出会い系アプリ「来遇」が問題になっている。中年男性でも若い女性と結婚ができるというショートムービーが拡散をしているが、その実、サクラの女性ばかりだと言われている。警察やメディアも注意喚起をしているが、違法性を問うこともできず、騙される男性が後を絶たないと鳳凰科技が報じた。
企業がタイアップをするショートムービー
普通の人が投稿をするショートムービーに、企業がタイアップする動きが広がっている。企業が依頼をして、人気投稿者が投稿するムービーの中に商品を露出してもらうことで、報酬を支払うというものだ。
例えば、野良犬を保護する活動を行なっているグループが、その様子をムービーで配信をし、視聴者に活動を支えるための投げ銭を求める。そこにペットフード企業がペットフードを提供する代わりに、ムービー内に商品を露出させてほしいと頼むケースだ。中国版TikTok「抖音」(ドウイン)や「快手」では、EC機能が備わっているため、そのムービーをタップするとそのペットフードが購入できるようになっている。
中年男性でも若い美女と結婚できる?
このような動きに対して視聴者たちは寛容だ。「配信主にご飯を食べさせてやれ」という定番フレーズがあり、ムービー配信には手間がかかり、配信主もお金を稼がなければ生きていけないということを理解しているからだ。
しかし、このようなあるタイアップムービーが炎上をした。それは、農家と見られる中年男性が、20代後半の美女の肩を抱き寄せて語っているムービーで、「お金もないし、家もないし、車もない。でもこんな得難い女性を見つけることができました」というものだ。さらに、「美人でしょ?来遇というアプリで、何回か話したら、彼女の方から会いたいと言ってきたんですよ」「みなさん、女性の方が積極的だと知ってました?」などと語る。
これがタイアップムービーなどではなく、誤った情報を伝えるやらせではないかと炎上したのだ。なぜなら、この「来遇」という出会い系アプリにいろいろ不審な点があるからだ。
メッセージを送るには有料の出会い系アプリ
鳳凰科技の記者はこの問題の調査を始めた。すると、「来遇」で被害にあったという男性の書き込みをいくつも発見することができた。
ある男性はこう語っている。「2021年8月中旬に来遇というアプリを知って、すぐにダウンロードして結婚を前提とした相手を探そうと思いました。しかし、相手にメッセージを送るには有料のアイテムを送らなければなりません。結局、54946元(約100万円)を使いましたが、相手と直接連絡を取ることはできないままでいます」。
登録をすると多数の女性からメッセージが入る
いったいどうして、こんなにもの大金を課金することになったのか。鳳凰科技の記者は実際に中年男性を装って、体験調査をすることにした。
アカウントをつくり、あえて顔写真は登録しなかった。それでも、当日のうちに35人の女性からメッセージが届いた。しかも、メッセージが同じだ。「老公(夫を呼ぶ時の呼称、あなた)と呼んでもいいですか?」または「バツイチですけど、友だちになってくれますか?」のいずれかであり、そのメッセージの後に顔写真と短い音声メッセージがつけられている。
返信は8通まで無料
記者はこのようなメッセージに男性を装った返事を書いた。すると、突然ポップウィンドウが開いた。「コインが不足しています。チャージしてください」というものだった。コインは6元で42枚が購入可能で、7枚が1元にあたる。返信を書くには8通までは無料だったが、それ以降は1通について5コインが必要になる。また、相手の音声を受け取るには1分あたり30コインが必要で、ムービーを受け取るには1分あたり50コインが必要になる。
つまり、最初の8通は無料にし、その時に大量の女性からのメッセージが入るので、多くの人が「とりあえず返事だけでも」と課金をしてしまう。すると再び女性からさらに返信がくる。それからどんどんと泥沼にハマっていくことになる。
このような女性たちが、いわゆるサクラであることは明らかだ。なぜなら、ある女性は「素敵な方だと思ってメッセージを送りました」とメッセージを送ってきたが、記者のアカウントの写真は未登録のままなのだ。職業や居住地などの情報も空白のままにしている。どこを見て、素敵な人だと判断したのだろうか。
