総理であるものの、委員には数多くの外国人がなっている。GMのメアリー・バーラCEO。マッキンゼーのトップ、ドミニク・バートン氏。ゴールドマンサックス、ロイド・ブランクフェインCEO。アップル、ティム・クックCEO。JPモルガン・チェース、ジェイミー・ダイモンCEO。テスラ・モーターズイーロン・マスクCEOなどなど。中国人では、フォクスコンのテリー・ゴーCEO、百度のロビン・リーCEO、アリババのジャック・マー会長、テンセントのポニー・マーCEOなどだ。日本人も以前から、元ソニーCEOの井出井伸之氏が顧問委員となっていた。

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清華大学全景。西に頤和園、東にオリンピック公園という絶好のロケーション。米フォーブス誌の「世界で最も美しい大学キャンパス14校」のひとつに選ばれたこともある。

 

学びの分野で、アジアの拠点化を図る北京市

清華大学では、2018年から顧問委員を4人増員すると発表した。その中の一人が、孫正義氏だった。他の3人は、デルのマイケル・デルCEO、BMWのハラルド・クルーガーCEO、タタグループのラタン・タタ会長だ。

孫正義氏は、清華大学に留学をする学生を支援するシュワルツマン奨学金を支援し、日本からも数名の留学生を清華大学に送り込んでいる。シュワルツマン奨学金は、次世代のリーダーを育成するため、世界中の学生を清華大学修士課程に留学をさせるもので、毎年約200人の学生が、この奨学金を受けて、清華大学で勉学に励んでいる。毎年3000名以上が応募をする奨学金プログラムで、現在、世界でも最難関の奨学金プログラムのひとつになっている。孫正義氏が、顧問委員に就任したのには、このような活動も評価されたのではないかと思われる。

清華大学は、工学の分野ではアジアトップと言われ、経営学の面でもアジアをリードしようとしている。中国北京市は、学びの分野でも、アジアの拠点となる戦略を進めている。

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清華大学経済管理学院でMBA取得のために学んでいる学生たち。10年後、この中から中国をリードする企業家が誕生しているはず。清華大学公表の小冊子「笑顔:2017同行清華路」より引用。

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中国の白物家電産業の30年。中国クオリティが世界を制することができた理由

中国の白物家電と言えば、数十年前は低品質の代名詞だった。故障をするのは当たり前、運が悪ければ発火、爆発する。それが現在は、多くの白物家電で、中国企業のシェアが圧倒的になるほど、世界で売られている。その躍進の秘密を中国電子報が解説した。

 

売上は頭打ち、でも利益は急増。値下げ競争に陥らない中国家電

中国の白物家電産業が形を成して30年になる。メイダ、ハイアール、グリー、ハイセンスなどの国際的に家電製品を販売するメーカーが登場し、シーメンス、ワールプール、サムスン、LG、パナソニックなど海外の企業と正面から競争をしている。

中国国家統計局の統計によると、2016年の家電業界の売上は1.46兆元(約25兆円)、2012年からは30%増加し、2015年からは3.8%の増加となった。

売上の伸び率は頭打ちになったが、注目すべきは利益の増加だ。2012年の609億元から、2016年は1196.9億元と、96.5%の増加となった。これはきわめていい兆候で、製品の付加価値が高まり、価格も高止まりし、日本メーカーが陥っている「値下げ競争」から一定の距離を保てていることになる。

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出荷台数は、日本の10倍から20倍

出荷台数も増加をしている。2016年の冷蔵庫は9238.3万台、昨年から4.6%の伸び。エアコンは1億6049.3万台で4.5%の伸び。洗濯機は7620.9万台、4.9%の伸び。ちなみに日本の白物家電の国内出荷台数は、冷蔵庫が約400万台、エアコンが約850万台、洗濯機が約450万台だ。

まさに桁違いの数字だが、中国はエアコン、電子レンジに関しては全世界の80%以上を製造し、冷蔵庫、洗濯機に関しては全世界の50%以上を生産しているのだ。

 

