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電源不要で光る繊維。服に応用することで、ジェスチャーでさまざまな機器を制御できるようになる

東華大学の研究チームが、電源不要で光る繊維を発明した。発光するには人体が触れていることが必要で、光ではなく信号を発生させることで、人体の姿勢を信号化することができ、さまざまなジェスチャー制御に応用できると中国科学報が報じた。

 

電源不要で発光する繊維

発光する繊維というのはこれまでもあった。光ファイバーの側面に細かい傷を入れたり、捻ったりすると、中を通っている光が外に漏れ出し側面発光するようになる。これを利用したイルミネーションなどはすでにさまざまなところで目にするようになっている。

しかし、難点は電源が必要になるということだ。大規模なイルミネーションなどでは電源を設置することは可能だが、例えばこの発光繊維をカーテンや衣類に応用しようとなると、電源の問題が生じてくる。特に人が着る衣類への応用では、電源の存在が着心地にどうしても影響してくることになる。

上海市の東華大学は、米国の科学雑誌「サイエンス」2024年4月号に「Single body-coupled fiber enables chipless textile electronics」(チップ不要の繊維発光を可能にする単一結合構造繊維、https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk3755)という論文を発表した。電源不要で発光する繊維を開発したのだ。

▲人体が触れると、空間中の電磁波を電源として発光をする繊維。電源は不要だ。

 

空間中の電磁波を電源にして発光する

この繊維の発光のエネルギー源は、生活空間の中にある電磁波を利用している。この繊維は三層構造になっている。最も内側の繊維は、銀メッキをしたナイロン繊維で電磁波を受け取るアンテナの役割をする。中間層はチタン酸バリウム繊維であり、これは誘導体として働くため、電力を貯めるコンデンサーの役割をする。最も外側は硫化亜鉛樹脂で発光をする。このような材料は、特別なものではなく、繊維業界では一般的に使われているものだという。そのため、低コストで量産できる環境が整っている。

▲発光ではなく、発生した電力を信号として利用することも可能。右は発光繊維で触れた場所に信号が発生するため、その位置を左側の発光繊維が光って示している。

 

人間の姿勢を信号化することが可能になる

面白いのは、繊維だけで発光をするのではなく、人間が触れることが必要な点だ。人体が電磁波を集めるキャリアとなって、繊維にエネルギーを与えることになるのだという。つまり、衣類に最も適しているのだ。

単に衣類が光るというだけでなく、この発光繊維の位置を工夫することにより、人体の姿勢に合わせて、異なる繊維を発光させることができるようになる。発光をさせるのではなく、信号を発生するようにすれば、人体の姿勢を信号化することができるようになる。さまざまなスマート家電などを操作するのに、服を着るだけでジェスチャーでできるようになる他、作業現場での機器の操作や作業員の姿勢情報を取得することなどにも使えるようになる。

東華大学の研究チームを率いる王宏志教授は、次の段階として、人体の姿勢でディスプレイ、AI、演算などを駆動するスマート服の開発に挑戦するとしている。これが実用化されれば、自宅や工場、オフィスなどで、人間は指揮者のようにジェスチャーでさまざまな機器を操れるようになる。

▲電源不要で発光する繊維を発明した東華大学の研究チーム。発光ではなく、信号を発生させることにより、人体の姿勢信号を発生させることができ、応用の幅が広がる。