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アリババで最も有名なエンジニアは、タオバオを開発した神と呼ばれる蔡景現

アリババに「神」と呼ばれるエンジニアがいる。アリババのビジネスの発火点となった「タオバオ」のシステムをわずか1ヶ月でサービスインさせた蔡景現だ。彼は現在経営陣に入っているが、今でも1日の大半をコーディングに費やしていると阿里経験が報じた。

 

アリババのビジネスの起点となった「タオバオ

アリババの最初のプロダクトはAlibaba.com。中国の製造業者と国際的なメーカーをマッチングさせるもので、中国の製造業を飛躍的に進化させることに大きく貢献したBtoBサービスだ。

そして、次のプロダクトである「淘宝」(タオバオ)により、アリババの長い旅が始まる。タオバオはCtoCのECサイト。個人が出品し、個人が購入する。Alibaba.comの発想を消費者同士のマッチングへと応用したものだ。ここから大規模小売業者がBtoCのECサイト「Tmall」として分離し、タオバオ内での決済通貨「アリペイ」は、ECサイトの外に出て日常消費の決済手段となる。さらに、ここからオンラインとオフラインを融合した新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が生まれ、アリババはネットからリアルへとそのビジネス領域を広げている。

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▲蔡景現。アリババのエンジニアから「神」と呼ばれる。現在は経営陣に入っているが、大半の時間はコーディングをしているという。

 

わずか1ヶ月でタオバオを完成させた「神」

アリババという企業の起点になったのは、Alibaba.comだったが、アリババのコンシューマービジネスの起点になったのはタオバオだった。

このタオバオを作ったのは、現在ではアリババのエンジニアたちから「神」と呼ばれている蔡景現(ツァイ・ジンシエン)だった。わずか1ヶ月で、売買システムと掲示板システムを書き上げた。

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▲仕事中の蔡景現。執務室で仕事をするのは好まず、さらにはリーダー席に座るのも好まない。普通のエンジニアと同じ席に座ってコーディングをしている。

 

内容もわからずプロジェクトを引き受ける

2003年春のある日、蔡景現はジャック・マーから呼び出しを受けた。ジャック・マーは、1枚の契約書を見せて、こう言った。「秘密のプロジェクトがあるんだけど、君は参加してくれる?」。

しかし、その契約書はすべて英語で書かれていたので、蔡景現にはなんと書いてあるのかよくわからなかった。そこで「コードを書く仕事ですか?」と尋ねた。ジャック・マーは「そうだ」と答えた。それで蔡景現は、契約書の内容も確かめないまま、契約書にサインをした。これがタオバオプロジェクトだった。

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タオバオを開発した頃のアリババの写真。中央が創業者のジャック・マー。その右が蔡景現。蔡景現にとって最も楽しかった時代。

 

午前0時退社、午前8時出社。休みなし。それでも楽しかった

蔡景現は、2人のエンジニアを引き入れ、3人チームでわずか1ヶ月でタオバオのシステムを完成させた。しかも、2003年から2007年までは、蔡景現一人でタオバオの検索システムの改良を続けた。

蔡景現は当時のことをまだありありと覚えている。「PHPMySQLを使って1ヶ月で開発をし、すぐに公開しました。なので、フォーラムには利用者から問題点の指摘が大量に上がってきます。エンジニアの小宝は、すべての問い合わせに、しばらくお待ちくださいと答えることにしていました。そして、私たちはすぐに問題点を修正して、ほんとうにしばらくの間で、解決していたのです」。

早く帰れる日で退社は午前0時。朝8時には出社する。休みはない。他のことをする余裕もない。でも「楽しかった」と言う。

タオバオは、多くの中国人にECで買い物をするという体験を初めて提供し、生活スタイルを大きく変えていった。11月11日の独身の日セールのキャンペーンは、全国的なイベントになっていった。

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タオバオの開発は、杭州にあるマンション「湖畔花園」を2室借りて行われた。3人のエンジニアがわずか1ヶ月で完成させたが、サービスイン後、数多くの不具合が噴出する。

 

「神」と呼ばれ、「禅僧」と呼ばれる蔡景現

蔡景現は、物静かで人付き合いも積極的な方ではない。SNSもプライベートでは使わない。人が多い場所にもあまり行かない。デスクも部屋の隅に置くのが好みだった。そこで、常にひとつの課題に向き合い続けるような人だ。アリババの首席人事官の彭蕾は、蔡景現のことを「愚直で純真な人」と評している。

アリババのエンジニアたちからは、その能力から「神」と呼ばれているが、人柄から「掃き掃除をする僧」とも呼ばれている。この僧は、掃き掃除をしている少林寺の僧のことで、本当は少林拳の達人だが、普段はその能力を隠しているというものだ。

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少林寺の僧のイメージ。普段は掃き掃除をしているが、実は少林拳の達人。蔡景現のイメージと重なる。

 

経営陣に入っても、仕事はコーディング

阿里ビデオの叔度総経理は、蔡景現に助けられたことがあるという。「あるとき、阿里ビデオのシステムが停止しかかったことがありました。3日間原因を探っても見つからない。蔡景現に助けを求めると、彼はわずか3分間で原因を特定したのです。秒殺でした」。

蔡景現は、現在はその功績から経営陣に迎え入れら、副総裁級の地位にあるが、現在でも1日の大半はコーディングをしている。

▲アリババが作成した「ハロー、デュラン」。アリババで「神」を呼ばれるエンジニアのドキュメンタリー。蔡景現の話し方が、物静かで優しいのが印象的だ。アリババエンジニアの誰もがリスペクトをしている。

 

「普通の人が普通のことを積み重ねたらすごいものができた」アリババ文化

蔡景現は、カンフー小説「鹿鼎記」に登場する人物になぞらえて「多隆」(デュラン)とも呼ばれている。アリババ社内では「困った時はデュランを探せ」という言葉があるほど頼りにされ、尊敬されている。

しかし、蔡景現は「私はただのソフトウェアエンジニア。ごく普通の人間です」と言う。

アリババの文化では、「普通の人が普通のことを積み重ねていったら、すごいものができた」ということを尊ぶ。蔡景現は、そういう意味でも、最もアリババ的な人なのだ。

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