QuestMobileは「2019年中国モバイルインターネット8大キーワード」を公開した。2019年に中国ITビジネス業界で注目された8つのキーワードを解説したものだ。その8つとは「マタイ効果」「下沈市場」「全景生態流量」「広告価値」「国産ブランド」「グループ特性」「新小売」「モバイル金融」だ。
マタイ効果
マタイ効果とは、マタイ福音書にある「持てるものにはより与えられ、持たざる者からはわずかなものまで奪われる」という一節を引いたもので、つまりは「二極化」のことだ。
中国のインターネットはほぼ成熟をした。2019年にネットユーザーは8.54億人となり、モバイルネットユーザーもほぼ同数となった。つまり、ほぼ全員がスマートフォンからアクセスするようになっている。
また、スマホからのネットアクセスの月間アクティブユーザー数(MAU)は、2019年になって、11.3億程度でほぼ頭打ちになっている。
このような状況の中で、各領域でアクセストップのアプリがほぼ決まり、そのアプリにユーザーが集中するようになっている。各領域で、全MAUの半分以上のMAUを集めるトップアプリが全体の2/3になっている。つまり、2/3の領域で、アクセストップのアプリによりユーザーが集まるようになっている。
▲中国のインターネットユーザーの伸び。黄色がスマートフォンからのユーザー。現在のネットユーザーは8.54億人となり、ほぼすべてがスマホユーザー。ユーザーの伸びは頭打ちになっている。
▲月間アクティブユーザー数(MAU)は11.35億人となり、こちらも完全に頭打ちになっている。
下沈市場
下沈市場とは、第3級都市以下、農村に住む消費者のこと。1級都市、新1級都市、2級都市といった大都市ではもはやユーザー数の成長は望めなくなっている。しかし、下沈市場と呼ばれる地方都市、農村では、スマートフォンが普及したばかりで、ユーザー数の成長が望める。
2019年、MAUの成長率が高かった4つのアプリ「優喱ビデオ」「萌推」「快影」「七猫免費小説」のユーザー居住地を調べていみると、いずれも3級都市以下の比率が平均よりも高くなっている。
ネット全体の成長は止まっているが、下沈市場を積極的に狙うことで、まだ成長をすることができる。
▲成長率が高かった4つのアプリは、いずれも下沈市場の利用者が多いことが特徴になっている。
全景生態流量
モバイルサイトのページビュー(PV)、アプリのMAUなどを個別に考えるのではなく、さまざまなチャンネルの利用数を総合的に考える必要が出てきている。中国ではミニプログラム(アプリ内アプリ)のアクセス数が急増しているからだ。ひとつのサービスの流量を測定するとき、このようなさまざまなチェンネルの流量を総合的に考える必要が出てきている。
このような総合的な流量の多いアプリの内訳を見てみると、その比率はさまざまであることがわかる。モバイルサイトで流量を集めているサービス、アプリで集めているサービスもあるが、すでにミニプログラムにより流量を集めているサービスなども出てきている。
今後は、モバイルサイト、アプリ、ミニプログラムをいかに効果的に組み合わせて、総合的な流量を上げていくことが大きな目標となる。
▲各サービスの全景生態流量。「独自流量」(ウェブ)がまだまだ多いが、アプリからの流量が多いサービス、ミニプログラム(小程序)からの流量が多いサービスなど、流量の入り口が複雑化している。
広告価値
ネットユーザーが頭打ちになっているだけでなく、一人当たりのネット利用時間も頭打ちになってきている。これはネット広告業界にとってみると、成長空間がもはやなくなったということだ。
そのため、広告主は、コンバージョンをより重視するようになり、コンバージョンを上げられるメディアに広告が集中するようになる。
QuestMobileは、各メディアの広告量、コンバージョン率などから、広告メディアとしての強さを測る指標「メディア地位指数」(QMVI)を産出している。このQMVIランキングを見ると、上位3位までが新しいタイプのメディアで占められた。「今日頭条」(ニュースキュレーション)、「抖音」(Tik Tok)、「快手」(Tik Tok同様のショートムービー)だ。
特にショートムービーは、購入にダイレクトに結びつくことから、今後はネット広告の多くが、このようなコンバージョンの高い強いメディアに集中していくと思われる。