親密度が100になるまで連絡先の交換ができない
「来遇」では、電話番号やWeChatアカウントなど、直接連絡を取る手段を伝えることはできないようになっている。メッセージに入れたとしても、システムが検知をして送れないようになっている。
なぜこのような仕組みにしているのか。運営によるとプライバシーの保護や、相手の連絡先を聞き出すだけの遊び目的の参加者を排除するためにものだとしている。
特定の相手とメッセージをやりとりしていくと、親密度の数値があがっていく仕組みになっている。この親密度が100に達すると、電話番号などの連絡先を交換できるようになっている。当然、親密度が100に達するまでにたっぷりと課金をしなければならない。
意外に少ない消費者の苦情
中国には消費者が消費者問題を訴えることができる公的、民間のプラットフォームがあり、記者は来遇に関する訴えを検索したが、意外にも数は少なく19件しか見つからなかった。そのすべてが課金をするだけで相手と連絡が取れない。連絡が取れる状態になると、相手の女性がいろいろな理由をつけて連絡先の交換を断り、その後メッセージが途絶えるというものだった。
また、訴えをしているのは全員が男性だった。女性でも結婚相手を探している人はいるはずで、同じ不満を持っている人もいるはずだが、なぜか、女性からの訴えは存在をしない。
背後にサクラを組織するグループの存在
この背景には、いわゆるサクラの女性を組織する黒いサプライチェーンがあるのではないか。記者はWeChatやQQ、テレグラムなどのグループを探し、サクラの女性を取材することに成功した。
すると、「まったく合法な仕事で、1日で1000元は間違いなく稼げる。4日で7500元(約13.6万円)を稼ぐことも可能だ」と言われて、この仕事を始めた。メッセージや音声を送ると1通で0.08元、通話は1分1.2元、ムービーは1分2元の報酬だという。これでは1日に1000通以上のメッセージなどを送る必要があるが、マニュアルが用意されていて、同じメッセージ、音声、ムービーを送ればいいので、1日6時間から10時間程度の労働で、割と簡単に1日1000元は達成できるという。
メッセージの内容などは報酬と無関係で、送った数で報酬が決まるため、多くの女性が新規に参加した人に定番のメッセージを送信し、返事があった人に対応をしていくというやり方をとっている。
直接会いたい、連絡先を交換したいという段階になると、それはできないため、連絡を絶ってしまって、別の人の対応に時間を割く。これにより、男性がアカウントを登録するとすぐにたくさんの女性からメッセージが入ってくる状態が生まれている。
サクラの違法性を問うのは難しい
このようなビジネスは違法ではないのか。法律家は違法性を指摘するのは難しいという。相手に対して、結婚や交際をにおわせ金品を騙し取ることはもちろん違法だ。しかし、このような結婚詐欺でも、最初から結婚する気がなく騙していたということを立証するのはきわめて難しい。
しかも、この女性は被害者から直接金品を受け取っているわけではない。運営から奨励金として報酬を受け取っているだけだ。さらに、来遇は知っていても黙認をしているのではないかという疑いはあるものの、直接サクラの女性を雇用しているわけではない。実際に会う、直接連絡を取るようになり、女性が金品を騙し取らないと事件化をすることができないのだ。
2021年12月25日、公安部のニュースセンターのウェイボー公式アカウント「中国警察オンライン」は、来遇で知り合い、その後、女性から金品を騙し取られた59歳の男性の事件を摘発したことを告知した。そして、公式アカウントはこう付け加えた。「ネットでの出会いには慎重に。相手の甘い言葉を軽々しく信じないようにしてください。特に、写真や動画を使ってお金に絡む話が出た時は、あなたの優しさにつけ込む詐欺ではないかと疑ってください」。
このような問題が起きているのは来遇だけではない。しかし、いくら注意喚起をしても、騙される中年男性が後を絶たない。