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地図なしで自動運転を目指す中国メーカー。LiDARなしで自動運転を目指すテスラ

L2+自動運転が広がり始めている。テスラ、ファーウェイなどはすでに自動運転システムの市販を始め、個人が自動運転を楽しむ時代が始まっている。その中で、中国メーカーは高精細地図を採用しない自動運転を開発している。高精細地図のコストがあまりに高すぎるからだと青山隠士が報じた。

 

400km以上をハンドルに触ることなく帰郷

この春節期間、華為(ファーウェイ)の余承東常務のSNSの発言が話題になっている。ファーウェイが自動運転ソフトウェア「ADS2.0」を提供している、賽力斯(セレス)の問界M9で、余常務は深圳市から故郷の安徽省に帰郷をした。1314kmの行程の400kmを過ぎたところで、SNSにある投稿をした。それは、すべての行程を自動運転に任せることができ非常に快適だというものだ。ただし、3分間、ハンドルから手を離すと警告音が鳴り、それでもハンドルに手を戻さないと自動運転が解除される仕様になっている。これは法律が要求する仕様だが、余常務はほんとうに必要な機能なのだろうかと疑問を呈した。

▲ファーウェイの余承東常務の投稿。約400kmをハンドルを一度も操作しないで走行した。しかし、法的な規制により、3分に1回はハンドルに触れないと自動運転が切られることになっている。余常務は、このもはや不要となった規制に疑問を呈した。

 

9割以上の状況で運転を自動車任せにできる

実際、ファーウェイのADS、テスラのFSDは、L2自動運転ながら、ほぼほぼ完全自動運転に近いレベルに達している。さまざまな自動車メディア、ユーザーが路上での検証を行なっているが、どのメディアも「都市部の整備された環境であれば90%以上の時間、運転を自動車に任せることができる」と評価している。

もちろん、完璧ではない。SNSにはさまざまな情報があがっている。ある問界M9のユーザーによると、近所にある変形十字路で、ADSがかなりの確率で間違った道に入ってしまうという。また、ある問界M9ユーザーは、あるバイパス道路に入る合流地点で停止をしてしまうバグがあることを報告している。

完璧ではなく、ところどころ、人間が手を貸してやらなければならないが、高速道路などを走行する時はほぼ自動運転が可能になっている。L2自動運転であるため、あくまでも運転主体は人間であるため、スマートフォンの操作をしたり、寝たりすることはできないものの、自動運転はもはや実証実験の段階を終わり、商品として販売される段階に達している。

 

異なるアプローチをとる各社

この自動運転を達成するための手法は、各社によって異なっている。自動運転を行うには、まず何らかの方法で外界を認識し、BEV空間(Bird Eye View空間)を構築することが必要になる。外界の状況を仮想空間内に再現をし、その中で走行戦略を演算し、自動車に伝えるということが必要になる。

このBEV空間を生成するのに、必要とされるのがLiDARと高精細地図だ。LiDARで外界を認識し、それをあらかじめ作成された高精細地図を照合しながらBEV空間を生成する。

▲一般的な自動運転は、このような高精細地図を内部に持っていて、LiDARで得た情報を高精細地図に割り当てて、走行戦略を演算する。しかし、この高精細地図のコストが非現実的なものになっている。

 

高精細地図の採用をやめたファーウェイ

ところが、ファーウェイはこの高精細地図の採用をやめた。最大の理由はコストの問題だ。高精細地図はcm単位の精度が必要なため、道路のちょっとした補修、事故処理などで状況が刻々と変わる。一般的なカーナビ用地図の更新頻度は、平均して3ヶ月に1回だが、高精細地図は1ヶ月に1回程度の更新が望ましいとされる。

しかし、高精細地図は測量にコストがかかる。「スマートコネクティッドカー高精細地図白書」によると、1kmあたり1000元のコストが標準ということだ。中国の主要道路は535万kmであるため、測量をするには53.5億元が必要になる。3ヶ月に1回の更新では年に214億元、1ヶ月に1回の更新では642億元(約1.3兆円)もの費用がかかることになる。

もし、L5の完全自動運転を目指すのであれば高精細地図は必須となり、しかも人命に関わる要素であるため、毎日更新するのが望ましい。とても現実的なコストではなくなる。そのため、L4無人運転ロボタクシーは、走行地域を限定して運行を行なっている。

 

地図なし自動運転を採用する中国メーカー

このような問題から、ファーウェイ、小鵬(Xpeng)、理想(リ・オート)は、地図なし自動運転の技術開発を行なった。地図なしといっても、高精細地図をまったく不要とするわけではなく、まずはLiDARでBEV空間を生成し、その精度を高めるために高精細地図を補助として使うという発想だ。このため、必要な高精細地図は需要の大きな都市部のみでよくなり、更新頻度も通常のカーナビマップ程度に落とすことができる。

ただし、その分、BEV空間の生成アリゴリズムは精度の高いものが必要とされる。そのため、ADSは、高精細地図が利用できる都市部、高速道路では90%以上の時間を自動運転が可能になるが、高精細地図が用意されていない郊外などではまだ問題が発生する可能性を残している。

▲テスラは視覚情報だけで自動運転を実現しようとしている。外界の対象物を映像から、走行に関係あるものと関係ないものに分け、そこから走行戦略を演算する。2枚目の写真では停止しているバスは走行に関係ない障害物(赤)と認識され、動き始めたバスは走行に影響する物体(青)と認識されている。

 

テスラは視覚情報だけで自動運転を目指す

一方、さらに大胆なことをしているのがテスラだ。テスラはLiDARをも放棄して、視覚情報だけを頼りに自動運転を実現しようとしている。環境把握もBEV空間を構築するというのではなく、外界の対象物をラベリングしていき、走行に影響を与える要素と影響を与えない要素を仕分けし、そこから走行戦略を演算していく。

考え方としては非常にシンプルなアプローチで、これが可能になると、地図がない場所、つまりは米国だけでなく、世界のどこでも自動運転が可能になる。

一方で、演算量は爆発的に増えるため、テスラは演算チップも自社開発をした。さらには大量の学習データが必要となるため、β版を発売し、多くのユーザーに使ってもらいながら、大量の学習データを収集している。

一定の範囲内を走行する公共バス、地域タクシーなどは、L5自動運転のロボバス、ロボタクシーの実用化が始まっているが、乗用車についてはL2自動運転で「ほぼほぼ自動運転」を目指す方向になってきている。しかし、そのアプローチにはLiDAR+高精細地図、LiDARのみ、視覚情報のみという3つがあり、どれか正解なのかはまだはっきりとはしていない。