▲QuestMobileが独自に算出したメディア地位指数のランキング。広告価値の高いサービスのことだ。1位の「今日頭条」、2位の「抖音」(Tik Tok)はいずれもバイトダンスのプロダクト。3位の「快手」もショートムービーサービスだ。
国産ブランド
ファーウェイの国内でのスマートフォン販売量がiPhoneを抜き、さらにOPPO、vivo、小米(シャオミー)など国産ブランドが伸びている。
それでもiPhoneが強いのは忠誠度の高さだ。iPhone 11を購入した消費者のうち、以前もiPhoneの旧機種を使っていた人が50.9%もいる。同様の忠誠度の高さはvivoでも起きている。vivoの場合、以前もvivoの旧機種を使っていた人の割合が、15.2%に達している。次第に忠誠度の高いユーザーを従えたブランドが形成され始めている。
この国産ブランドへの嗜好は、スマートフォンだけでなく、化粧品、家電製品、スポーツ用品などの多くの分野で始まっている。
▲中国で選ばれているスマートフォンブランド。海外製品はアップルだけになったが、アップルは低迷気味。「華為」(ファーウェイ)などの国産ブランドが強さを増している。
グループ特性
消費者全体に対するサービスは、市場が頭打ちになった以上、もはや成長を期待することはできない。しかし、消費者をある特性で分けたクラスター別に見ると、成長空間が見えてくる。
現在、注目されている消費者グループは「下沈」(地方都市)、「美容・化粧」「小鎮青年」(地方都市の若者)、「都市」(一級都市)、「スポーツ」の5つだ。いずれも、似たような特性を持っていて、なおかつネットのMAUが増加している消費者グループだ。
このような消費者グループの特性に対して、適切なサービスを投入すると、まだ成長の余地がじゅうぶんにある。
例えば、「下沈」にはオンライン教育が有効で、MAUが283.1%も伸びている。また、「美容・化粧」にはフリマサービスが有効で、116.7%の伸びを示している。
消費者全体を漠然と考えるのではなく、特性により分けたクラスターを考え、そこに適切なサービスを提供することで成長を確保していくことができる。
▲クラスターごとに見たMAU。「下沈市場」「化粧」「小鎮青年」「都市」「体育」(スポーツ)などのクラスターが注目をされている。
新小売
オンラインでの購入体験、オフラインでの購入体験を融合する新小売が、小売業に広がっている。スマホで注文すると、店舗に取り置き、あるいは短時間で配送してくれる。
カフェでは「ラッキンコーヒー」が有名だが、衣類の「ユニクロ」、雑貨の「メイソウ」などの新小売が浸透しつつある。
新小売のモデルとなったアリババのスーパー「フーマフレッシュ」の場合、大都市中心の店舗展開であるため、半数弱の利用者が1級都市の在住者になる。一方で、「ユニクロ」「メイソウ」は地方都市まで展開をしているため、新小売という新しいスタイルが地方都市にも広がり始めている。「ユニクロ」「メイソウ」の新小売サービスを展開するWeChatミニプログラムのユーザー分析では半数程度が地方都市からの利用になっている。
▲WeChatミニプログラムを利用した新小売サービスの都市別利用者数。いちばん上がWeChat全体のもの。モバイルオーダーカフェ「ラッキンコーヒー」は都市利用者が多く、ユニクロは都市から地方までバランスよくカバーしている。低価格日用品の「メイソウ」は地方の利用者が多くなっている。
モバイル金融
金融と言っても、直接的な借金ではなく、クレジットカードの機能に近い。高額商品を購入するときに、分割払いやリボ払いなどを可能にするサービスだ。また、余剰金がある場合は、理財商品に投資をすることもできる。収入と消費のバランスを取り、必要に応じて、クレジット機能を実現して、支出を平準化してくれるというものだ。
分割払いの裏では借入金の利息が発生し、理財商品に投資をすると手数料が発生する。また、各銀行が顧客を獲得、囲い込みするために、この金融サービスを提供している。
このようなモバイル金融サービスは、都市の若者だけでなく、中高年、地方都市在住者の間にも広がり始め、各銀行による競争が激化をしている。
▲金融理財アプリの利用者構成。2018年11月と2019年11月を比べると、「46歳以上」と「5級以下都市」の利用者が増加をしている。金融と言っても、サラ金のようなものよりは、クレジットカードのリボ払い、キャッシングの感覚に近い。