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「高評価でキャッシュバックします」は違法?中国でこの手法が横行する理由

「高評価をつけてくれたらキャッシュバックします」というカードが、ECだけでなくフードデリバリーでも横行している。広東省消費者委員会は、このような行為は違法だとして、3軒の飲食店に対して罰金を課したと深燃が報じた。

 

飲食店のレビューを書くとキャッシュバック

日本のECで中国業者が出品している商品を購入すると、「高評価レビューを書いていただければ、◯◯円をキャッシュバックします」という紙が入っていることがある。レビューを書くことを強要しているわけではないので、法に触れることはないが(ECの規約には違反している可能性がある)、なにかもやもやしたものを感じる人も多いはずだ。特に、製品が優れている場合、そんなことまでしなくても普通に売れるのではないかと思う人も多いはずだ。

中国では、フードデリバリーにこのような紙が入っていることが増えてきた。店舗に対して高評価レビューを書くと、1元から5元程度のスマホ決済の紅包(ホンバオ、スマホ決済のポイント)がもらえるというものだ。

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▲フードデリバリーに入っているカード。飲食店の高評価レビューを書くと、数元のキャッシュバックを受けられるというもの。

 

広東省消費者委員会が罰金を課す

広東省消費者委員会は、3軒の飲食店に対して、デリバリー食品の袋の中に高評価レビューを誘導するカードを入れたとして、1万2000元(約21万円)の罰金を課した。同時にこのような手法は法に触れることを告知した。

また、同消費者委員会は、このような評価を誘導するカードの実態調査を行い、600のサンプルのうち、85軒がこのようなカードを入れていたと公表している。

 

飲食店にとってメリットの多いレビュー誘導

このようなカードは、飲食店が独自につくっているもので、「5つ星にすると1元」さらに「10文字以上、写真2枚で2元」、「50字以上で、写真3枚で3元」などが返金をされる。返金を受けるには、微信(ウェイシン、WeChat)で、その飲食店のグループに参加をして、レビューを書いた旨を告げると、WeChatの紅包が送られてくる。

消費者にとってはわずかながら得をすることができ、飲食店は高評価をもらうことができ、しかもWeChatのグループに参加をしてもらえるため、新商品やキャンペーンの情報をプッシュすることができるようになる。このようなことから、この手法が広がっている。

また、淘宝網タオバオ)や拼多多(ピンドードー)で商品を購入したときもこのようなカードが入っているのが珍しくなくなっている。

 

レビューを書いてもキャッシュバックされないトラブル

ところが、さまざまな問題が起こり、消費者委員会などへのクレーム、通報も増えてきている。

最も多いのは、指示に従って高評価レビューを書いたのに、いつまで経っても紅包が送られてこないというものだ。わずか数元のことであり、多くの人が飲食店に問い合わせをすることもせず、そのうち忘れてしまう。お金の問題よりも、騙されたという不快感から、レビューを消去してしまうこともある。

中には、レビューでその怒りを表現して、他の消費者に注意喚起をする人もいる。ある人がECでナツメを買い、「すごく柔らかくて美味しい。分量もたくさんある!」という写真付きの高評価レビューをつけた後、追加レビューを書いた。「高評価を書くと3元もらえるということだったが、本当のことを言えば、明らかに去年のナツメであり、虫もいた。写真はフィルターをかけて色をよく見せたけど、実物は黒くて美味しくない」というものだった。おそらく、紅包が送られてこないことに腹を立てたのだと思われる。

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▲ある人が購入したナツメを絶賛するレビューを書いた翌日、今度は真反対の悪評レビューを追加して話題になっている。高評価レビューを書いたら、3元キャッシュバックするという話だったが、それがもらえなかったためだ。どちらのレビューも強いバイアスがかかっていて、他の利用者の参考にならない。

 

評価を気にする飲食店はクレーマーにもねらわれる

また、このような飲食店は、レビューを気にする店であるということから、悪質なクレーマーにもねらわれやすい。フードデリバリーの問題は、食品に不備があった場合、それが誰の責任であるのか調べようがないことだ。例えば、食品に髪の毛などの異物が混入していた場合、調理の過程で混入したものか、あるいは配達の途中で混入したものか、さらには配達されて消費者の家庭の中で混入したものかを調べる方法がない。

このようなことが起こらないように、大手飲食店では包装に封緘をする。袋を開けようとするとちぎれてしまい、開けていないことがわかるようにしている。また、調理、包装の作業スペースには監視カメラを設置し、問題があった場合は後から検証ができるようにしている。さらには、このライブ映像を公開して、消費者やデリバリー配送員も自由に見られるようにしているところもある。

しかし、そこまでしても、結果として異物が混入していた場合は、やはりトラブルになる。それが髪の毛や小さな虫である場合は、なかなか監視カメラでも検証ができない。

 

異物を混入させて飲食店を脅すクレーマーも

これを逆手にとって、犯罪行為をする人もいる。デリバリーで配達された食品に意図的に異物を混入し、写真を撮影して、食薬監督局や工商監督局などに通報をする。それから、飲食店に連絡をして、示談金をそれとなく要求するというものだ。大手チェーンなどでは、このような行為には毅然として対応し、すぐに公安に通報し事件化をするが、個人経営の場合はなかなかそうもいかない。特に新規開店した個人商店の場合、レビューの評価が経営状態に大きく影響するため、理不尽だと思いながらも口止め料を支払ってしまうこともあるのだという。

このようなことから、消費者委員会では、飲食店に対しては監視カメラ、電話の録音など悪質なクレームに対する証拠保全の仕組みを導入し、違法クレームについてはすぐに通報をして対処するように啓蒙活動を始めている。また、このような問題の根底にレビューに対する返金制度があると見て、監視や処罰を強化するとしている。

不誠実な仕組みは、それ自体が違法ではなく、問題が小さいものだとしても、必ずより大きなトラブルを呼び込むきっかけになる。各ECでも、すでに「レビューを誘導すること」は禁止事項として規約に書かれているため、監視を強化して、解消する方向に動き出している。