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iPhone組み立てロボット計画。中国人に負け、失敗に終わる

アップルのiPhoneiPadなどの組み立てを行っているフォクスコンが8年間にわたって、ロボット導入計画を進めていたが、失敗に終わった。原因は、ロボットは中国人の手先の器用さに敵わないというものだったと澎湃新聞が報じた。

 

iPhoneを組み立てる「百万ロボット計画」失敗

台湾のEMS企業「鴻海精密工業」(ホンハイ)は、アップル製品や任天堂のEMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器受託生産サービス)としてよく知られている。EMS事業は主に中国で行い、鴻海精密工業の中国向けブランド名が「富士康」(フーシーカン)、米国向けブランド名が「フォクスコン」となる。

そのフォクスフォンが、2011年から「百万ロボット計画」を進めて、iPhoneiPadのロボットによる自動製造ラインを構築しようとしていたが、どうやら失敗に終わったようだという観測が流れている。

 

反発が多かった自動化計画

この「百万ロボット計画」は、2010年に起きた「14連続飛び降り事件」に端を発している。フォクスコンの従業員14人が、プレッシャーや待遇に悲観をして、社員寮の屋上などから次々と飛び降りるという痛ましい事件だ。

しかし、当時すでにフォクスコンの従業員は100万人に達しており、全員の精神面の健康管理をすることは容易ではなくなっていた。

その翌年に発表されたのが「百万ロボット計画」だった。3年間で100万台のロボットを導入し、すべての生産ラインをロボットに置き換え、自動化するという内容だった。ネットでは「ロボットなら飛び降りしないからだ」と話題になり、フォクスコンで働く従業員たちは自分たちの職がなくなると反発をした。

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▲百万ロボット計画だけでなく、フォクスコンでは待遇をめぐってさまざまな反発が起き続けている。女性従業員たちは「私たちは、夏休みをとって泳ぎに行くこともできない」と、水着を着て作業を行うという抗議活動をした。この抗議活動は、面白さからメディアやネットで話題になり、一定の成果をあげた。

 

アップルも乗り気になった百万ロボット計画

しかし、2012年になって、アップルがこの計画を支持する姿勢を見せた。アップルのティム・クックCEOに、まずiPadの製造ラインをロボットによる自動化をすると説明。フォクスコンが開発をしているFoxbotsが生産を担当するとした。そして、iPhoneの生産ラインを自動化した後、フォクスコンの生産ラインのすべてをロボットに置き換えるというものだった。

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▲フォクスコンの製造現場を視察するアップルのティム・クックCEO。百万ロボット計画は失敗に終わった。

 

アップルの精密作業ぶりに、ロボットが負ける

アップルはこれに呼応して、非公開のラボをアップル社内に設立した。アップルでもロボット技術を開発して、それをフォクスコンに提供することで、アップル製品独特の精密な工程の自動化を可能にし、高い品質を保ったまま自動化を実現することが目標だった。しかし、失敗に終わった。このラボは2018年にはすでに解体されたという。

問題はネジの精度だった。アップルは、日本のデンソーや三菱にネジ締めをするロボットの開発を依頼したが、成果が挙げられなかった。フォクスコンのFoxbotsのネジの精度は0.05ミリだが、アップル製品のネジは極小であるため、アップルが求める精度は0.02ミリだった。

ロボットは、複数のカメラで多角的にネジの位置、姿勢を制御しながらネジを持ち上げ、ネジ穴に軸を合わせて挿入しなければならない。ネジ穴に正対したかどうかを確認する方法は、カメラによる視覚ではなく、ネジからフィードバックされる触覚しかない。これを適切に検出することが大きな技術課題となった。

また、ディズプレイパネルの装着のために接着剤を塗布する作業も、塗布範囲を誤差1ミリ以内に納めなければならない。

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iPhoneiPadの精密な組み立て作業は、現在でも人手で行われる。ロボットは習熟した人間に勝つことができない。

 

人間の手作業にしかできない精密作業

このような作業を行うロボット開発は難航し、現場では習熟した中国人に敵わなかった。

2014年にはMacBook Proの組み立て自動化に挑戦をしている。しかし、キーボードを本体に装着するのに、88本の極小ネジを占めなければならないという作業にロボットは苦戦をし、最終的には習熟した工員がすべての作業をやり直すという結果になった。

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▲フォクスコンが開発したFoxbots。10万台が導入されているが、精密組み立て作業は人手で行うしか方法がなく、全工程の自動化は達成が難しくなっている。

 

人間は低コストで精密、ロボットはまだ追いつけない

この前後から、フォクスコンは海外工場の設置計画を進める。2014年にはインドのチェンナイに工場を開設したが、最終的に求める品質が出せず、計画を放棄している。2015年には、インドのマハラシュトナに工場を開設したが、2020年になって計画を放棄した。この挑戦は、現在でも続いていて、iPhoneの少量生産が始まったという報道もある。

フォクスコンは、2019年に導入されたロボットは10万台程度であることを公表した。「百万ロボット計画」は2014年までに100万台の計画だったが、8年経っても、その計画の10%程度しか進んでいない。

質の高い製品を作ろうと思ったら、ロボットはまだ人間に勝つことができない。フォクスコンは年々上昇する従業員の人件費を重荷に感じているが、ロボットの開発費と製造費を考えると、人間というのは低コストで高性能なのだ。フォクスコンでの重要な組み立て作業は誰にでも簡単にできる作業ではない。Foxbotsを上回る技術を身につけるには、最低でも数年の習熟が必要になる。

フォクスコンは、中国国内工場と海外工場の問題。人間とロボットの問題。さまざまな選択をしなければならない難しい時期を迎えている。