躍進の秘密は、最適戦略の継投策

30年前、故障ばかりする低品質の製品しか作ることができなかった中国の家電産業は、なぜ世界の工場となるほどシェアを取ることができたのか。その秘密は、ステージに合わせて最適な戦略を取り、なおかつ次の戦略に早めに着手をするという「継投策」を絶え間なく進めてきたからだ。

30年前の中国家電産業の目標は、他の国の家電産業と同じく、国内普及率を高めることだった。この戦略はすでに達成できている。市街部(農村を除いた地域)でのエアコンの普及率は、100世帯あたり123.7台、冷蔵庫の普及率は99.0台、洗濯機は92.4台とほぼ普及ステージを終了している。農村では、普及がこれからだが、普及のスピードは市街部よりも速いと見られている。

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▲ハイアールが発表したAndroid搭載冷蔵庫。現在のところ、タブレットが付いている冷蔵庫程度のものだが、優れたアプリが1つ登場するだけで、状況はまったく変わる。

 

普及の次はデザイン志向

市街部での普及が終わると、白物家電の購入世代は90年代生まれに移っていった。90年代生まれの若者たちは、貧しい時代を知らずに育ったため、白物家電の品質がいいのはあたりまえのことであると感じていて、品質にはこだわりは示さない。その代わり、機能やデザインにはこだわる。

この変化を受けて、中国家電産業はデザインの時代に入っていく。家具として、オブジェとして美しい白物家電の開発を目指した。その一例が、ハイアールのハローキティ洗濯機だ。大胆にキティをあしらった洗濯機は、白物家電というより玩具に近いデザインだが、これがヒット商品となった。若い女性に受け、その女性たちが母親になると、子どもたちから圧倒的な支持を受けたのだ。

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▲ハイアールのヒット商品となったハローキティ洗濯機。豊かな時代に生まれて楽しいことが大好きな90年代生まれの若者の心をつかんだ。

 

OEM供給で世界へ。そして、買収戦略に転ずる

国内市場が飽和する兆候を見せ始めると、中国家電産業は海外に進出をしていった。しかし、当初、「中国製品は品質が悪い」というイメージがあり、中国ブランドは消費者から相手にされなかった。そこで、海外の家電ブランドへOEM供給をするという形で世界に進出していった。ハイアールの冷蔵庫、ハイセンスのエアコンなどは、この戦略で世界での実質シェアでトップになるほど普及をする。

OEM戦略がある程度軌道に乗ると、次に海外ブランドの買収を始めた。ハイアールは、ニュージーランド白物家電企業フィッシャー・アンド・パイケルの買収を皮切りに、日本の三洋電機家電部門、米国のGE家電部門を買収していく。海外では、そのままのブランドで販売をし、同時に日本や欧米の企業が持っている技術力と人材を吸収していく。

メイダは、ドイツのクーカ、イタリアのクリベット、日本の東芝白物家電部門、イスラエルのサーボトロニクスなどを買収、資本提携をし、家電製品、空調システム、ロボットなどの技術を吸収していった。こうして、中国の家電メーカーは、グローバル展開を果たしていった。

 

世界の技術と人材が中国企業

白物家電の世界は、すでに中国が世界の中心になったと言わざるを得ない。なぜなら、日韓欧米で生み出された白物家電の世界でのイノベーションは、すべて中国企業に吸い上げられてしまう仕組みになってしまったからだ。技術も人材も、すべて中国企業に集約される体制が整ってしまった。

その成功の秘密は、ひとつの戦略が成功している間に、次世代の戦略を立案し、着手するという継投を絶え間なくしてきたことにある。中国家電産業は、すでに次の戦略に着手をしている。それはIoT、AI家電だ。例えば、冷蔵庫では、利用する時間帯を学習をし、使われない時間帯に節電をする。洗濯機では洗濯物の量などを自動判別し、水量、洗剤量などを自動設定するなどのAI機能を搭載した製品を発売し始めている。

もちろん、IoT家電、AI家電が消費者の心をつかめるかどうかはまだ未知数だ。しかし、そうだとしても中国家電産業は、その次の戦略すらすでに考えているだろう。時代にあった戦略を次々と実行し、間を空けない。それが成長の鍵なのだ。

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▲同じくハイアールが展示会に参考出品したIoT冷蔵庫。その場で、ECサイトに接続して、不足している食材を注文することができる。