ゲームのAIチートプログラムを開発、販売した犯罪集団が摘発された。使用されたのはAIを活用したチートで、FPSで百発百中になるというもの。AIチートの摘発としては中国で初めての事例になると中央電子台が報じた。
チートプログラムを使ってアカウント停止
余さん(仮名)は、FPS(First Person Shooter)を10年近く遊んでいる。米リオットゲームが開発し、中国では騰訊(テンセント)が運営する「VAROLANT」(ヴァロラント)を楽しんでいた。ところが、ある時、ゲームのアップデートがあり、再起動してみると、自分のテンセントアカウントがBAN(無効化)されていて、ゲームを遊べなくなっている事態に直面した。
サポートに問い合わせをすると、理由は説明する必要はないが、最長で10年間、アカウントが凍結されると言われた。余さんには心あたりがあった。チートプログラムを使ったことがあったのだ。
百発百中になるAIチートプログラム
余さんがまだFPSを始めたばかりの頃、チームメイトに凄腕の人物がいた。余さんは憧れて、その技の秘密をチャットで尋ねた。すると、その凄腕の人物はあっさりとチートプログラムを利用していることを教えてくれた。それを使うと、照準が自動で行われるため、百発百中になるのだという。
余さんがネットでゲーム関連の情報を集めている時、AIプラグインというチートプログラムがあることを知った。画面をAIで解析して照準を自動で定めるため百発百中になるというものだった。それを使うと、簡単にゲームランキングをあげることができる。サブスク方式になっていて、利用するには毎月支払いをする必要があったが、余さんは誘惑に負けて、そのチートプログラムを使ってしまった。
しかし、数回使ったところで運営が察知をし、余さんのアカウントは凍結されてしまった。テンセントアカウントは、テンセントが運営するゲームすべてに共通をするものであるため、損害は大きかった。ヴァロラントだけでなく、テンセントのすべてのゲームが遊べなくなってしまったのだ。
チートツールの提供は刑法に触れる
余さんは納得がいかなかった。チートプログラムを開発している側では、運営に発覚することがないとうたっていた。しかし、実際はすぐに発覚をしてしまった。余さんは、復讐なのか、やつあたりなのかは別として、警察に相談をしにいった。
中国の刑法285条第3項では、「コンピューター情報システムへの侵入または違法な制御を目的としたプログラムまたはツールを提供すること」が犯罪だと定められていた。つまり、チートプログラムの開発元は罪に問われるが、それを使った余さんは規定がないため罪に問われることがない。テンセントに対する電子詐欺罪が問われる可能性もあるが、捜査に協力をすれば、大きな罪にも問われることはないようだった。
相談をされた江西省鷹潭市公安の余江区分局のサイバーセキュリティー隊は色めき立った。全国でまだ事例のないチートプログラム開発の摘発ができるかもしれない。しかも、余さんという捜査協力者がいるため、開発元にたどり着ける可能性が高い。
販売のアジトを家宅捜査、浮かび上がった主犯の存在
鷹潭市公安は、余さんとテンセントの運営担当者から情報を提供してもらい、チートプログラムを開発している集団をすぐに割り出した。杭州市の王某が主犯であることも確定をした。自分は開発をするだけで、販売は複数の他人に任せ、販売ネットワークはピラミッド方式になっていた。販売に加担をするものは、代理で販売してくれる人物を見つければ、その売上の数%が入る仕組みになっている。さらに、代理販売をするものはネットで見つけるようにしていたため、万が一の場合は連絡履歴をすべて削除してしまえば、公安が王某にたどり着くのは難しいとたかをくくっていた。
鷹潭市公安、杭州市公安、重慶市公安は合同チームを組織し、販売担当11人の容疑者のアジトを示し合わせて同時刻に家宅捜索と逮捕をし、コンピューター10台、ノートPC7台、スマートフォン11台を押収した。この解析から王某の存在が浮かびあがってきた。
6億円を稼いだAIの専門家
26歳の王某は、AI業界で働いていた経験があり、周りからの評価も高い人物だった。しかし、野心家であり、一夜にして大金持ちになることを望んでいた。当初はAI関連で起業することを考えていたが、ある時、ゲームにAIを利用したチートプラグインの存在を知って興奮した。開発するのはさほど難しくないのに、儲かる可能性が高かったからだ。AIエンジニアの張某を引き入れて、早速チートプログラムを開発した。
売れ行きは非常によく、すぐに売上は1000万元(約2億円)を突破した。その段階で大胆にも起業をし、チートプログラムの保守と改善のために数人のエンジニアを雇用した。さらに販売網も、総代理、一級代理、二級代理などのピラミッドネットワークを構築した。摘発された時点で総売上は3000万元(約6億円)を突破していた。
王某は、AIを学び、この分野で一夜にしてお金持ちになりたいと思って仕事をしてきた。それが違法行為とは言え、現実のものになろうとしていた。しかし、王某にも予測ができなかったのは、利用者が告発をして、ある日突然逮捕されて、すべてが終わることだった。