中国の都市部では、スマホ決済が普及をし、「現金を持ち歩かない人が増えている」とよく言われる。実際のところはどうなのか。中国の調査会社イプソスは、スマホ決済に関する世論調査結果を公表した。それによると、すでに14%の消費者が現金を持ち歩かなくなっているという結果が明らかになった。
すでに中国人の40%が、現金決済をやめている
中国の都市部では、「スターバックス以外のすべての店が、スマホ決済に対応している」と言われる。店舗が、アリペイやWeChatペイに対応するには、スマホを購入して、ユーザー登録をするだけでよく、審査は不要で、リーダーやレジなどの機器を購入する必要もない。その手軽さにより、ほとんどの店舗が対応するようになり、それが利便性を向上させ、スマホ決済を利用する消費者が増えるという好循環が生まれている。
そのため、現金を持ち歩かない人が増えている。よく聞くのは、「スマホを紛失したり、故障した場合のことを考えて、市内から自宅までのタクシー代50元程度をカバンに入れておき、財布は持たない」というパターンだ。
そういう話はよく耳にするし、現実にそうしている人もよく見かける。しかし、これまではっきりとした統計データはあまりなかった。それが、今回のイプソスの調査結果で、はっきりと数字に表れたことになる。
消費者の14%はまったく現金を持たず、100元以下のお金だけを持ち歩くという人が26%。つまり、合計40%の消費者が、現金を主要な決済手段とは考えず、スマホ決済が使えなくなった時のバックアップ手段と考えていることになる。
30歳以下はスマホ決済世代
毎日所持する平均金額を年齢別にみると、80年代生まれ(40歳以下)から所持金額が減ることがわかる。90年代生まれ(30歳以下)では、平均で172元しか持ち歩かない。
また、男性と女性を比較すると、女性の方が所持金額が少なかった。女性は買い物の荷物を持っていることが多く、財布からお金を取り出して支払いをし、お釣りを再び財布に入れるという動作が煩わしく感じるのだと考えられる。
▲日常の外出時の所持金額は、80年代生まれから大きく減少する。60年代生まれの500元は9000円ほどなので、物価の差を考えると、現金決済を中心にしていると思われる。一方で、90年代生まれの172元は3000円程度で、日常支出は賄えない。スマホ決済を主として、現金は万が一の場合に帰宅するタクシー代と考えていると想像できる。
▲所持金額は女性の方が少ない。買い物の荷物を持っていることが多い女性は、財布からお金を出す動作を煩わしく感じる人が多い。
「偽札が多いからスマホ決済」は都市伝説。理由は単純に利便性
ここまで現金を持ち歩かなくなる理由として、よく「中国は偽札が多いから」ということを言う人がいるが、これは都市伝説だ。確かに2008年の北京五輪前後まで、中国では偽の100元札が大量に出回っていたと言われ、買い物に100元札を使うと、1枚1枚チェッカーで検査をするのが当たり前だった。
しかし、北京五輪前後から、このような偽札チェックはほとんど行われなくなり、偽札問題を口にする人もいなくなった。それまで中国の紙幣は、ボロボロで触るのをためらうほど汚れていたものが多かったが、これもやはり北京五輪を境に綺麗になり、紙幣に偽造防止のホログラムも入るようになった。北京五輪に合わせて、偽造不可能な新型紙幣を大量に投入したのだろう。偽札問題は、北京五輪を境にほぼ解決したと見ていいはずだ。
スマホ決済が急速に普及をするのは、2015年のことなので、この頃には、中国人でさえ偽札問題は忘れていたはずだ。
では、なぜスマホ決済が急速に普及をしたのか。それは「どこでも使える」という便利な状態が生まれたからに他ならない。現金と同じようにどこでも使え、現金よりもはるかに便利なのだから、誰だって便利な決済手段を使うという単純な話なのだ。
日本で、現金決済が減らず、電子決済の普及が遅れているのは、店に入る前に「この電子決済は使えるかどうか」を確かめなければならないという不便さがあるからだ。そのため、事前に利用できるかどうかをあまり考えずに使えるSuica、大手コンビニの電子マネーの普及率は伸び続けている。
▲2015年に改定された100元札。あちこちにホログラムが多用され、偽造はほぼ不可能になっている。同じレベルのホログラムを手に入れ偽札を作ってもコストが100元近くかかってしまうからだ。現在の中国では偽札問題はほぼ解決されている。