中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国が世界で最初に通貨発行を停止する可能性

中国で急激に進展するスマホ決済。大都市ではスマホ決済に対応していない店舗、サービスを探す方が難しくなっている。露天のスイカ売りですら、QRコードを印刷した紙をぶら下げ、スマホ決済に対応している。中国の市場調査会社iResearchが、中国が世界で最初に通貨発行を停止して、無現金国家に突入する可能性を論じ、国内外で議論が始まっているとパキスタンgeo.tvネットワークが報じた。

 

露天商ですらスマホ決済に対応している

中国スマホ決済の最大手であるアリペイを運営するアリババのジャック・マー会長は、「7年以内に中国を無現金社会にする」と公言している。中国の大都市を見れば、すでに無現金社会は実現されているかのように見える。北京、上海、重慶といった大都市では、現金のみに対応の店舗やサービスを探す方が難しい。紙幣や硬貨を見かけることはほとんどなくなり、スマートフォンQRコードで決済している姿ばかりだ。

それは、スイカや饅頭を売るような屋台でもそうだ。商品の横には、QRコードを印刷した紙が無造作に置かれていて、客は自分のスマホでこのQRコードをスキャンする。これだけで、アリペイ、WeChatペイなどのスマホ決済で支払いが終わる。

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▲道端の露店ですらスマホ決済に対応している。店舗口座のIDを表したQRコードを印刷するだけでいい。客がスマホでこのQRコードをスキャンし、金額を入力すれば支払いが終わる。200元以内の支払いは、パスコード入力も不要。

 

現金を持たない人が増え、小売業はスマホ決済対応へ

北京の天橋の高架下で花を売る63歳の宋さんも、知り合いに教えてもらってスマホ決済に対応した。「私は現金の方が好きですね。でも、今の人は現金を持ち歩かないんですよ。仕方なくスマホ決済にしました。歳をとって目が悪くなり、スマホの画面は見づらいのですが、仕方がありません」。

ダンスのプロになろうと専門学校に通っている25歳の女性、楊さんは言う。「現金は不便なんです。買い物をするときは、両手が買い物袋でふさがっています。その時に、財布を取り出して、お札と硬貨を取り出して、支払って、お釣りをもらって財布に入れるというのはとても面倒です。もうあの面倒な時代には戻れません」。

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スマホ決済は、2013年に前年比707.0%増と一気に立ち上がり、昨年も381.9%増と急増している。取引額は58.8兆元で、2017年には100兆元(1600兆円)に迫り、個人総支出額の1/2を超えると予測されている(iResearch社『中国第三方移動支付行業研究報告2017年』より作成)。

 

世界で最初に紙幣を発明して、世界で最初に紙幣発行を停止する

これは大都市だけの現象ではない。アリババが進める無現金都市キャンペーンに呼応して、杭州武漢、天津、福州、貴陽などの中規模都市も、続々と無現金都市宣言をしている。

調査会社iResearchの中国市場調査グループディレクターのベン・キャベンダー氏はgeo.tvの取材に応えた。「次の10年で、中国が無現金国家となり、通貨発行を停止する世界で最初の国になる可能性は十分にあると考えています。世界で最初に紙幣を発明した国が、世界で最初に紙幣発行を停止するかもしれません」。

 

北欧諸国は着々と通貨発行停止に向けて準備中

通貨発行停止というのは、現金に慣れ親しんだ私たちにとっては、想像もつかないことだが、すでにデンマークは通貨発行停止に向けて計画を進めている。一般の商店は、現金支払いを受け入れる義務があるが、レストラン、衣料小売店、ガソリンスタンドなどでこの義務を廃止する法律を今年から施行する。段階的にこの現金受け入れ義務廃止を拡大していき、2030年には、現金の受け入れ義務を完全に廃止する。

デンマークでは、国民の1/3が実質的な中央銀行であるダンスケ銀行のスマホ決済アプリを利用していて、7歳以上の国民には銀行のデビットカードが発行されている。すでに成人の97%が電子決済手段を持っている。

目的は、犯罪抑止だ。街中では強盗の発生件数を大きく減らし、犯罪集団の資金流通を補足する。所得の流れも捕捉でき、脱税防止や税徴収の不公平感も解消できる。ノルウェースウェーデンなどの北欧諸国も同様の政策を進めていて、北欧諸国は無現金国家への道を歩き始めている。キャベンダー氏の発言は、決して無謀な予測でなく、中国が北欧諸国に先んじて無現金国家になることは決してありえないことではない。

 

サイバー攻撃によるリスクは増大する

しかし、同時にキャベンダー氏は、課題も指摘している。ひとつは中国中央政府の積極的とは言えない態度だ。「中国政府は、無現金国家へ向けた流れを緩めるような政策を行ってはいません。しかし、加速する政策も積極的に打ち出しているわけではないのです」。無現金社会を歓迎する発言は政府関係者からたびたび聞かれるものの、その実、態度を決めかねているかのようにすら見える。

無現金国家となれば、国民のお金の流れがすべて把握できることになる。中国は、今年の6月末で、携帯電話の完全実名制を完了した。日本のマイナンバーに当たる身分証で国民全員を管理しているので、スマホ決済が主流になれば、脱税は不可能になり、テロリストの資金源も簡単に断つことができるようになる。

しかし、一方で、サイバー攻撃によるリスクは増大する。電子決済サーバーが攻撃されたり、あるいは携帯電話インフラの大規模障害が起きるだけで、市民生活は大混乱に陥る。中央政府は、無現金国家になることのメリットとデメリットをまだ見積もり切れていないのかもしれない。

 

農村格差、インタフェース格差の問題も

二つ目が農村との格差だ。農村では、スマホ決済はほとんど普及してなく、農村をどうやって無現金社会にしていくかという大きな課題がある。アリババは農村タオバオ、京東商城は京東便利店という無現金社会の拠点となる実体店舗を大量出店しているが、進捗ははかばかしくなく、農村の現金社会の壁は厚い。

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 三つ目が、認証技術の問題だ。現在はスマホ決済が主流だが、これを喜んで使うのは都市部の若者が中心で、未成年や老人、障害者などのユニバーサルデザインを考えると、やはり顔認証、虹彩認証などの生体認証が普及し、「手ぶらで決済ができる」状況が必要だとされる。しかし、生体認証は精度、認証の手間など実用面の点で、まだ決定打となる技術が登場していない。

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無現金国家では消費者ビジネスの革命が起きる

しかし、中国、北欧諸国を中心に、先進国が無現金国家への道を歩み始めていることだけは確かだ。無現金国家は、ただお札を刷らず、硬貨を製造しないということだけではない。あらゆるサービスが、電子化され、決済を中心軸として有機的に結びつくようになる。市民生活の利便性は大きく向上し、消費者ビジネスは大きく拡大する。そのインパクトは限りなく大きい。

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